第43話 激情のボレロじみた地団太

「『頭髪の操作』と『自分の身体と接触した物の起爆』か……私のPSIよりかはショボ臭いな」

「そりゃ生態コードのPSIと比べりゃ誰でもそうじゃん。バケモノと人間を十把一絡げに語らないでほしいじゃんよ」


 煽っているようにも聞こえる言葉だ。ラファエラは意に介さない(フリをする)。


「人間とバケモノを区別する者は、自分の弱さをどうにか正当化したい臆病者と相場は決まっている。天才と凡才を区別する者とも言い換えてもいいか。そっちの方がわかりやすいだろう?」

「く……くくくくく! いいね! 超いいよアンタ!」


 ぞる、と巨大な蛇がのたくるような音。薄暗くて気付くのが遅れたが、ラファエラとアルタ山の間の床に、螺旋のように髪が渦巻いていた。

 それを認識した次の瞬間、逃げる間もなく床が爆発する。花火のような閃光と爆風を伴って。


 直接的なダメージは皆無だが、目が光で眩んでしまう。


「ぐっ……!」

「『接触起爆』! アンタを爆弾に変えちゃったお詫びに一つ教えてあげようじゃん! 私の能力は直接自分の身体に触っているなにかを爆弾に変えるPSIだ! ただし、起爆自体も接触してなきゃできないから『頭髪操作』が無ければ自分自身まで巻き込んじゃうんだけど!」

「貴様!」


 明らかにバカにしている。ラファエラのことを心底軽んじてなければ、こんな明るい口調にはならない。自分のPSIのことをわざわざ教えるのも挑発の一環に思えてならない。


「あははははははははっ! 楽しくなってきたなぁ! やっぱり喧嘩売ってよかったじゃん!」

(……追撃が来ない……? 警戒したのか? いや違う! また姿を消して中距離から爆弾で弄ぶ気か!)


 無理やり目をこじ開け、ラファエラはナワキに指示を飛ばす。


「ナワキ! 爆弾で舞い上がった破片やら土埃やらが邪魔だ! 換気!」

「今は無理だ。そのくらい我慢してくれ」


 ナワキはまだ上空を見ている。攻撃手段よりも、自分たちを追跡する青い鳥の方が興味深いらしい。


「自分の手を晒すのならいざってときに限定しないとな」

「……私は自分のPSIでアイツらを探知してやったぞ」

「それは元から問題にはならない。お前、有名人だからな。ラファエラのPSIの強みも弱みも全部アイツらは知ってるよ」

「……!」


 物凄く冷静だ。挑発のせいでヒートアップしているラファエラには、その温度差が煩わしい。普段はラファエラが正論を言う側なので猶更腹立たしい。

 なので地団太を踏んだ。


「お前の身体能力で地団太踏むと軽く地震になるからやめろ!」

「もういい! ヤツは手加減抜きで殺す! 情報がすべて知られているのなら、私だけは最初から出し惜しみをする必要がないということだ!」


 考えようによってはそれも強みだ。ゲーマーによくある悲しい性が彼女には存在しない。ラスボスにすらエリクサーを出し惜しみするような愚行をする余地がそもそも存在しないというのは、相手がプレイヤーだからこそ通じる利点だ。


 本当に殺していい相手なら、の話だが。


「アイツらを殺したら俺たちも死ぬんだって。追放されるのは勘弁だ」

「……ちっ!」


 相手がこちらを殺す気がない以上、こちらも殺さずに相手を制圧するつもりでかからなければフェアではない。

 そしてラファエラのPSIはだ。手加減をしようとすれば自分のPSIの利点の大半を自分で殺すことになる。


 ままならなかった。


「……アイツを追うのだけは止めてくれるなよ! あと私の邪魔をしない位置からサポートも絶対にしろ! いいな?」

「それはもちろん。ただ時間をくれ。ちょっと準備がいるかも」

「構わない!」


 喋っている時間も惜しい。今は撤退しないことを確認できただけでいい。

 再び姿を隠されたら、今度こそ気絶するまで爆発三昧だ。


 一度は見つけ、そして時間も経っていない。そこまで遠くに逃げられるとは思えない。捕まえるのならば今が最大のチャンスだ。


◆◆


「意地が悪いよたっくん。あっさり姿を現したのってでしょ?」

『おお。流石セノ。頭が回る』


 あと少しで勝てるというときほどに、人は泥沼にハマっていく。

 ギャンブルが一番わかりやすい。連続十回で負けたのだから、次こそは絶対に勝てるはずだ。または連続十回で勝ったのだから、次も絶対に勝てるはずだという錯覚で人はいともたやすく破滅する。


『一度見つけた敵をもう一度見つけるのは容易のはずだ。何故なら見失ってからそう時間が経ってないから。そう思ってくれれば絶対に私を追ってくるはずじゃん』

「聴覚は共有してないから会話はまったく聞こえないんだけど……確かにそうだね。ラファエラの方はたっくんを追ったよ。廃墟の中に突っ込んでいったみたい……早いな。動きが」

『リスクを負った甲斐があったじゃん! あれ? ナワキくんの方は?』

「追ってない。仲間割れって感じじゃないな。作戦ありきで別れましたって感じだよ」

『……まさかセノを探すつもりなんじゃ……どちらかを制圧すれば私たちはそれで負けなわけだし』


 明るい口調だったアルタ山が、急にトーンを落とす。テンションも下がった。セノーは、自分への心配のせいで彼女の心を曇らせたことに胸が痛む。


「……確かに鳥の間断ない補充のために私もそこまで離れた場所にはいないけどさ。大丈夫だよ。そうそう簡単に見つからない。その前にたっくんがラファエラを制圧すればいい。コンビ戦のデメリットがあるのはあっちだって同じだよ?」

『そりゃそうか』

「……ナワキの方は心配しないでいい。なにをするつもりかわからないけど、明らかに場を離れてる。しばらくは脅威にはなりえないと思う。一応、追跡も続けてるし」

『じゃあ予定通り作戦開始。二人でハマってほしかったんだけど、仕方ないじゃん』


 悪童二人が牙を剥く。

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