世界を救った俺は魔王軍にスカウトされて

伊達 虎浩

第1話 プロローグ

 高校生である彼は学校が終わると真っ先に帰宅し、自宅でゲームをしていた。


 自宅に帰ってゲームをする。


 別談、これといって珍しい話しでもないだろう。


 一般的に高校生の放課後といえば、バイトや部活、塾に行って勉強。あるいは、友人と遊びに出かけたり、好きな人とデートをしたりする者が多い。


 また、彼のように真っ先に自宅へと帰宅し、ゲームをしたり勉強をしたりと、いわいる帰宅部と呼ばれる者も多い。


 高校1年生である輝基 和斗てるもと かずとは真っ先に自宅へと帰宅し、ゲームをする派であった。


 最も、宿題をきちんと終わらせてから。を、冒頭につけ加えておくべきだろう。


 ゲームと一言でいっても、ゲームには色々なゲームが数おおく存在する。


 テレビゲームや携帯ゲーム、カードを使ったゲームやボードを使ったゲームなどジャンルは様々だ。


 そんな数あるゲームの中で、高校生の間で流行なゲームは言うまでもなく、アプリと呼ばれる携帯ゲームだろう。


 電車やバス、授業の休み時間や昼休みなどに簡単操作、親指一つで手軽に楽しめる携帯ゲーム(アプリ)をポチポチ叩いているのが、現代の高校生の実態だ。


 しかし、和斗がやっている…いや、ハマっているゲームは、携帯ゲームではなくテレビゲームの方であった。


 テレビとゲーム機本体にケーブルを繋いで遊ぶ事からテレビゲームとも呼ぶのだが、繋いだら直ぐに遊べるというわけでもない。


 コントローラと呼ばれるゲーム機専用の機械を使い、ゲーム機にあったゲームソフト(通称カセット)があって、初めて遊ぶ事が可能となるのである。


 また、テレビゲームといってもこちらも様々なジャンルが存在しており、特定のコマンド入力で相手を倒す格闘ゲーム(通称格ゲー)や、サイコロやダイスを使ってお金を増やしたり、土地を増やしたりするボードゲーム。サッカーや野球などのスポーツゲームなど、様々なジャンルが存在する。そんな中、和斗はロープレと呼ばれるゲームにハマっていた。


 RPGアールピージー、または、ロールプレイングゲームと呼ばれるジャンルで、通称、ロープレと呼ばれている。


 ロープレについて簡単に説明するのであれば、勇者と呼ばれる特定のキャラを自分で操作し、旅をしていく中で仲間を増やしたり、モンスターを討伐したりして、お金を稼いだり(強い武器や防具などを買う為)レベル(いわいる強さ)をあげたりとしていき、最終的には最後の敵(ラスボスと呼ばれている)を倒してハッピーエンド。というのが、一般的なロープレだ。


 また、一言にロープレといっても、こちらも様々なロープレが存在し、例えば自分が攻撃をし、敵が攻撃をしてきて、また自分が攻撃する。といった、ターン制だったり、常にキャラを操作し続けなくてはならなかったりと、こちらも様々なのである。


 そんな様々なロープレの中で、和斗がハマっているロープレはターン制のロープレだ。


「さて…やるか」


 宿題をさくっと終わらせた和斗は、机の引き出しから月曜日の授業で使う教科書やらを学生鞄にしまって、スッと席を立ち上がった。


 今日は金曜日。


 学校は週休二日制の為、土曜、日曜とゆっくり過ごせる。


「テレビにゲーム機に…コントローラーっと。」


 和斗は手慣れた手つきでリモコンを操作し、コントローラのスタートボタンを押した。


 コントローラのスタートボタンを押す事により、ゲームの電源が勝手についてくれるのである。


 昔は電源ボタンであるゲームの本体スイッチをわざわざ押しに行ったり、コントローラのコードの長さによって、特定の距離でしか遊べなかったテレビゲームだったのだが、そういったテレビゲームは今ではすっかり消え失せてしまっていた。


 これもまた、ゲームの進化と言えるのだろう。カチャッ。カチャカチャ。と、ゲーム機が起動音をあげると、テレビからオープニングムービーが流れ始める。


(いつ見ても綺麗だな…)


 時代の進化に伴い、ゲームのクオリティも進化を遂げていて、例えばグラフィックで説明するのであれば、ポリゴンと呼ばれるゲーム時代だったのが、今では「映画のワンシーンを見ているようだ」と呼ばれる時代になっている。


