卒業
卒業式の日は曇りだった。
薄暗い講堂でAIの先生の長い話が続く間、私は細く開けられた窓の隙間から見える灰色の空をずっと眺めていた。
空を覆う茫漠とした雲の層が静かに濃くなったり薄くなったりするのを見ているうちに、やがて私の名前が呼ばれた。
予行練習の通りに席から立ち、壇上へ行き、礼をして卒業証書を受け取る。
壁の高いところにある埃っぽいスピーカーから荘厳な音楽が鳴っていたけど、地上のあらゆるものは海中に持ち込めない。だからこの卒業証書を手元に置いておけるのは今日だけだった。
演壇から降りるときにふと在校生の列を見ると、退屈そうに並んだ顔の中で尾山君だけが真っ直ぐな眼で私を見ていた。
私の視線が尾山君の視線と重なった瞬間、尾山君はふっと目を逸らす。
見られたくないものを見られてしまったような、そんな顔だった。
私はそれに気づかないふりをして席に戻る。
私の体温を失って少し冷えた椅子に腰掛け、深沢先生の方を見ると、先生は私がさっき見ていたのと同じ窓からどこか遠くを見ていた。
全校生徒が登壇し、私たち卒業生に向けて歌ってくれている合唱曲が、講堂の壁に曖昧に反響する。
壇上から尾山君が、さっきと同じように私を見つめながら歌っているような気がしたけど、私は、ここで行われている式典になんの興味もないかのように遠くを見つめる先生を、長い間見つめていた。
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