第2話 アリス

 君は悪魔なのか?


 普通なら恥ずかしくて仕方がない質問であったのだが、そう聞かずにはいられない姿、形、容姿というものがそこには存在していたのである。


 ハロウィンなどで良くみかけるコスプレ衣装とは比べものにならないほど良くできた羽……いや、翼というべきなのだろうか?


 この翼を分かりやすく例えなさい。という問題がテストで出たとしたら、コウモリのような羽です。としか答えようがないだろう。骨組み部分は黒く、翼の内側は灰色で、骨組み部分の先端には小さな角が生えている。とても作り物とは思えない程の出来栄えなのであった。


 悪魔なのか?という奇妙な言葉を口にした和斗であったが、アリスから返ってきた言葉もまた奇妙な言葉である。


 魔王軍。


 召喚。


 魔王サタンの娘。


 そして…自分かずとをここに呼んだ理由は、魔王軍復興の為にこれから働いてもらう為だ。という訳のわからない理由。


 和斗が呆然としてしまうのも、無理もない話しでだろう。


(復興?魔王軍?いやいやいや。話しが全くみえてこないんだが…)


 自分はさっきまでいつも通り部屋でゲームをしていただけなのだが…しかしこの部屋は先ほど確認したように自分の部屋ではない。


 ど、どうなっている?と、和斗は内心焦っていた。


 言うまでもなく、輝基和斗は普通の高校生である。少し長目の黒髪。身長は175cmで体重は60kgあるかないか。部活をしていないからか遺伝的なものなのか、肌は他の高校生に比べてやや白く、華奢な身体なのも部活をしていないからなのか遺伝的にそういう身体付きになるのか、とにかく。勉強ができて運動は少し苦手な高校生。


 和斗に似たような高校生など星の数ほどいる事だろう。つまり輝基和斗という高校生、いや人間は、世界を見渡してみても何処にでもいる普通の高校生でしかないという事だ。

 

(………………)


 アリスからの提案なのかお願いなのか良く分からない言葉に対し、どう返事を返そうか?と、和斗は戸惑ってしまっていた。


(悪魔です。という言葉が本当かどうかは現時点では分からないが、しかし…仮にそれが本当だとするなら…俺は……死んだのか?)


 "死"という単語に、少しだけ顔を青く染める。


(……死……か)


 そもそも仮に死んだのであれば、悪魔が自分の目の前にいるというこの現状…つまり、輝基和斗おれは死んで地獄行きになった。というわけだ。


(くっ…な、なぜだ…)


 地獄行き。


 そんなに自分の人生はいけない事だらけだったのだろうか…?


(…いや、アレはそんな大した問題ではないだろうし、そもそもアレをしたから帳消しだろ?いやいや…帳消しって俺は何を言ってる?普段からそんな事を考えながら生活などしていないだろ?し、しかし…現に地獄に来てしまっているのだから……)


「……………。」


 若干パニックになりかけている和斗。そんな和斗とは違い、両腕を組んだ姿勢のアリスは目を瞑り、何かを考えているようであった。


「…肝心な事を忘れていたわ」


(……!?よ、良かった。どうやら俺の気持ちに気付いてくれたようだ)


 訳がわからない。という自分の気持ちに対し、どうやらアリスは気付いてくれたようだ。と、内心 ホッとする和斗。


 そんな胸を撫でおろす和斗の目の前で、アリスは組んでいた両腕を解き、右腕を真っ直ぐコチラに伸ばした状態(人差し指を突きたてる→いわいる犯人はお前だ!状態)と共に、自信満々な表情で断言する。


「アンタの名前をまだ決めてなかったわね」


(…いや、そこじゃないだろ。アリス…)


 右手をアゴにあてながら、アリスはブツブツと呟き始めた。


「ゴン三郎…ゴンザレス…ゴン3世…ゴンゴン…ゴンゴン!?うん!ゴンゴンにしましょう♪」


 アリスは満面の笑顔を和斗に向ける。


 その表情は、ニパーッ!!と今にも聞こえてきそうなほど、晴れやかな表情であった。


(なんでゴン〇〇しかないんだよ!だ、大体、ゴンゴンなんて擬音じゃねーか!)


