第12話 イシュウ飛行場 #3

 イシュウ飛行場に到着し正式に民間軍事会社ブランブルの一員となった幡谷だったが、すぐにジェット機で空を飛ぶことはできなかった。幡谷を待っていたのはまず健康診断、それからエモン帝国やブランブルの幹部との顔合わせだった。幡谷の直接の上司はパイロット兼CFOのバンカーで、自衛隊でいう飛行隊長のポジションが彼だった。ブランブルには航空機部門以外にも警備部門があり、ベルグマンという指揮官の下、百名近い隊員が帝国各地で働いていた。警備部門という名前だが装備はM-16アサルトライフルにボディーアーマー、ヘルメットと見た目は軍隊の歩兵(日本でいう普通科)そのものだ。イシュウ飛行場にいる警備部門の担当はグェンドリン・ラップというオーストラリア出身の女性で、彼女の下に五名の写真がいるだけだった。残りは帝国の前線に配備されているらしい。幡谷たちパイロットの仕事の一つに前線部隊へ補給を届けるヘリの護衛もあったがロマンとリロイのSu-25コンビが担当することが多かった。ティモシーのF-16とパンサーのJAS-39は貴重な戦力で、幡谷やバンカー、イラク人兄弟が乗るMiG-21は低速が苦手で航続距離が短いためヘリコプターの護衛には不向きだったからだ。

 イシュウ飛行場についたその日から、幡谷は搭乗することになったMiG-21についての座学とシミュレーターでの訓練を始めた。今すぐにでも飛びたいという気持ちはあったが、基礎をないがしろにして戦闘機に乗ることがどんな結末を招くかはわかっていたので寝る暇も惜しんで課題をクリアすることに務めた。自室のベッドとシュミューレーター室を行き来するばかりの毎日だったが他のパイロット仲間、ただしティモシーは除く、と飲んだり、地形学習のためヘリコプターでのイシュウ飛行場の周辺を飛行するなど、時々息抜きできる時間もあった。

 MiG-21のシミュレーターはバンカーが調達してきたという中国語とロシア語表示が入り混じった怪しい装置で、幡谷は印刷の荒い英語のテキストを読みながら起動手順や基本的な操縦方法を学んだ。時々、同じMiG-21パイロットのイラク人兄弟が様子を見に来て、アドバイスや世間話をしていった。初日で因縁をつけてきたアメリカ人のティモシーとは何度か廊下ですれ違ったが、いずれも無視されていた。

 戦闘機の操縦はできなかったが、地上にいる時間が長いおかげで「こちら」についても色々と知ることができた。

 イシュウ飛行場やエモン帝国が地球上のどこにあるかはわからない。しかし、ここが地球であることは間違いないようだ。夜中に空に登る月は一つで、見慣れたうさぎが餅をつくような模様がある。空を見上げれば射手座や蠍座といった星座がある。F-16やMiG-21といったジェット戦闘機がそのまま使えることから大気の成分も地球と同じであることは間違いない。

 イシュウ飛行場にはブランブルに雇われている英語が話せる地元の人間が何人もいた。幡谷は彼らにこの国のことを訪ねたが、帰ってくる答えは初日に小瀬から聞いた内容とさほど変わらなかった。彼らはここはケルソ半島にあるエモン帝国だといい、アメリカや日本といった国のことは聞いたことがないと言う。

 ちなみに、飛行場は五十名ほどのブランブル社員以外は基本的に「地元」の人間によって運営されている。清掃や料理といった仕事からブランブル所属の航空機や車両の点検、飛行場の警備、さらに地元のエモン帝国の空軍のパイロットや彼らの機体の整備員など数百人が飛行場で働いた。彼らはみな幡谷や小瀬、バンカーのような東アジア系だったので幡谷としては話しかけやすかったのだが、英語を話せる人間はそれほど多くなかったのでコミュニケーションには苦労した。

