第5話 世界観と書いて『本題入りタイム』と読んで欲しい

「今度は盗み聞きはなさそうか?」

「平気。気配は完全に消えたよ。別の仕事に行ったのかもね」


 ツミナは檻越しに周囲を窺い、軽く息を吐いた。


「そろそろ本題に入ろう。この世界はどうなってるんだ? 街並みは基本的に現実の東京準拠だけど、あちらこちらに木が生えてたり、そうでなくともアスファルトから草がボーボー生えてたりとか、そこら辺の建物の壁が苔むしてたりとかありえないだろう?」

「どこから来た?」

「ちょっと一人で歩いてみたいと思って原宿からだよ」

「セーフティゾーンのかなり端だな……渋谷まで行っちゃうと完全にモンスターのテリトリーだったぞ」


 ゲームの開始地点は日本に点在するセーフティゾーンのいずれかだ。大きなものは東京、大阪、北海道、愛知の四つとなる。そのいずれかを選び、詳しい地点を細かく指定してゲームスタートだ。


「そうだな。まずはクリティカルシリーズ全体の説明。この世界はPSI……つまり超能力が人々の知らない裏の世界では実在している、という設定だ。作品ごとの繋がりはパラレルワールドだったり数年後の未来だったり過去だったりとマチマチだけど、この点だけは揺らがない。SFがシリーズ全体の基本設定だと覚えておいてくれ」

「……裏の世界では、ってことは。あれだよね。つまり少年漫画のフォーマットでよくある『日常の裏で誰にも知られない激闘がひっそりと』ってヤツ」

「まさにそれだ。だけどまあ、御覧の通り。今回のクリティカルシリーズ最新作、クリティカルコードだと話が別になった。


 ナワキの説明を受けたツミナは、檻の外の世界のことを思い出す。

 尋常ではない緑だった。アスファルトが砕けて下から雑草が伸びているのではない。アスファルトに直接、緑が生えていた。まるで絨毯を敷いたようにムラはなかったと感じる。

 そこからツミナは一つ推測することができた。


「……人類が滅んだ後、手付かずになった都市が緑化したって感じじゃないよな。どう見ても建物や道路の手入れそのものは行き届いてる。なのに、緑が生えてるんだ。つまり緑化は滅んだから起こったんじゃない。緑化そのものが滅びを招いた?」

「正解。今俺たちが立っているこの世界の現在より四十年前、サイキックと世界が大々的に戦った。激化した戦いは五年続いて……その内、戦場の内の一つでしかなかった日本に変化が起こったんだ。爆発的に植物が成長し始めたんだよ。それもアスファルトや鉄筋コンクリートの建物、首都高などの巨大な道やら橋やらから直接生えるような異常な植物がな」

「そんなふざけた植物なら……」

「人間を始めとした動植物にも生えたんじゃないか、だろ? 生えたよ。もさっと」


 かなり深刻なことを、あっさりとナワキは言ってのける。


「当然だけど、こんな異常が起こることは通常ありえない。基本的な法則は、ちゃんと現実に則してたからな。つまり、こんな異常を引き起こせるのならそれはサイキック絡みの何かでしかありえないってことだ」

「じゃあ、この日本を緑化した犯人はサイキック? 具体的に誰なんだ?」

「不明。なんの意図があったのかもわからないままだ。ゲームを進めてればそこを調べることもあるかもな? さて。ここから先が俺たちの現状に関わってくる」


 ナワキはポケットから、スマフォ状のデバイスを取り出した。スイッチを押して画面を発光させ、ツミナに向ける。


「俺たちプレイヤーは来訪者ビジターだ。セーフティゾーンの外から、セーフティゾーンの中へと入ってきた、ということになっている。では来訪者ビジターとはなにかというと……これを使えるヤツらさ」

「このデバイスか?」

「詳しいやり方はすぐに説明するが、これは誰でも使えるものじゃない。PSIの才能を持っているヤツにしか使えないんだ。これを使えるヤツが、この作品中でのサイキックということになる。それで、さっき言ったよな。この世界を滅ぼしたのがサイキックだって」

「……ああ。なるほど。それでさっきの、あの態度……」


 ツミナはようやく得心がいった。この世界のサイキックは全体的に差別を受けているのだ。差別から逃れるために、わざわざセーフティゾーンの外で集落を作って暮らしていると考えれば辻褄は合う。


 普段はセーフティの外で暮らし、何か用事があってセーフティの中へと入ってくるサイキック。それが彼らの言う来訪者ビジターだ。


「それじゃあ、早速やってみよう。わざわざお前を待ってたんだからな」

「……何の話だい?」


 ツミナはデバイスを取り出しながら問いかける。


「この世界でPSIを使うためには、まず超自然現象を引き起こす特殊な文字列……クリティカルコードが必要なんだよ」

「ん。タイトル回収。重要アイテムなのか」

「そう。で。そのクリティカルコードを手に入れる方法が、このデバイスだ」

「なにをすればいい?」

「ガチャ」

「ここで!?」


 流石にツミナも声大き目で叫んでしまった。


「まあゲームだからなぁ」


 ナワキも思うところがあるのか、苦笑いしながら肩をすくめるばかりだ。

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