 さらに、友達とオンライン(通信協力プレイ)で遊べる事が可能になったり、テレビゲームと携帯ゲームを連動させ、自宅でも自宅の外でも同じゲームが遊べる事が可能になったりと、こちらも様々な進化をとげている。


 そんな中、輝基和斗はオンラインも自宅の外で遊ぶ事も出来ない、オーソドックスなロープレを一人用家庭ゲーム機で遊んでいる。


 なぜオンラインではないのか?理由を一つあげるとすれば単純である。


 一人で遊べるから。であった。


「…ふむ。一応ボス戦だし、買い物でもしておくか?」


 いつも通りコンティニュー(前回の続き)からゲームを開始した和斗は、手慣れた手付きでコントローラーを操作して持ち物の確認をする。


 ゲームをしない人の為にあえて説明しておくと、和斗のこの行動を普段の日常生活で例えるのであれば、仕事道具を買い揃えて明日の仕事に備える。あるいは、冷蔵庫を開けて夕飯の材料があるかを確認しておく。みたいなものだ。


「…と言っても、薬草など使わないか」


 薬草と呼ばれるアイテム。


 ロープレの定番中のアイテムであり、使用した場合、HP(ヒットポイント)いわいる体力を回復してくれるのである。


 キャラにはHPと呼ばれるものと、MP(マジックポイント)と呼ばれるものの2種類が基本あり、HPが0になると死んでしまい、MPが0になると、魔法や特技が使えなくなったりするのである。


 魔法や特技によって、相手に大ダメージを与えたり、死んでしまった仲間を蘇らせたり、仲間を死なせないように体力を回復させたりとできる為、いかにMPを使わないで冒険を進めるかが大事になってくるのだ。


「いや。レイラがいれば問題ないか」


 和斗は画面に映る可愛らしい少女に目を向けそう呟くと、閉じると書かれているカーソルまでコマンドを移動させ、メニュー画面を閉じた。


「良し。行くか」


 和斗にとって今日は待ちに待った日であり、とても重要な日でもあった。


「今日こそ世界を救う…ふふふ」


 和斗が今日という日の為に、鍛え上げた四人の精鋭達。


「待っていろ。魔王サタン!!」


 和斗が待ち望んでいた日とは、最後の敵である魔王サタンを倒す日であった。


 魔王サタン。


 ロープレのお約束、定番キャラとも言えるこのキャラクターは、物語に欠かせない重要な人物である。


 そもそも魔王サタンと呼ばれる者がいるから、勇者と呼ばれる者が居て、冒険があるわけであり、魔王サタンがいなければ何も始まらないと言っても過言ではないぐらい、ロープレにとって魔王サタンは重要な存在である。


 魔王サタンを倒す為に勇者を操作し、仲間を集めて様々な冒険をし、世界を平和にする為に日々奮起する。これが、ロープレというゲームの醍醐味ってやつだろう。


 電源をつけてから1時間といったところか。


 魔王サタン城と呼ばれる建物に侵入し、数々の罠や強敵と遭遇しながら、魔王サタンを探していた和斗。


「フハハハ。そこまでだ勇者テト」


 そろそろだろうか?と考えながらしばらく進んでいると、テレビからそんな声が聞こえてくる。


「ふっ。ようやくか…」


 和斗は遂に魔王サタンと遭遇したのだった。


 ーーーーーーーーーーーーー


 このゲームを初めたのは、いつの頃だっただろうか?


 プレイ時間は999時間から上がらない為、何時間プレイしたのかは未知数である。


 この日をどれだけ楽しみにしていたか…いや、魔王サタンを倒すということは、このゲームの終わりを意味するのだから気持ちは半々といったところか…と、和斗が考えていたその時であった。


