第3話 感情

朝、聞き覚えのある声で目を覚ます。

エゾシカだ。


「目覚めたか?」


「ん、んぅ・・・ドアっ!?」


ドアを突き破って入ってきたのか・・・。まあドアノブなんて言っても自然には存在しないものの使い方なんてわからないだろうが・・・。


「今日は聞きたいことがあってな」


「何?」


「お前はこれからどうするんだ?」


「どうって、」


「奴らと共に過ごすなら、安全は保障できないぞ。彼女のように。」


そう言ってエゾシカは仮設研究所の奥の部屋を指差した。しまった。見られたのか。


「彼女は病気じゃない。もう・・・死んでしまったんだろう・・・?」


昨夜の時点で、呼吸どころか脈すら感じられなかった。心肺蘇生も試みたが、すでに手遅れだった。


(この子の、私や洞窟の彼女らに対する感情がわからない。信頼?支配?それだけじゃない・・・それに、仮にこの子が私を止めに来たとしても)


「それでも私は、セルリアン化した彼女たちを助けなきゃいけない。仕事だから。」


「・・・」


エゾシカは顔をしかめ、少しの沈黙が流れる。


「・・・それなら、もう二度と、私たちの家に近づかないでくれ。それと、山には登るな。」


そう言い残し、エゾシカは外へ出た。




潮風にあたるところで寝泊まりしているせいか、いや、そういえばこちらに来てから風呂どころかシャワーともご無沙汰だった。体がべたついている。


(川ってあったりするのかな・・・)


ラッキービーストのネットワークに接続し、川の場所を調べ、船から降ろしていなかった円筒状の荷物を降ろして川へ向かう。


「キャンプで風呂ときたらこれでしょ」


ドラム缶に川の水を溜めて沸かす。これだけで風呂ができるなんて、と一人英知を感じていた。

風呂はいい。無条件で考える暇をくれる。

エゾシカの心境。

セルリアン化。

研究所に住み着いたアニマルガール。

研究員の死因。


(情報が足りないな・・・エゾシカは何か知ってそうだけど、聞きに行くのは無理そうだし。とりあえずあの研究所にあるものを調べるしかないか。)




「あ、いらっしゃい!この間はありがとうね!良かった~、リセさんが来てくれたら寂しくないよ!」


「エイちゃん、元気そうで何より!他のみんなは?」


「イワン先生とマーちゃんはジャパリまんを取りに行ってて、エネちゃんたちは遊びに行ったよ。」


「先生?」


「そう!イワン先生は私とかエネちゃんたちが来るよりずっと昔からいるんだって!昔の話はしてくれないんだけど、物知りなんだ!」


もしそれが本当なら、エゾシカのことも何か知っているかもしれない。思いがけないところからヒントが舞い込んできた。


「私も今度話を聞いてみたいな。それで、今日はちょっとこのアジト?を調べたいんだけど、いいかな?」


「問題ありませんよ。」


返答は背後からだった。


「イワン!?それにマングース。おかえりなさい。」


「おや、驚かせてしまいましたね。リセさん。ここにあるものでよければ、いくらでも調べてください。この現状を打開してまた彼女らと、「あっち側の彼女たち」とも仲良く暮らせるのならば、いくらでも協力しますよ。」


「あっち側・・・、ありがとう。頑張らなきゃね。」



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調査報告5


前任者は数年前にこの島に来た動物に目をつけていた。

リストとセルリアン化しているアニマルガールを照合すると、イエウサギ、マングース、アライグマ、ニホンイタチ、イエネコは確かに合致する。

しかし、搬入リストにはタイワンザルの名前はなく、逆にセルリアン化が確認できないヒメネズミやニホンザルの名前がある。

この情報だけでは島に入った時期によってそうなるという線は低いだろう。だが、アニマルガールから興味深い情報を手に入れた。ヒメネズミやニホンザルは搬入前に別個体がいたそうだ。

また、成果の報告はないが、サンドスターの調査も行われていたようだ。

これらのことから、一つの仮定を立てた。

この土地の固有種と、外来種の違いによる発症である。


この島に関するデータは、研究所内のスタンドアローン端末に保存されていることを確認した。


昏睡状態で発見した研究員の氏名を管理ナンバー及び最終更新資料より特定。

氏名 村上アイカ

No.12-563RER


5月25日 14時29分

記録者 高田リセ No.1-230ABK

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「タイ・・・、イワン、少しこの島について聞かせてほしい。昔のことも、今のことも。」


「昔のこと、ですか。場所を変えましょう。ここよりも、説明に適した場所があります。」


マングースとイエウサギ・・・エイに留守番を頼み、研究所をあとにした。

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