第7話 粋なリバイバー! SSRは危険な少女!
「これは……凄いな。あのNPCは本当に、イベント用だから中に人が入ってる特別性なんじゃないかと疑ってたけど」
警戒を解き、ツミナは数歩だけラファエラに近づく。牢が元々『二人だと少し手狭』となる広さだったので、数歩でもかなり短い距離だ。
「わざわざ出るかどうかわからないガチャキャラに人を入れるメリットはない。手間はかかるしデメリットだらけだから。だけどこれは!」
「……あまり無遠慮に近づくな。突き飛ばしたくなる」
「ん……?」
ツミナは片方の眉を上げた。
「割と最初からツンケンしてるなあ? どうでもいい人間にこそ優しくするタイプだと思ったんだけど」
「……貴様らは私のことを知っているのか?」
「僕は伝聞でしか。直接知ってるのはキミを……ええと、あのさ。キャラを呼ぶことをこのゲームではなんて言うんだ? 召喚?」
段々冷静さを取り戻してきたナワキは、殴られたときに打った尻もちをさすりながら立ち上がる。
「
「疑問だったんだけど、なんで超能力ガチャでキャラが出て来る?」
「簡単に言うと、クリティカルコードは剥き出し状態のPSIなんだ。それ単体だとなんの意味もない。誰かが使って初めて超常現象が起こる。俺たちはクリティカルコードを使って後天的にサイキックになってるに過ぎないんだよ。それでも素質は必要なんだけど」
完全に平静を取り繕い、ナワキは目の前のパーティドレスの少女を見る。容姿も声もすべて、ナワキが知っている通りのように見えた。
あのラファエラが目の前にいて、しかも興味深げにこちらを見ているという事実がとにかく心臓に悪い。夢を見ているかのようだった。
ただし、ラファエラが興味を持っているのは身の周りの状況すべてなので、頻繁にツミナの方も眺めるのだが。その間だけナワキは心底ほっとする。
「PSIガチャで出て来るキャラはすべて生態クリティカルコードっていう、先天的にPSIを持った純粋サイキックだ。それも普段PSIガチャから排出されるクリティカルコードみたいな断片情報じゃなく、完全な状態の文字列を体のどこかに刻まれている。遺伝子だったり体表だったり内臓だったりと場所はさまざまだけど」
「私の場合は背中だ。恥ずかしいから露出度の高い服は着ないぞ?」
補足し、ツミナに背中を見せる。確かに今は全身ドレスに身を包んでいるので、肌はほとんど露出していない。あくまで場所を教えただけだった。それでもツミナは目を煌めかせていた。
「説明、続けるぞ。生態コードの連中は道具なしでPSIを使えるって点で今の俺たちよりまともなサイキックだが、まともじゃない特徴が色々ある。一番顕著な特徴は死なないってことだ」
「死なない?」
「正確には死ぬことには死ぬが、時間をかけると勝手に
ツミナはすかさず現状との齟齬に気付いた。こういう察しのいいところは本当に尊敬に値する、とナワキも思う。
「……今はナワキが蘇生させた……よね? ガチャで」
「このゲーム中でのガチャの設定はこうだ。かつて存在した超常の力であるPSIを、特殊な鉱石と人類の英知で呼び出す禁忌の行為。当然、かつて存在したPSIの中にはラファエラを始めとした生態コードの使うPSIもある。だが生態コードを呼び出したら、ラファエラも呼び出すことになる。何故なら――」
「私たち生態コードは存在自体がPSIそのものだから」
遮るようにラファエラが続けた。今度はツミナの方を見て、不審そうな目線を向ける。
「……貴様、そっちの金髪女子の方。サイキック独特の気配は隠せてないからまず間違いなくサイキックだな? しかも技術はともかく知識の方はド素人と来た。なんでわざわざこんな基本をつらつら聞いている? 今までどうやって生きてきたのだ?」
「え、えーと」