「フハハ。ヘルズクラッシュ」


 ボッ!!ゴォォ!!という効果音とともに、魔王サタンの声がテレビから聞こえてきたのである。


 テレビ画面に目を向けると、右腕を真っ直ぐ伸ばし、猛スピードでこちら(テレビ画面)に突っ込んでくる魔王サタンの姿が見えた。


「皆、下がっておれ!愛の鉄壁アイシールド


 あらかじめコマンド入力を済ませていた為、魔王サタンの声(攻撃)とともに、ドワーフ族のダンの声とスキル名(特技)がTV画面から聞こえる。


「ダンじい様。いま回復をします…ルミナスヒール」


 魔王サタンの攻撃を受けた事により、ダンのHPが減少。レイラの回復魔法によって、ダンのHPが元に戻った。


「行くぞ!」「あぁ!」


 今度はこちらの番と言わんばかりに、クリフとテトが魔王サタンに向かって剣を振る。


 和斗が魔王サタンを相手にとる戦法は普通の戦法で、一人が敵の攻撃を防御で引きつけ、攻撃を受けた味方に対し、一人が回復などの支援。残された二人が魔王サタンに攻撃をする。といった戦法で、防御力が一番高いドワーフ族のダンが魔王サタンの攻撃を一人で引き受ける係り。支援魔法を得意とするヒューマン族のレイラが攻撃を受けてHPが減ったダンに対して回復魔法を使用したり、残された二人に攻撃力UPの支援魔法を使用したりする係りで、勇者であるテト(ヒューマン族)と魔法剣スキルを得意とするクリフ(エルフ族)の二人で、魔王サタンを攻撃する。といった戦法を和斗はとっているのだった。


「……あっけなかったな」


 しかし、和斗が待ち望んていた日は、意外とあっけなく幕を閉じてしまった。


「…はぁ。強くしすぎてしまったか」


 自室のベッドに腰掛け、TV画面を見ながら思わず思った事を口にしてしまう和斗。


 しかし、無理も無い事であった。


 何故なら、最後の敵である魔王サタン戦を始めてからまだ少ししか経っていないからである。なんならダンジョン探索の方が長かったまである。


 相手が弱すぎたからなのか、あるいは自分が強くしすぎてしまったからか…恐らくは後者だろう。


 それもそのはずで、和斗がこの日の為にと鍛え上げた勇者テトのLvは88。その他のパーティーメンバーも、Lv80以上あるのに対し、敵は魔王サタン1体しかいない。


 しかも、自分が操作しているのだから、当然と言えば当然か。と、思った所で、その事については考えるのをやめた。


 考えるのをやめた和斗がTV画面に目を戻すと、勇者が何やら黒い玉を手に取り、町に戻っているムービーが流れていた。


 これもまた、ロープレと呼ばれるゲームのお約束といえばお約束である。


 要はこの黒い玉を魔王サタンから取り戻す為に、冒険に出たというのがこのロープレのシナリオというわけであり、取り戻したのだから冒険が終わり、エンディングムービーが流れ始め、スタッフロールが流れるのだ。この辺はテレビアニメやドラマと同じだ。


「さて、あるといいんだがな…」


 大抵のRPGというのは、エンディングの後にスタッフロールが流れたり、エンディング曲が流れたりした後2周目、いわゆる裏面というものが存在する。


 ラスボスを倒さないと進めないダンジョンがあったり、道具があったりし、大抵は真のラスボスが存在するのが最近のロープレの定番シナリオだ。


 勿論、無い場合もある為、和斗が口にした"あるといいが"とは、裏面があれば嬉しい。という意味であった。


「……まぁいいか」


 本来ならキャストロールを眺め、お気に入りのスタッフなどを見つけるのだが、トイレに行きたいのと、喉が乾いてしまった。とりあえず飲み物を取りに行ったりしてから、あるか無いか分からない2周目の事を考えよう。キャストロールは裏面をクリアーしたら流れるか、最悪ネットで調べればいい。


 そう思った和斗はベッドから腰を浮かせ、1階に飲み物を取りに行く事にした。


 ーーーーーーーーーー


 ガチャッと、自分の部屋のドアノブを捻りながらポツリと呟く。


「さて、裏面があればいいが、無かった場合はどうするか…だよな?」


 和斗の予定では、今日、明日、明後日と、3日間を裏面をやるという日程を組んでいる。


 その為、裏面が無かった場合、和斗の3日間の日程が狂ってしまうのだ。


「無かったら…っていやいや、あるだろ」


 ト、ト、ト。と、2階にある自分の部屋から1階へと続く階段を降りて行く和斗は、自分で自分にそうツッコんだ。


 まぁ説明するまでもないが、2周目がありますよ!などとネタバラシになるような謳い文句でゲームを売るようなゲーム会社もなければ、ネタバラシになるような書き込みがしてある掲示板を自ら覗きに行くような事を和斗はしないので、コレまでの経験から、あるだろうと予測する。


