第11話 二十三区外から来たアイツ! かなり変!
「ボコ殴りって……ていうか遅れて来いって僕、言ったよね?」
「知らん! もう我慢の限界だ。あんなグロ画像見せつけられてかなり頭来てるんだよ!」
ズリ、と地面を引きずる音を響かせ、モンスターがゆっくりと立ち上がる。あまりダメージは入っていないようだ。
肉刺谷は脱力のあまり倒れてしまいそうだ。先ほどの攻撃の正体を、肉刺谷は見ていたから知っている。一部始終ではないが、ナワキの姿勢の変化を最後だけ見ていた。
「ただの蹴りであの巨体を……傾かせただと?」
「PSI……違うな。そんな余裕はなしに出て来たって感じだ。まったく……」
「ツミナ! こいつラファエラの話だと本当強いらしいから、二人じゃないとダメだ! 早く来い! 助ける理由はいくらでも作れるけど、助けない理由は一つもないだろ!」
ツミナの作戦は既に滅茶苦茶だ。もうこうなったら、彼女のやることは一つしかない。
「マメさん。さっき言ったこと全部忘れていいよ。僕たちはアイツを勝手に処分する」
「谷を付けろ……」
「……というか、交渉は僕の望む方向には転がりそうになかったしね。最初から。マメさん僕たちに頼る気がなかったでしょ」
「ッ!」
ツミナは既にモンスターとナワキのことしか見ていなかった。その横顔を、肉刺谷は凝視する。
「あの局面で大したものだよね。拳銃を僕に向けようとしてた。『余計なお世話だクソガキめ』とでも言って脅すつもりだったのかな」
「……」
「プライドかな? それとも僕たちの命の心配か。どちらにしてもどうでもいいや。そういう決断の早いヤツは好きだからさ」
パトカーのバリケードから乗り出し、ツミナは走り出した。肉刺谷がなにかを言いかけるが、整理できずに言いそびれてしまったようだ。
もうここから先は、一つのこと以外なにも考える必要がない。人を傷付ける害獣を狩る。ひとまず今はそれだけでいい。
ツミナはナワキの傍に立ち、モンスターから目線を逸らさず呆れ気味の声を出した。
「キミは決断が早すぎるな。ラファエラはどうしたんだい?」
「こんな些事に手間取られたくないって。さっさと片付けて迎えに行こう」
「そうか。そうだな。やろう」
モンスターは立ち上がり、二人を睥睨する。その視線に二人が臆すことはない。
モンスターの爪が光り、今度は至近距離でPSIの斬撃が繰り出される。
「あらかじめ僕たちの初期ステータス、確認しておいてよかったな」
ざぁん、と空気が切り裂かれる音。先に切りかかられたのはツミナの方だった。だがツミナは余裕の笑みを崩さない。斬撃が途中でストップすることはわかっていたからだ。
何かにぶつかる音が響き、爪が止まる。
「まったくだ。耐久と俊敏に割り振りしておいて運がよかった」
素手で止められていた。モンスターの殺意の象徴。あのバケモノたちに捥がれなかった、今となっては唯一の武器。
それが、赤髪の少年に食い止められていた。
「舐めすぎたな。早い盾もいるんだよ。お返しに俺の親友のあつーい攻撃を食らっとけ」
アスファルトに亀裂が入る。その跡はうっすらと靴跡が残っていた。
モンスターの顔面が、飛び上がった勢いのまま振りぬかれた拳に打ち抜かれる。耳の中に鮮明に響く骨が砕ける感覚に、モンスターは真っ直ぐ立っていられない。
いや、違った。どちらにせよ立つことなど不可能だった。上も下もわからないほど耳がいかれたのかと錯覚したがそうではない。モンスターの巨体が殴られた勢いのまま宙に浮かんでいるのだった。
「はっ……」
「反則じゃないっすか? アレ」
六花が肉刺谷の言葉を継ぐように小さく呟く。
モンスターが飛んだ距離はそう長くはない。だが確かに、間違いなく両足が地面から浮いていた。それをその場にいた、意識のある刑事全員が認識していた。
デタラメすぎる。これが
人間は緑化抑制地帯でも問題なくPSIを行使できるのだから。
「よし。僕とナワキなら問題なくやれるな。僕の能力は筋力と俊敏に割り振りだったから、攻撃役と盾役で分担できる。できるよな……?」
「……いいっってええええええ……!」
さて。爪を掴んで止めたナワキはと言うと、しゃがみこんで痛みに耐え忍んでいた。掌にはしっかり刃物が食い込んだらしく、血がとめどなく溢れて地面へと流れ出ている。
「なんだこりゃあ! 痛すぎるだろ! ゲームでここまで再現する必要あるか!?」
「……できないかも。なんでラファエラを説得しなかったんだい? いたら随分楽になったろうに」
「無理だよ! 俺にアイツを説得するの! にわか知識でもアイツが『やばい』ってことくらいは掴んでるだろ?」
「……あー……」
ナワキが無理だと言うのなら恐らく本当に無理だったのだろう。ツミナはそれきりラファエラ関連の追及をやめ、切り替えた。
「じゃ、ひとまず盾役よろしく。僕がタコ殴りにするからさ」
「一応言っておくがPSI関連の攻撃はPSIでしか防げないぞ。今の俺たちは生身だからそれに関しては……」
「今防いでただろう」
「……あ。本当だ。防げてたな……もしかしてコイツの能力って……」
遠隔斬撃しか使えない。少なくとも現時点では。そう考えるとしっくり来る。
しかもあの能力は、飛ばした後の斬撃が高威力だったとしても爪本体の切れ味に関しての増減はしないのだろう。そうでなければ流石にナワキでも防げなかったはずだ。
――油断は禁物だとは言え、だ。
またしてもPSIが籠り、薄く光る爪が迫る。今度は真っ直ぐナワキに対して。
それをナワキはまた受け止めた。耐久値を高く設定したため、この程度であれば受け止めに苦労はしない。
凄まじい激痛ではある。そして、ナワキ自身の攻撃力はたかが知れている。だが――
「負ける気がしねぇな。初陣はこうでないと」
「なんだ。痛くなくなったのかい?」
今は隣に、親友がいる。姿形が変われど、それは変わらない。
またモンスターに鉄拳が叩き込まれた。
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