 再度、心の中でツッコんでしまった和斗は慌てながらアリスに意見をする。


「いやいや、待て待て!俺には輝基和斗という、ちゃんとした名前があるんだ」


 和斗はアリスの提案?意見?を、全力で否定した。


(ゴンゴンなんて、そんなペットだかタンスに入れるヤツみたいな名前をつけられてはたまらん…というより、何でコレ以外考えられません!みたいな表情をうかべてんだよ)


 和斗の提案を聞いたアリスは、テルモトカズト…カズト…変な名前ね?と、そんな事をブツブツと呟く。


(ゴンゴンよりかは、まっしだ!!)


 そんな和斗の思いは届かずというか、聞き入れる気配すらみえないアリスは、両腕を組みながら一つうなずくと「うん。わかったわ!ゴンゴンにしましょう!」と、再度ゴンゴンを推してくるのであった。


「な、何を分かったんだよ!!」


 そこだけはゆずれない!というより話し聞いてんのか?と不思議な気分になる和斗は、この後アリスと10分ほどもめるのであった。


 ーーーーーーーー


 10分後。


「あぁ、もぉ!分かったわよ!!カズトって名前でいいわよ!!!」


 不機嫌オーラ全開ではあるものの、どうやらアリスは納得?妥協?してくれたようだ。


 その態度を見た和斗は文句の一つでも言ってやろうかと思ったのだが、またもめる事になるかもしれないし、一応アリスは納得したようなので我慢する事にした。


 私のしもべの分際で生意気な!っと聞こえてくる声も我慢だ我慢。と、己に言い聞かせる。


 そんな事よりもだ。


 これから肝心な事を聞かなくてはいけないのだから、そんな事でもめている場合ではないだろうと自分自身に言い聞かせ、アリスに質問をする事にした。


「なぁアリス。復興とか魔王軍とか…その変の事がいまいち理解できないんだが」


 というより、今のこの現状が全く理解できていない。


「そうでしょうね。馬鹿なアンタにも解かりやすく、今の魔王軍について…いえ、この世界について詳しく説明してあげるわ」


 アリスはカズトの顔を覗き込みながら、真剣な表情で語りはじめた。


 若干、イラッとしたものの(特に馬鹿なアンタと言う言葉に)和斗は黙ったままアリスに続きをうながした。


 アリスは得意げな表情と得意げなポーズ(右手人差し指だけをピンっとたて、左手を腰にあてるポーズ)で語り始める。


「さっきも言ったとおり、ここは魔王サタン城。そして私は王女。つまりここで一番偉い人ってわけ。あっ!ちなみに魔界に一番近い町サタンシティーとしても有名な所ね。いい?新鮮な魔界魚が食べられるのは、この街だけなんだからね!」


「……いや、観光スポットとかはいいから、まずはこの世界について聞かせてくれ」


 この世界について。と、自分で言ってて頭痛を覚える和斗。


 まるで、この世界が先ほどまでいた世界とは異なる世界であると、自分が認めているかのような言い方だからであった。


 俗に言う"厨二病発言"ってヤツだ。


「は?観光スポットを聞かないとかマジありえないんですけど。魔界魚よ?魔界魚…まぁいいわ。まずは私たち魔王軍の役割りについて説明しましょうか」


「……頼む」


 何が役割りだ魔界魚だ!馬鹿にしやがって…と、内心では鼻で笑っている和斗であったが、話しは最後まで聞くと決めていた為そう答えた。


「私達はこの街でとても重要な役割を担っていたんだけど…つい最近、忌々しい勇者軍にブラッククリスタルを奪われてしまったの」


「ブラッククリスタル…?」


 初めて聞いた単語に和斗はそう呟いた。


「そう!ブラッククリスタル。別名、黒い宝石とも呼ばれているわ」


 自分の説明を聞いた和斗の反応に満足したからなのかは分からないが、晴れやかな表情でアリスは答えてきた。


「そのブラッククリスタルって、そんなに大切な物なのか?」


 和斗は再びアリスに尋ね、尋ねられたアリスはグイッと身を乗り出すかのような勢いで和斗に詰め寄ると、真剣な表情で語り始める。


「いいカズト?そのクリスタルは色々な生物の負の感情を吸収、または与える事のできるこの世界に一つしかない貴重な宝石なの。そのクリスタルがないと大変な事がおきてしまうと、言い伝えられていたのだけれど…」


