第5話 ヒトは業を、業はヒトを。

早朝、時期的にもまだ肌寒さが残る。標高が高いとなると尚更だろう。

空が薄暗いうちから山に入り、瓦礫すらも越え、山頂までたどり着いた。火口は積みあがった瓦礫の分深い位置にある。他の火山と同様、サンドスターの結晶が生えている。生えるという表現が正しいかは知らない。突き刺さっているのかもしれない。


(濁ってるように見えるな・・・。ぎりぎりまで近づくか。)


瓦礫の山を火口に向かって下りていく。

だが、少し下ったところで


「!?」


轟音と共に揺れ始める。案の定、不安定に積みあがった瓦礫は崩れる。それに巻き込まれるようにして、火口へ転がり落ちていく。


(こんな中途半端で死ぬのか・・・?)


既に体は自分の制御の外だった。腕も、脚も、力を入れても踏みとどまることはできない。


落ちながら、瓦礫に混ざって檻のようなものが半分火口に浸かっているのが見えた。


ヒメネズミ、ニホンザル。


最期の最期まで、人間とは本当に胸糞悪い生き物だ。


(復讐すらできないのか・・・)


しかし、体は火口に浸かることなく、火山噴出物によって吹き飛ばされる。

衝撃で一瞬にして意識が飛んだ。死を感じる間もなく。




「・・・そろそろ起きたらどうだ。」


ん?

なんだ。昨日と同じだ。仮設研究所でエゾシカに起こされている。

いや、もしかすると今までのすべては夢だったのか。いや、そのはずだ。私は噴火に巻き込まれて死んだはず。

それならよかった。あんな結末。

しかし、不思議な夢だったな。まるで本当に触れていたようだった。

あぁ、からだがべたべたする。風呂も夢か。そこは現実であってほしかった。

まあ何より、今までのすべてが現実ならば、今私の目の前にいるエゾシカは何者なのだ。

私は彼女といがみ合うようにして別れたのだ。それなら、なぜここに?


「・・・おはよう、エゾシカ。」


「のんきだな。こちらはもう4日もお前を待ったんだぞ。」


「・・・4日?」


焦って端末を立ち上げる。

5月30日。

見間違いでなければ、夢でもない。

私は生きている。あの状況で?


「4日前の朝、あの山が噴火した。それでその日、ムササビが砂浜で倒れていたお前を見つけて、みんなでここに運んだんだ。」


砂浜まで飛ばされた?なら尚更生きてはいないだろう。


「混乱しているみたい。何が本当かわからない。私はあの日山に登って・・・」


「山に登っただと?」


しまった。口を滑らせた。

しかし、エゾシカはそれ以上踏み込まなかった。


「・・・お前の疑問は、お前の左手が解決する。」


左手は、真っ黒に染まっていた。


「・・・あの日ムササビが見つけたお前は、傷だらけで、見れたものじゃなかったらしい。だけど、私たちがムササビに連れられて来たときには、傷一つない、今のその姿だったよ。」


まさか、私はアニマルガールに?ガールなんて歳では・・・、いやそんなことではない。説明された状況を総合的に考えるとそうなのだろう。それに骨からアニマルガールが生まれた例もある。しかし、ヒトがアニマルガール化するのか?


考えていくうちに、悪魔のような発想にたどり着く。


「・・・説明してくれてありがとう。それで、噴火はまだ続いてる?」


「続いてる」


「じゃあ・・・、こんな状況であなたにものを頼むなんて図々しいかもしれないけれど、手伝ってくれない?」


「・・・、内容次第だ。」


エゾシカはすごく嫌そうな顔をしている。私の選択はそんな彼女を傷つけるかもしれない。怒らせるかもしれない。あるいは、今ここで私の首を絞めるかもしれない。

ただ、迷いはなかった。彼女たちを、この島のすべての動物たちのためならば、私は喜んですべてを差し出そう。それくらい、追い詰められているようで、余裕のある心持だった。



「そこで横たわっている彼女に、アイカさんに、サンドスターを当てましょう。」



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