 彼らの言葉は日本語や中国語的な雰囲気で服装や文化も東アジア的だった。だが不思議なことに、エモン帝国の建物は石造りのヨーロッパ系の造りをしていた。それは古い建物ほど顕著で、中には中世ヨーロッパの城にしか見えないものもあった。しかし最近作られた物は木造でどこか中国の香りがする建築物が多く見られた。まるでアジア人が昨日ヨーロッパに移住したようなちぐはぐさで、それが幡谷には奇妙に感じられた。

 文明のレベルも幡谷にとっては不可解なことの一つだった。飛行場周辺の地形を覚えるため、幡谷はブランブルが所有しているUH-1多目的ヘリコプターに乗せられイシュウ飛行場の周りを飛んだことがあった。空から見下ろすと草原を汽車が煙を吐きながら進んでいた。空を飛ぶものはほとんどおらず、たまに帝国空軍の複葉機が面白半分にヘリコプターに近づいて来るくらいだ。ヘリコプターが珍しいらしく、原っぱで遊んでいる子供達が手を振ってくることもあった。エモン帝国は巨大な内海の北側から突き出た半島部分にある国で、イシュウ飛行場はその最南端に位置しており、北側には帝都マターとその港があった。ヘリコプターで帝都上空を飛んだ時、港から出航する漁船や商船などが見えたが、どれも随分と古臭いデザインをしていた。軍港には戦艦らしい大型艦もあった。戦闘艦ではなく、戦艦(バトルシップ)だ。二〇〇メートル近い船体に大型の連装砲を五基搭載し、さらに十基以上の単装砲でハリネズミのように武装している。巨大なマストはあるがレーダーやミサイルのような武装は見当たらない。昔本で見た、金剛型戦艦の初期の姿に似ているように見えた。だとすると一九一〇年代の技術で作られた艦だ。それが三隻、港に並んでいた。エモン帝国はまるでそれ自体が巨大な映画のセットのように全時代的で、それでいて一つも破綻がなかった。作り物感はなく、人々がまさにそこで生活している世界がそこにあった。地球上には発展途上国と呼ばれる国が多くあるが、中途半端に二十世紀前半の技術や生活水準を維持している国など聞いたことがない。

 幡谷はある日、パンサーと飛行場内にあるバーで地元で作られた麦焼酎に似た蒸留酒と海産物の肴をつまみに話をしている時、自分の疑問を年の近いタイ出身の青年にぶつけてみた。

 「それはな、フラッグ、鏡の世界だよ」

 あまり酒に強くないらしいパンサーは顔を赤らめながら怪しい舌で自分の考えを口にした。

 「こっちはあっちと同じだが違う、鏡で写したような双子の関係にあるんだ」

 「どういうことだ? ここは地球とは別の世界なのか?」

 「違うとも言えるし、同じとも言える」

 パンサーのグラスが空になる。幡谷は地元人のバーテンダーに目配せすると彼はパンサーのグラスに新しい蒸留酒を注いだ。この初老のバーテンダーは英語はあまり得意ではないが、長年の仕事で培った感でアルコール関係のコミュニケーションには困らない。

 「これを見てくれ」

 パンサーは普段着にしているらしい作業着のポケットから使い込まれた手帳を取りだしぱらぱらとページをめくった。そこにはエモン帝国の地図らしいものが折りたたまれた状態で貼り付けられている。パンサーは地図を開くと帝国があるケルソ半島を指差した。

 「これを見て思い当たることはないか?」

 パンサーに言われ、幡谷は地図をじっと見つめた。地名は漢字に近いもの現地の言葉で書かれており読むことができない。ケルソ半島は横に長いひし形状の形をしていて北側で陸地とつながっている。東側にも別の半島がほんの数キロ先にある。

 「言われてみればどこかで見たような地形だ。でも思い出せない」

 「じゃあ次はこれだ」

 パンサーはノートの別のページを開いた。そこには英語で書かれたヨーロッパの地図がやはり折りたたまれて貼り付けてあった。パンサーがそれを開く。そこに描かれたものを見て幡谷は目を大きく丸くした。