 何かを思い出したのか、アリスの表情が初めて変わった。


 いや、正確には、先程から怒ったりキョトンとしたり晴れやかな表情になったりと、コロコロ変わっていたので、初めて暗い表情に変わった。と、言い直しておくべきか…ともかく、アリスのその表情は悔しくて苦虫を嚙み潰したような、そんな表情に見えたのは決して気の所為ではなかったはずだ。


 そんな暗い表情をしているところを自分かずとには見せたくないと思ったからか、思い出した事を忘れようとしたからかは分からないが、アリスは頭を左右に振り、顔をあげて再び問いかけてきた。


「…ねぇ?カズト。例えば、人間の負の感情をずっと吸収できないと人間はどうなると思う?」


 問われた和斗は考える。


「アンタ自身に置き換えてもいいわ。嫌な事があったとして、それが何日も…いえ、何年も続いたとしたら、アンタならどう?」


 アリスは再度カズトに問いかける。そこまで言われ、和斗は一つの答えにたどり着いた。


「病にかかる…?」


 実際、負の連鎖、負の病といった言葉がある。和斗はその事を思い出し、そう答えたのである。仮に吸収=発散出来ないと結びつけるのであればの話しだが・・。


「まぁ、半分正解ね。病にもかかるだろうし…なら、その原因が誰かのせいだって事が解ったとしたら?」


「…あ、争いがおこる!?」


 アリスが何を伝えようとしていたのか、和斗はようやく理解した。


 和斗の頭の回転の速さに気を良くしたのか、あるいは自分の説明が上手かったと自己満足しているからかは分からないが(恐らくは後者)アリスは嬉しそうな表情を浮かべながら、和斗に再度質問をしてきた。


「その通りよ。いいカズト?そうならないようにするためにも、アンタには今日からそのクリスタルを取り戻す為、魔王軍の…いえ、私の下で働いてもらうわよ」


 それは質問というよりも、命令であった。


 アリスの言葉足らずの部分は、持ち前の頭の良さでカバーする和斗。


 どうやらアリスたち魔王軍と呼ばれる謎の軍団は、そのブラッククリスタルを使って人々の負の感情をコントロールする役割りを担っていたのだが、ある日勇者と呼ばれるこれまた謎の軍団に取られてしまった(それを奪われたのか盗まれてしまったのかは今の話しからでは分からない)らしく、どうやらそれを取り戻すのに手を貸して欲しい…いや、手を貸せ。と、言っているのだろう。


(いや、コントロールって…何だよ?おい)


 ともかくアリスの言っていた復興とは、そういう事だったのかと、復興についてはそれとなく理解したのだが、まだ解らない事は山ほどある。


 和斗は、アリスに質問をする事にした。


「な、なぁ…そんなに大切な物ならどうして勇者軍に取られないようにするなり、勇者軍と話し合うなりしなかったのか?」


 どう考えても、可笑しな話しではないか。


 争いを無くす為の大切な宝石が勇者にというのだから、な?可笑しな話しだろ?と、和斗は自分で自分に問いかける。


 勇者とは英雄ヒーローである。


 これは、全世界の共通認識と言っても過言ではないはずだ。


(勇者が盗みってそんな可笑しな話しが…いや、こんな馬鹿な質問はなしをしている時点で可笑しな話しなのだがな…まぁ、とりあえずアリスから一通りの話しを聞いておくとしよう)


 一通り話しを聞くという行動はロープレの基本である。いや、現代社会においての基本だと言い直そう。


 なぜなら現代社会とは情報社会なのだから。


「…………」


 和斗からの質問をうけたアリスは、急にうつむいてしまった。そして、涙声になりながらも和斗の質問に答えてくれた。


「私は…その場に居なかったから…後から聞いた話しになってしまうのだけれど…。お父様はあっという間に倒されてしまったと部下から報告をうけたわ。話し合う間もなく倒されてしまったのか、話し合ってから倒されてしまったのかは解らないけれど…」