 階段を降り、すぐ左にあるドアへと入って行く。ガチャ。と、リビングのドアを開いてリビングへと入った和斗は、部屋の中の様子を覗った。


 リビングに入ると、目の前にはL字型のソファーが置いてあり、ソファーの前にはガラステーブルがある。


 ガラステーブルの前には、テレビ台に乗った薄型テレビが置いてあり、テレビの上には壁時計が置かれている。


 そんな至って何処の家庭でもありそうなシンプルなリビングが、輝基家のリビングなのだ。


 (……って、目的は飲み物だろ)


 きちんと掃除してあるリビングを見るのをやめ、冷蔵庫がある左へと和斗は進んで行く。


「裏面が無ければ無いで、まぁ…ゲームでも買いに行くか…」


 そんな事を呟きながら、飲みものとコップを手に取った和斗は、2階にある自分の部屋へと戻って行った。


 ーーーーーーーーーーーー


 再び自室へと戻った和斗はベッドに腰掛け、スッとTV画面に目を向けたところで、固まってしまった。


「…え?」


 手に持ったグラスと飲み物を、思わず落としてしまいそうになったほどである。


 それほどの衝撃であった。


 何とか落とさずに済んだ自分を褒めてやりたいところなのだが…しかし、これはいったい何なんだ?と、和斗は首を傾げる。


「み…見間違いじゃ…ないよな?」


 和斗が再び視線を戻したTV画面には、やはり4文字の言葉があり、その下にYES/NOのコマンド入力の画面が表示されている。


 しかし、それだけでは固まってしまう理由にはならないだろう。


 では、何故か?


 答えは簡単だ。


 TV画面にはこう書かれていたのである。


  「WARP?」と。


 _______________


 和斗はTV画面を見ながら、考え込んでいた。


「飲み物を取りに行っている間に何か映っていたのか?または書かれていたのか?ワープ…だと?イエスかノーか。ノーを選んだ場合、セーブポイント…すなわち、また魔王サタン戦をやり直すのか?ならばイエスを選ぶべきなのだが…しかし、選んだ場合どこにワープするのかが解らない…か。くそ!飲み物なんか後で良かったのに!!」


 いや、考えても仕方が無い。それにそんな事で後悔するのも何だか恥ずかしい。というよりバカらしい。


 どうせロープレ定番である始まりの城にでもワープするのだろうと和斗は考え、イエスの所にカーソルを合わせてボタン押す。


「………するわ」


「え??」


 イエスを押した後、誰かに何かを言われた気がしたのだが、和斗はそこから何が起きたのか解らなかった。いや、理解できなかったが正しいのかもしれない。


 何故ならTV画面がピカーンと、光ったかと思うと、目の前がどんどん真っ暗になっていったからである。


 気がつけば和斗は、ベッドの上に倒れ込んでしまっていたのであった。


 _________________


 自分を呼ぶ声が聞こえる。


「ねぇ?」


「いい加減…」


「だぁぁぁあ!もぉ!!いい加減起きなさいよ!!!」


 バシン!


「………!?」


 頭に強い衝撃を受け、和斗は目を覚ました。


(俺は……)


 スッと目を開けた和斗は上体を起こして、キョロキョロ辺りを見渡す。すると、一人の小さな女の子の姿が目に入った。


「やっと起きたわね」


 と、女の子から声をかけられる和斗。


 その女の娘の特徴を説明するのであれば、青く長い髪に金色の瞳。ボンテージらしき服を着ていて、歳は13か14ぐらい…髪や瞳からして、おそらく外人さんなのだろう。と、和斗は思った。


 あまり豊かとはいえない胸、身長は150㎝ぐらいか?いやいや、今はそれどころではないだろう!と、自分にツッコんだところで、和斗はその少女に注意する事にした。


「…誰かは知らないが、勝手に人のお家にあがるのはいけない事だと、お母さんやお父さんに教わらなかったのかな?」


 相手は歳下であって外人さん。和斗は優しく微笑みながら日本のマナーについて(和斗は外国のマナーが分からない)注意したのだが、注意された女の子は首をかしげていた。


「は?アンタいったい何を言ってるのよ?ここは魔王城で私の部屋。アンタは私に召喚されたんだから…そうね!つまりアンタは私のしもべってわけ」


(ん?召喚?魔王城?)


