第7話 異郷への道#1

 幡谷が二機のラプターに撃墜判定を下した夜、コープ・ノース・グアムに参加している第3飛行隊と第306飛行隊のパイロットたちはアンダーセン空軍基地内の士官クラブで祝杯をあげた。士官クラブは士官専用のクラブで、一般の兵卒は入ることができない。特にそのクラブは暗黙の了解でパイロット専用の空間で、他の客もみな米軍や演習に参加している他の国のパイロットたちだった。空気の読めないアメリカ本土の司令部要員などが入ろうとすると、クラブの入口にいるパイロット達が睨んで追い返し、見慣れない顔や外国人でも、その胸にパイロットの証であるウイングマークがあれば「よう兄弟」と親し気に歓迎する、そんな空間だ。

 翌日が休みということもあり、広い室内の至る所で各国のパイロットたちが輪になって酒を飲んでいる。アメリカ人とオーストラリア人の集団が流行りの女性シンガーのダンスミュージックを大音量で流しながら踊っていたり、フィリピン人のパイロットたちがニュージーランドのパイロットとカードゲームをしたり、アメリカ人と韓国人がビリヤードをしたりしている。幡谷たち日本人はというと、何人かは踊ったり、知り合いの外国人パイロットに呼ばれて別のグループと飲んだりしていたが、大多数は少し離れた隅の方で輪になって溢れんばかりにケチャップとマスタードがかかった山盛りのフライドポテトをつまみにアメリカンサイズの一パイント(約四百七十五ミリリットル)ジョッキでビールを飲んでいた。

 士官クラブは基地ができた頃からの敷地の中にある伝統ある建物だ。アンダーソン空軍基地は一九四四年に日本を攻撃するB-29爆撃機の基地として作られた場所で、士官クラブ内の壁には誇らしげに基地設置当時の由来を書いたプレートや当時の写真などが飾られている。パイロットだった祖父を太平洋戦争で失っている幡谷としては思うところが無いわけでもなかったが、アメリカは今の日本にとっては重要な同盟国。過去は過去、今は今だ。かつて矛を交えて国通しが一緒に訓練をして酒を飲む。平和とはこういうものなのかもしれない。

 幡谷の肩、通常は部隊マークのパッチが付いている場所には印刷したてのシールが貼ってあり、兜を来た武者が翼竜に刀を突き立てている。第3飛行隊の仕事の早い整備士が、幡谷の快挙を聞いてから一時間で作った新しいパーソナルマークのシールだ。


 「よおし、じゃあもう一度、ラプターキラー、フラッグに乾杯だ!」

 

 クラブの片隅で航空自衛隊パイロットたちが何度目かの乾杯をする。昼間の演習に参加した八名に加え、輸送機のパイロットや昼間の演習に参加しなかったパイロットも加わりテーブル三つを占拠する大所帯になっていた。

 ガラス製のビールジョッキが荒々しくぶつかり合い、白い泡がテーブルにこぼれるが誰も気にしない。


 「どうしたのフラッグ、男を見せなさないよ」


 ベロベロに寄ったピーコングこと西野が半リットルのビールを一気に飲み干し、まだ四分の一もビールを減らしていない幡谷を煽った。


 「言ったな? 後で公開するぞ」


 既に呂律が怪しくなってきた幡谷が残ったビールを一気に飲み、空になったグラスを勢いよくテーブルの上に置いた。


 「やるじゃない。さすがはラプターを落とした男ね。今度は私を落としてみる?」

 「はっ、お前なんてフィッシュベッドよりもたやすいぜ」

 「いうしゃない」


 足元をふらつかせながら西野がしなをつくるというか、よろめく。それをコントこと永森が受け止める。


 「ほら二人とも、ほどほどにね?」

 「なによ、フラッグのやつわたしをフィッシュベッド扱いしたのよ。防府のフランカーとよばれた私を」

 「うん、今初めて聞いたよ?」

 

 フィッシュベットとはソ連製のMig-21のことで、ベトナム戦争などで活躍した戦闘機だ。現在でも高価な第四世代機を購入できない国で現役で使われており、中国もJ-7として自国で生産した数百機を運用している。F-2に乗って中国版フランカーであるJ-11と出会ったら不幸、J-7が出てきたら楽勝、フィッシュベッドの扱いはそんなものだ。


 「ヘイ! 兄弟たち。どいつがフラッグだい?」


 幡谷の噂を聞きつけたらしい他の国のパイロットが日本人グループに入ってきた。編隊長どうしで今日の感想戦をしていたボンゴこと北浦二佐が西野に絡まれている幡谷を呼ぶ。チャックというアメリカ人パイロットは幡谷に握手を求め、それからクラブの入口で苦笑いをしている二人のパイロットを手招きした。