 勇者なら話し合った場合、倒すという行動はとらないだろう。と、和斗は思った。


 まぁ、勇者と呼ばれる者が、アニメや漫画、ゲームやラノベなどで出て来る登場人物であるならばの話しだが…。


 いや、だから勇者って何だよ。と、心の中でツッコむ和斗。


「…………」


 しばらくの間、短い沈黙が流れた。


 アリスが泣いているのかどうかは、うつむいてしまっているため確認出来ないのだが、落ち込んでいるというのは流石に分かる。


 そんな状況で新たに質問をするほど和斗は人でなしではない。


 アリスが顔をあげるまで待っておくか。と、考えた和斗は、ここまでの事を頭の中でまとめ始めた。


(まぁ、良く出来た設定なんじゃないだろうか?ようは勇者軍と魔王軍とでチーム分けをし、ブラッククリスタルという玉を取って制限時間まで確保していれば勝ち…つまり俺は、サバゲーをやらされそうになっているということな…のか?)


 サバイバルゲームでサバゲー。


 これはゲームというよりスポーツである。


 サバゲーのルールは多数あり、全てのルールは流石に長くなるので割愛させて頂くとして、サバゲーを簡単に説明するならば、おもちゃの銃を使い、相手を全滅させるか敵陣地からフラッグ(旗)を自陣に持ち帰るかで勝敗が決まる…簡単に説明するならこんなところだろう。


 アリスの話しからして、今回はフラッグの変わりがブラッククリスタルと呼ばれる玉…おそらく水晶玉という事ではないだろうか?つまりはフラッグ戦をやっていて、加勢せよ!と、いう事ではないかと和斗は考えたのだが、いくつかの矛盾が発生している事にも気付いた。


(いや。しかし、アリスは悪魔だと名乗った。悪魔軍と勇者軍に別れているのだから、悪魔だと名乗るのが普通なのかもしれないが…しかし、アリスのこの格好の説明がつかなくないか?)


 アリスは漫画やアニメなどで見かける悪魔の翼があり、服装はボンテージ服みたいな服を着ている。


 露出度が高い服だという事は言うまでもない。サバゲーをする者なら絶対にあってはならない格好だ。


 サバゲーで使用するのはおもちゃの銃だとしても、使用する弾はBB弾と呼ばれる小さな弾かペイント弾と呼ばれる特殊な弾であり、地肌に触れれば痛いし、目にあたれば失明する危険性すらある。


 アリスの格好だけを見て考えると、サバゲーをやらされている。という考えは間違っているという事だ。


(か、仮に、仮にだ。アリスの話しを仮に全て信じるとした場合だが……)


 ゲームをしていた自分。


 気づいたら知らない場所に知らない少女。


 少女は悪魔だと名乗っており、自分を召喚スカウトしたと言っている。


(は、ははは。つ、つまりはアレか?俺はゲームをしている途中で死んでしまい、地獄に落とされたという事なのか?)


 人は死んだら無に還る。人は死んだら新しい生命として生まれ変わる。などなど、死んでしまった後の世界、死後の世界については様々な諸説がある。


 しかし、この問いに関しては、永遠に分からない問いではないだろうか?いや、死んで初めてその問いに関する解が得られるのだから、分からない問いではないのかもしれない。


 誰にも伝える事が出来ない問い。


 こう例えるのが妥当なのかもしれないな。と、和斗は考えた。


(ははは。それにしても魔王サタンをあっという間に倒してしまうなんて、勇者軍はどんだけ強ぇんだよ。で?そんな連中からクリスタルを取り返すだって?いやいや、無理にもほどがあるだろ…って、ん?待てよ?つい最近、何処かで見た…いや、聞いたような…やったような…いやいやいや。ないない)


 先ほどまでやっていたゲームの事を思い出したのは、気を紛らすのが目的だったのだが、何やら引っかかりを見つけた和斗は心の中でツッコンだ。


(ま、まさかだろ?馬鹿なのか、俺は…笑)


 ま、まぁ一応、はっきりとさせようではないか。と、考えた和斗はアリスに質問をする事にした。


「なぁアリス?その勇者の名前ってわかるのか?」


「え、えぇ。勇者の名は"テト"っていう名前らしいわ。魔法も剣技も武術も、全てにおいて超一流。伝説の勇者とまでいわれている忌々しいヤツよ」


 アリスは、グギギギっといった感じであった。


 しかし、その名前を聞いた和斗はというと、パニックであった。


(いやいやいや、偶然、偶〜然、名前が被っているだけ。そうだろ?)