 「ここ、エモン帝国の地形にそっくりだと思わないか?」

 パンサーは黒海のクリミア半島を指差した。クリミア半島は楕円形っぽい黒海に突き出たひし形っぽい半島だ。

 「確かに似ている。じゃあ、ここはウクライナなのか? あの街は映画のセット?」

 ヨーロッパの地図ではエモン帝国のイシュウの位置にはセバストポリがある。有名なロシアの都市だ

 「それはないさ。ウクライナの領空で戦闘機を飛ばしてみろ、すぐにおっかないフランカーやフルクラムが飛んできて撃墜される。これは俺の推測だが、ここは別次元の地球なんだ。並行世界だよ。地形は似ているし同じ人間が住んでいるけれど、俺たちの地球とは違う歴史を歩んでいる。だからこっちにはエモン帝国なんて名前のアジア人の国がクリミア半島にあるんだ。な、面白いだろ?」

 「それは、興味深いな」

 幡谷は自分のグラスに入った蒸留酒を一口飲み、干した貝らしい肴を口にしながらパンサーの言葉を噛み締めた。

 「並行世界か、それなら納得できる。ファンタジーの世界だな

 「ホウキに乗って空を飛ぶ代わりにジェット戦闘機だけどな」

 最初に複葉機が飛んでいるところを見てからなんとなくだが幡谷が暮らしていた世界とは違う場所だという認識はしていた。それに、「戦国自衛隊」、「ファイナル・カウントダウン」、「スターゲート」といった現代の軍隊が過去や異世界に行くフィクションを見たことはある。民間軍事会社で戦闘機に乗るなんて非現実的なことが起こるのだから、軍事会社が並行世界で仕事をしていてもおかしくはない。

 「こっちの世界にきているのはうちの会社だけなのか?」

 「まさか。すくなくとも北にあるシーア連合にはF-86があるんだ。アメリカ人か西側のどこかの国が支援しているに決まっている。ただ、ブランブルほどの規模の人と資材を送り込めたのはうちだけらしいな。噂じゃあっちとこっちをつなぐゲート的なものの確保が難しいらしい。なんでも会社の創設者の三人が両方の世界をつなぐゲートの秘密を知っているらしいぜ。でも数年もすればアメリカやロシア、中国が国単位で介入してくるんじゃないかってもっぱらの噂さ。せいぜいそれまでに稼いでおこうぜ」

 「そうだな」

 相槌を打ちながら、幡谷はある不安を覚えた。ここが並行世界だとして、もし幡谷の世界の大国がこちらに介入してきたらどうなるのか。ブランブルのような民間企業がこちらの世界の国家の争いに介入することはできなくなるのではないか。それはつまり、幡谷が戦闘機に乗るチャンスがなくなるということだった。

 「この状況が、できるだけ長く続けばいい」

 幡谷の日本語の独り言にパンサーが顔を真っ赤にして何度も頷いた。


 幡谷の飛行場到着、あるいは「こちらの世界」に来てから一週間後、ようやくMiG-21の操縦許可が下りた。とはいっても最初から空を飛べるわけではなく、駐機場をタキシング(地上滑走)するだけだった。それでも狭いコクピットに入りジェットエンジンの音と震度を全身で感じることができ、幡谷は自分がパイロットで空で生きていく人間だと再確認できた。

 戦闘機に乗ることができるようになってから整備部隊と交流も多くなった。飛行機はパイロットだけでは飛ばせない。機体のメンテナンスをしてくれる整備部隊がいなければそもそも戦闘機は動くことすらできない。自衛隊時代からそうしていたように、幡谷はできるだけ整備員と関係を深めようと積極的に彼らと交流した。驚いたことに、整備員の半数以上は地元のエモン帝国人で構成されていた。