 女の子にそう返され、今度は和斗が首をかしげる番であった。


 いきなりしもべって何だよ 笑


 失笑、苦笑、みたいなそんな感じであった。


 そんな事を和斗が考えていてもおかまいなしにと、女の子は続ける。


「アンタには特別に、アリスと呼ばせてあげる!いい?感謝しなさい!!」


 アリスと名乗る少女が不敵な笑みを浮かべ、偉そうに指を向けてきた。


 ビシッ!と、今にも聞こえてきそうなその指を見ながら和斗は考える(言うまでもく腰には左手をそえている)


 私の部屋?召喚?魔王城?いったいこの娘は、何を言っている?おままごとなら妹の美姫とやって欲しいんだが…と、思った和斗は再び辺りを見渡す事にした。


「………!?」


 辺りを見渡した事により、ようやく自分が置かれている立場、いや、現状に気づいたのである。


(は?え!?ちょ、じ、自分の部屋じゃない!?)


 驚いた和斗は、思わず飛び起きた。


(いやいやいや、待て待て!自分の部屋じゃない!だと!?は?ここは何処だ??)


 今にもバババっと聞こえてきそうな勢いのまま、再び辺りを見渡す和斗。


 見渡せば体育館ぐらいの部屋だと直ぐに分かった。目線を元に戻して再度辺りを見渡すと、中央に不自然に置かれている豪華なイスが(ちなみにそのイスには、ダサいぐらい無数のトゲや、透明なガラス玉がついている)あり、天井はかなり高い。


 何処かの最上階なのか、ガラス窓からは月の光が部屋の中を照らしている。


(さっきまで自分の部屋にいたよ…な?夢でも見ているのか?)


 和斗は今の状況が理解できなかった。


 気づいたら知らない所にいる。状況が理解できないのは無理もないだろう。


 それでも、そこまでパニックにならなかったのは、近くに外人さんの少女?アリスが居たからである。


 知らない所に一人とか、知らない所に強面のチンピラが居たら、もっとパニックになっていたに違いない。


 そして、魔王城とか召喚とか良く分からない事を口にはしているが、ここが何処かを理解しているようであり、自分の部屋なのだと先ほど口にしている…ならば、アリスと名乗る少女にここが何処なのかを聞けば解るに違いない。と、考えたからであった。


 最も、慌てなかった最大の理由を説明するのであれば、夢だろうと和斗は思っていたのが一番大きい。


 和斗がこの時落ちついていたのは、その所為であった。


 さて…理解ができない。解らない。なら、解る人に教えてもらうしかない。とは、至極当たり前の事である。


 和斗はアリスと名乗る少女に、ここは何処なのかと尋ねる事にした。


「アリスちゃんっていったかな?ここは何処なのか、お兄さんに教えて…って、イテッ!?」


 質問をしている最中にバシン!と、アリスに頭を叩かれてしまった。


「いい!次に"ちゃん"なんて付けて呼んだら殺すわよ!これでも16歳!!立派な大人なんだから」


 腕を組みながらプイっと顔を背けるアリス。どうやら、子供扱いちゃんづけされた事に対して怒ったようだ。


(16歳は大人じゃないけどな!しかも同い歳かよ…にしても殺すって、おい?親はいったいどんな教育をしてんだ?って、ちょ、ちょっと待て!!)


 心の中でツッコミをいれ、アリスを見た和斗は驚愕することとなる。


 何故なら、アリスの背中に黒い羽?いや、翼みたいなのが生えている事に気付いたからであった。


 黒くてでかい翼は漫画やアニメなどでよく見るものであり、和斗はアリスの姿を改めて見直し、思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。


「ちょ、ちょっと待て!ま、まさか…アリスは…そ、その、悪魔…とかなのか…?」


 恐る恐るアリスに尋ねる和斗。


 こんな質問をして馬鹿か俺は…と、和斗は思ったものの、そんな翼を見せられてはそう尋ねないわけにもいかなかった。


 は?何言ってんの?


 頭大丈夫?


 普通であればイラッとするこの言葉達も、今ならありがとうと心の底から言える。そんな気がする。こんなおかしな夢を見るなんて、ゲームのやりすぎなのかもしれない…な…ははは。


 そんな気持ちの和斗に対し、アリスは迷う素ぶりすら見せずにこう答えた。


「そうよ」


 質問をされたアリスは両腕を組みながら、勝ち誇った顔でそう返事をしてくる。


 そして、真剣な表情でこう言うのだ。


「いい?私は魔王サタンの娘。名はアリス。今は亡きお父様に代わりこの魔王軍を率いている…そうね!いわばこの国の王女ってわけ。アンタには今日から私のしもべとして、この魔王軍復興の為にみっちり働いてもらうわ!」


 そんな言葉をかけられた和斗はというと、何を言われているのかが、全く理解できなかったのであった。

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