 和斗は状況を頭の中で再度整理する。


 さっきまでゲームをしていた俺は魔王サタンをあっという間に倒した。勿論ゲームの中の話しである。そして偶然にも、勇者の名は"テト"という名前だ。


 自分がつけたテトという名前は特に深い意味などなく、自分の名前の最初のと、最後のをつけただけである。


 そもそも名前がかぶっているのは変なのだろうか?それこそ、そんな事を言ってたらきりがないのではないだろうか?そ、そういえば飲み物を取りに行く直前で見たエンディング画面には、勇者が黒い玉を持っていたような気が…いやいやいや、偶然、偶然だろ?


 もし仮にそうだと仮定した場合、この世界はさっきまで自分がプレイしていたゲームの中という事になり、つまりここはゲームの中だということになる。


 そんな馬鹿な話しがあるものか!アニメや漫画じゃあるまいし。


 TV画面のWARP?という文字…召喚したというアリスの言葉…いやいや、ないないないないない。


 異世界転生や異世界召喚、または転移する・・。アニメやラノベ、ゲームや漫画には確かにそういった話しがあるが、あくまでそれは空想の世界の話しだろ?


 空想…そ、そうか!夢だ夢!夢なら全ての説明がつくぞ!ん?いや、待てよ?アリスにさっき殴られたが…痛かったよな?


 と、そこまで考えた和斗は、アリスにお願いをする事にした。


「な、なぁアリス。悪いんだが‥ほっぺたを軽くつねってくれないか?」


 夢であってほしいと願いながら、確認の意味をこめてアリスにお願いをする和斗。


 もしも夢で無かったらなどとは、考えたくもない。


 若干、元気がない和斗に対し、アリスは不機嫌丸出しで返事を返す。


「は?嫌よ。なに?アンタってマゾだったの?」


 かなり引き気味で、アリスが距離をとり始める。


「…ち、違うわ!!」


 人の気も知らないでコイツ…と、思いながらも仕方がないので、和斗は自分で自分の頬を引っ張って夢なのかを確認をした。


(……!?う、嘘、だろ?)


 やはり夢ではなかった。


「お、おい!アリス!ここはどこだ!」


 和斗は完全にパニックになった。


「は?だからさっき魔王城だって説明したじゃない!話し聞いてなかったの?」


「いや、だから、そうじゃなくて、だな…い、いいか!よ、良く聞け!俺は…俺はこの世界の人間じゃないんだよ!!」


 少し変な言い方になってしまう和斗であったが、パニックでそれどころではない。


 いきなりこの世界の者ではないと言われたら、頭大丈夫?と、心配されるのがオチだろう。


 しかし、そんな事を考える余裕が今の和斗にはなかったのである。


 それほどまでに和斗はパニックになっていたのだ。


「は?当たり前じゃない。私が召喚魔法で呼んだんだから」


 そんなパニックの和斗に対し、アリスはドヤ顔で答えてきた。


「ふっふ〜ん。この魔法を使えるのは、この世界では私だけなのよ♪」


 アリスは超ドヤ顔である。


 右手人差し指をたて、チッチッチ。と、言いたげな感じで答えるアリス。


(う、うぜぇ…。と、とにかく、アリスはほっといて状況を整理しておこう)


 馬鹿げた話しなのだが、どうやら自分は何処かに、転生、あるいは転移。いや、アリスの言葉を使うなら、召喚されたらしい。


 痛みを感じるという事は、死んだ訳ではないのだろう。


(つまり、最後のワープ?と言う問いは、この世界にワープしますか?という意味だったのだろうか・・)


 だとするならだ。この世界はさっきまでプレイしていたゲームの中なのかもしれないという考えが、現実味を帯びてきたということになるのではないだろうか?