 そして、基地到着から二週間後、待ちに待った初飛行の日がやってきた。

 その日の早朝、幡谷は、ロッカーに用意されていた耐Gスーツを身につけた。スーツはバンカーが用意したアメリカ空軍のレプリカ(あるいは無断コピー)で、イラク人のザインが言うには性能はまずまずとのことだった。スーツを着終えた幡谷はラックに掛けられた自分のヘルメットを掴む。ヘルメットもアメリカ空軍のレプリカだが、その側面には英語で「フラッグ」の文字、そして刀を振り上げた侍が翼竜を踏みつけているマークのステッカーが貼られていた。小瀬が気を利かせ、ラプターキラーのマークをコピーしたらしい。

 準備を終えた幡谷がロッカーを出ると、廊下を走っていた警備部門のラップと危うくぶつかりそうになった。

 「あら、フラッグ? これから出撃?」

 「訓練だ。そっちこそそんなに急いでどうしたんだ」

 「帝都マターから要人が来るのよ。こちらの施設を案内するからその準備で、って私は忙しいからまた後で」

 そういうとラップは管制塔の方へ向かって走っていった。

 幡谷はブリーフィングルームへ行き、そこで一緒に飛ぶヤゼン出撃前の打ち合わせ簡単にこなす。それから飛行隊長を務めるバンカーにこれから飛ぶと伝え、現地のエモン帝国空軍から届けられた今日の天候や帝国空軍の飛行計画を確認する。今日の天候は終日の晴天。帝国空軍の訓練飛行は午前中は無い。絶好の初飛行日和のようだった。

 準備を終えた幡谷とヤゼンはパイロットの待機所などがある本棟を出て駐機場に向かう。幡谷の機体は駐機場に、ヤゼンの機体は少し離れた格納庫内にあるので二人は別れたそれぞれの機体に向かった。幡谷は本棟のすぐ近くにある駐機場に向かい、そこに置かれた愛機を見つけた。

 コンクリートを敷き詰めた駐機場の上で整備員たちが慌ただしく作業をしている。その中央に太いボールペンのような形状をした戦闘機MiG-21が置かれていた。ずんぐりとした円筒形の胴体の先端には特徴的なボールペンのペン先のような円錐形のショックコーンと呼ばれる部品だ。降着装置、いわゆるタイヤとそれをさせる柱は妙に長く機体は三本足で爪先立ちをしているような印象を受けた。主翼は短く、機体後部にそそり立つ垂直尾翼はかなり大きい。そこには幡谷のヘルメットの物を拡大したらしい「ラプターキラー」のマークが描かれていた。

 「どうです? 良くかけているでしょ」

 機体の近くにいた若い整備員が幡谷に声をかけてきた。まだ少年のあどけなさが残る彼はエモン帝国からブランブルに派遣されている空軍兵士の一人、コスミン・コトラ伍長だった。

 「尾翼のマークは君が?」

 「そうです。フラッグさんのヘルメットを見て大きくしてみました。できはどうですか?」

 「いいね。わくわくしてきたよ」

 アニメとは異なり自衛隊では基本的にパーソナルマークは許されていない。広報用にピーコングなどがパッチや特別塗装機に乗ることはあったが、あくまでも政治的な理由によるもので一般の隊員に許されている行為ではない。だが幡谷にだって、自分のマークをつけた機体を駆けてみたいという少年の夢は昔からあり、思わぬ形でそれが実現してした。

 「こいつで空を飛ぶのが一段と楽しみになってきた。ありがとう、コトラ伍長」

 「それは良かったです!」

 幡谷はコスミンに礼を言うと自分の愛機に近付きその胴体をそっと撫でた。朝日を浴びた機体の表面はわずかに熱を持ち始めていた。機体のところどこにリベット留されたパネルが見える。複合材製で胴体と翼が一体になっているF-2に比べるとずいぶんと古くさい。だがその無骨は不思議と安心感を幡谷に与えた。電気自動車よりもガソリン車の方が信頼できる、そういったノスタルジックと自分の乗る機体への愛着が混ざった不思議な感情だった。