「それと、ゲーム中での設定とはなんだ? なにかの符丁か?」
「……やっぱりキミもそこに触れることができるんだなぁ」
ゲーム中のNPCとしてはタブー中のタブーの概念を、ラファエラは単なる好奇心のみで訊ねてみせる。しかも嬉々として、楽しそうに。
やはりゲームNPCとしては不自然中の不自然だった。
「まあ、幼馴染二人の間の合言葉みたいなもの、かな?」
「幼馴染……恋人とかではなく?」
「違うわ!」
とナワキが否定すると、ツミナもそれに乗っかった。
「僕もう恋人いるし」
「なんと!」
「キミと同じくらい可愛い彼女だよ」
「そっちの趣味か!?」
「……」
――まあ、この姿形ならそういう解釈にもなるよなぁ。
二人して同時にそう思うが、口には出さない。当のツミナはアンニュイな笑顔で誤魔化していた。
そして、この短いやり取りの中にも隠し切れない生々しい反応。少しスピリチュアルな言い方をするなら、表情にも声にも生命力が溢れていた。
「……ともかく、ナワキ。PSIは揃ったし、その気になれば脱獄もできそうだけど、どうする? あの刑事は
「正式な手続きを踏めば出れるんだ。わざわざ脱獄して手配度を上げる必要はない――」
バガァァァァァァァァァアン!
そんな耳をつんざくような轟音が響いた。牢だけではなく、おそらく建物全域に。
「ここは狭いな。場所を移そう」
「……」
「喜ぶがいい。私は貴様らに興味があるぞ? お喋りの続きは外でしよう」
「あっ……!」
檻がひしゃげて壊れていた。出入口部分が重点的に。
ラファエラが振り向き、屈託のない笑顔を向けている。どうやら二人がこの先どうするかを話しているその隙に、彼女はドアを蹴破ったらしい。
状況を見ればそうとしか見えないが、あまりのことに理解を拒むツミナはわざわざそれをラファエラに訊ねる。
「……ちょっと待って。キミ、その檻をどうしたんだい?」
「この程度なら蹴りで壊せる。流石に少し頑丈だったな。二回蹴らずに済んでよかった」
「蹴りか……蹴りかぁ……この子のPSIって身体強化かなにか?」
「違う。対PSI加工をしていない現実的な物質はサイキックの通常攻撃でも簡単に壊せるってだけだ。俺たちでもレベルを上げれば、多分檻は壊せる……壊せるけどさぁ……」
ナワキは頭を抱える。現状では五十回程度攻撃しなければ無理だったろう。つまり、今のラファエラの基礎ステータスは、単純計算でナワキたちの五十倍以上ということだ。
これで起き抜けだというのだから恐れ入る。
「……マメさんとは仲良くしたかったんだけどなぁ」
「どうする。手配度がまた上がるよな? 僕はそれでもかまわない、けど……?」
ツミナが会話の途中で、口を引き結んだ。
「どうした?」
「手配度が上がってない」
「は? そんなバカな……」
ナワキも確認する。こんな破壊をしておいて、手配度が一つも上がらないというのはありえない。だがナワキのステータスの手配度も、檻に入れられたきり下がったままの最低値だった。
目を上げ、そして更なる異変に気付いた。
「……あれ。そういえば、結構まごついてるのに誰もここに来ないな?」
「ここは警察署か? こんなところに入れられるなんて、一体貴様らなにをやらかしたのだ。まあ、どうでもよいか。それより」
ラファエラが檻の外に悠然と歩きだし、廊下で立ち止まって耳を澄ませた。
「私が
「……」
二人はそこでやっと気付いた。それどころではなかったから耳に入らなかっただけだ。
警察署の外で破裂音が連続している。
「銃撃戦……? セーフティなのに?」
「ナワキ! 行こう! なにか楽しそうなことが起こってる!」
無邪気なツミナが先行した。
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