 無論、和斗に確証はないが、勇者テトという人物。召喚したというアリスの言葉。エンディングで見た映像。ワープしますか?という問いかけなどなどから、ゲームの中に来たと考えれなくはない。


 そう考えれば、今まで感じた疑問が全てが解決されるのだが、もしその考えが正しいのであれば、魔王サタンを倒したのは勇者テトであって勇者テトではない。


 その勇者テトを操作していたのは和斗であって…つまり、アリスの父親を倒したのは、和斗だということになる。


(いや、待てよ?普通に考えて、父親の仇である俺を召喚するだろうか?)


 普通に考えたら、召喚ということ自体を考えないだろうがな。と、小さく呟いた。


 そう思った和斗がアリスに対し、何と質問をするのが一番いいのかと、迷っていた丁度その時であった。


 ドゴォーーン!!


 突如、激しい爆発音が鳴り響いたのである。


 激しい爆発音と共に、激しく揺れる建物。


「い、いったい何事よ!?」


 アリスが叫ぶ。


「じ、地震じゃないのか?」


 アリスの疑問に対して和斗が答えると、突然、バン!っと扉が開いた。


「う、嘘…だろ?」


 カズトが扉の方へ振り向くと、一頭のリザードマンが慌ただしく部屋に入って来たのである。


 そしてそれは、再び和斗がパニックになる要因の一つであった。


「ハァハァ…し、失礼致します!ア、アリス王女様!て、敵襲であります!!」


「は?敵襲ですって!?」


 部屋に入ってきたリザードマンは息を切らしながら、右膝をつき、右拳を床についてアリスに報告する。


(しゃ、喋った⁈)


 驚く和斗の気配を察したからなのか、部屋に入った時に気づいていたのかは分からない。チラッと和斗を見たリザードマンだったのだが、コイツは何者ですか?などと、話しをしている場合ではないと思ったらしく、直ぐにアリスの方を向いた。


 やはり…"あの"リザードマン。つまりここは、ゲームの世界なかなのか?と、和斗はよく目にしていたリザードマンを見ながらも考えていた。


 一方、報告を受けたアリスは、リザードマンの言葉に耳を疑ってしまっていた。


 冒険者が、自分の父を狙ってここに来る事は確かにあった。


 狙われている理由は分からない。


 それを、父であるサタンは最後まで決して教えてはくれなかった。


 部下達からは、自分達のレベルアップの為ですよ。などと言っていたが、果たしてそうだったのだろうか?今となっては真相は闇の中である。


 とにもかくにも今現在、魔王城のボスはアリスじぶんである。


 父が不在の今、自分が何とかしなくては…というより、父が不在になったまさにそれを狙ったかの如く、敵が攻めて来た。


 それは…つまり…


「は?ここを魔王城と知ってて攻めてくるとは…いい度胸じゃない。フン。全くナメられてるのかしら」


 ナメられている。


 アリスはそう判断した。


『・・・・・・・!?』


 カズトとリザードマンは、アリスのその言葉と共に放たれる怒気、いや殺気に動けなくなってしまった。まるで、心臓を握られているかのようだ。


 アリスの青い髪がふわりとあがり、金色の瞳が赤く染まる。


「・・・ふぅ」


 敵が攻めてきた。この事に対して怒ってしまうのは仕方がないだろう。しかし、自分は現在トップの立場にある。真っ先にしなければならないことは何だ?怒りをぶちまけることだろうか?いいえ、違う。


 アリスは自分の発言と行動に反省し、一呼吸おいてから部下のリザードマンに問いかける。


「…で?敵の数は?」


 アリスはリザードマンに、一体何人で攻めて来たのか?とたずねた。


「そ、それが、一人なんで「はぁ!?一人ですってぇ⁉︎」


 アリスは衝撃のあまり、リザードマンの言葉を途中で遮ってしまう。


 目を見開きながら自分の言葉を遮ってきたアリスに対し、リザードマンは慌て始めた。


「ハ、ハッ!!て、敵は勇者軍の一人。戦略兵器レイラです。繰り返します。戦略兵器レイラが魔王城を攻め込んで来ております」


 リザードマンは慌てながらもアリスにそう伝える。


「バーサーカーレイラ…」


 リザードマンの伝令に対し、アリスの表情が険しい表情へと変わるのであった。

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世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて 伊達 虎浩 @hiroto-

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