 MiG-21はスピードが重要視されていた一九五〇年代にソ連で開発された戦闘機で、分類では初期の機体は第二世代、現代まで運用されている機体はアップデートされ第三世代とされている。なお大雑把に戦闘機の世代を分類すると、第一世代は第二次世界大戦中に登場した黎明期のジェット戦闘機、第二世代が音の壁を越えた超音速機、第三世代がレーダーやミサイルを主兵装した機体、第四世代が強力な武器と格闘戦能力、第五世代がステルス機となる。

 MiG-21は第二世代出身の古い機体だが、六十年が経過した二〇一〇年代でも多くの国で運用されている傑作戦闘機だ。最近のものはレーダーやミサイルを装備し第三世代に分類されている。設計思想としては頑丈で扱いやすく、高速で敵機を迎撃するタイプの迎撃機だった。幡谷が慣れ親しんだF-2は格闘戦に優れた第四世代機なので、同じ戦闘機といっても性質は随分と異なる。

 「俺がMiG-21に乗る事になるとは。半年前には考えたこともなかった」

 愛機に手を触れながら、幡谷がつぶやいた。

 「やあフラッグ。今朝も早いね」

 機体の後ろから別の整備員の男が声をかけてきた。年齢は幡谷と同じ二十代後半くらい、どこか人懐っこさを感じる童顔の白人男性だ。どことなくコスミンと似ている。兄弟だと言われれば納得してしまうくらいだ。

 「おはようフランシス。機体の調子はどうだ?」

 「いつも通り、完璧とは言えないが飛ぶには十分だよ」

 その整備員はフランシス・パーリーというアメリカ出身の男だった。元は大手軍事メーカーで開発部門にいたらしいが予算の削減と業績悪化で職を失い、縁があってブランブルに入り、今ではロシア機であるMiG-21やSu-25の整備のエキスパートとして働いている。ブランブルの航空部門整備班は軍出身者に加え、アメリカなど西側の軍事産業にいた人間が何人かいる。軍隊出身者に比べると機体の整備の腕は落ちるが、バンカーが持ってきた怪しげなレーダーやセンサーを、これまたバンカーが持ってくる怪しげな電子部品で修理して使えるようできるのは開発畑にいた彼らにしかできない。整備部隊にはコスミンのように現地出身の整備員も多くいるが、ジェットエンジンやレーダーなどのアビオニクスといった高度な装置の整備は「あちら」出身者にしかできないし、さらに修理となるとフランシスなど元メーカーのエンジニアにしかできない。ある意味パイロットよりも貴重な人材だった。

 「機体の整備はできる限りのことはしている。今日が初飛行だろ? 脱出装置の火薬カートリッジも入れ替えておいたから安心してベイルアウトしてくれて構わないよ」

 フランシスは両手の人差し指で幡谷を指した。それを隣で見ているコスミンは慌てて手帳を取り出し何かをメモしている。おそらく「あちら」の世界のハンドサインだと勘違いしているのだろう。フランシスの動きに、特に意味はないのだが。

 「そんなヘマはしないさ。だがありがとう」

 「うんうん。乗る前にまずは手順通り機外のチェックから頼むよ。それと、今日は実弾は搭載していないから。増槽は予定通り一つ。無理をしなければ一時間は飛べるはずだよ」

 「一時間か、そうすると空にいられるのは四十分ってところか」

 「そんなところ。無事に帰ってきたら午後にも飛べるはずだから。あと、いくらMiG-21は頑丈な機体といっても下手な着地をすれば壊れるからね。荒っぽい着陸をしたら午後の訓練はできなくなるから」

 「気を付けるよ」

 幡谷は目の前の戦闘機を見上げた。MiG-21はF-2に比べると高さと長さはそれぞれ一回り小さく、幅に至っては三分の二程度しかない。弩で飛ばす短矢のようなその形状はまさにスピード重視の第二世代らしい設計で、旋回を繰り返す格闘戦には向いてなさそうだ。しかし贅沢はいえない。いくらMiG-21が旧式でも戦闘機は戦闘機だ。日本でくすぶっていても運が良くてセスナのパイロットがせいぜい。それが、戦闘機を再び駆けられる。それだけでも十分だった。

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