 「こっちだ。こっちにラプターキラーがいるぞ」


 その二人は幡谷に撃墜判定を受けたラプターパイロットだった。幡谷は姿勢を正すと、すこしビールで湿った手で二人と握手を交わし、それから記念撮影をしたり、別のビールを飲み交わしたりした。ピーコングは今度は自分を落としたメッツというタックネームの若いラプターパイロットに絡み始め、自由になった永森は幡谷のところにきてもう一度飲み直す。今度はビールジョッキに入ったコーラだ。

 士官クラブで二時間ほど飲んだ後、若手である幡谷、西野、近藤の三人はひたすら飲み続ける先輩パイロットたちに別れを告げ、宿舎に戻ることにした。

 

 「ちくしょー、今日はフラッグにいいところを全部もっていかれたー」


 顔を真っ赤にした西野が近藤に肩を支えられながら幅の広い歩道をふらふらと歩きながらいった。

 アンダーセン空軍基地は非常に大きい基地だ。三千メートル級の滑走路が二本、航空機の駐機スペースは七十万平方メートル、つまり東京ドーム(四万七千平方メートル)十五個分相当に広さがあり、百五十機の航空機が並ぶことができる。二億五千万リットル以上の航空燃料と七万発以上の航空機用のミサイルや爆弾を保管している。それだけの設備を擁する基地も当然大きく、軍人用の住宅や大型商店もありそれだけで大きな町のようで車が無ければ移動もままならない。幡谷たちは送迎を丁寧に断り、酔い覚ましも兼ねて宿舎までの道を歩いていた。


 「一機目を落とせたのはピーコングのおかげだ。ま、二機目は完全に俺の実力だけどな!」

 「私だってー、もう一度やれば、ラプターの二機や三機くらい、ばあああっと落としてやるわよ」

 「来週の演習でまた戦う機会もあるだろうぜ」

 「おおー、その時を見なさいーい」


 西野が握った手を掲げようとしてバランスを崩すが、それを永森がしっかりと支える。


 「ピーコング、飲みすぎだよ?」

 「うー、まだまだ飲み足りないわよ。そもそも、コント、あなたは悔しくないの?」

 「そりゃあ、僕だって思うところはあるよ。君たちと違って反撃すらできなったんだからね。まあ、ボクサー編隊の中で初撃を回避できたんは僕だけだったから、多少の自信にはなったかな」

 「低い! コント、あんたの志は対地接近警報装置がビンビンになるくらい低い。アルティチュード、あるてぃちゅーど、ほら、はい、どーん」


 対地接近警報装置は戦闘機搭載されているセンサーの一つで、墜落防止のために設定された高度を機体が下回ると警告を出す装置だ。警報音は女性の声で「アルティチュード(高度)」という言葉を繰り返す。


 「コント、あんたのひくーい志はグアムの海に墜落しちゃいましたー、残念」


 そういって西野は近くにあった街灯に寄り掛かった。雑にペンキの塗られた柱を抱きかかえたまま、ピーコングは「私だって」とか「空の上なら」など街灯に向かって愚痴を言い始めた。


 「ピーコング、随分と酔ってるね。よっぽどフラッグに負けたことが悔しかったんだろうね。反撃の機会すらつかめなかった僕と違って、彼女はラプターの後ろにはつけたんだから」

 「俺たちは二対一だったかな。お前は一人で戦ったんだ。それで一瞬でもラプターのケツに食らいついたんだから大したもんだよ」

 「二機もラプターを落としたエースパイロットにそういってもらえるなら自信を落とさずにすむよ」

 「俺は運が良かっただけだ。同じことをしろって言われても多分無理だぜ?」

 「弱気じゃないか? 日本初のラプターキラーなんだからもっとどっしりと構えてないと」

 「気合いは入れるよ。だけど、実際に戦ってみてわかったよ。第四世代機じゃ第五世代機には勝てない」

 「そうだね……」


 幡谷と永森は緩めていた頰を戻した。日本もF-35を導入するとはいえ、主力戦闘機は当分の間F-15とF-2の第四世代戦闘機になる。アメリカと敵対する可能性は低いが、隣国の中国はJ-20やJ-31、ロシアもPAK-FA、のちにSu-57と呼ばれるステルス戦闘機を開発している。もしF-35を持たない部隊がそれらのステルス機と戦うことになれば苦戦は免れない。


 「F-2のレーダーはほとんど役に立たなかった。先にコントたちがやられていなければ、爆撃機を囮にできなければ、俺も気がつかないうちに撃墜されていた。本当に運が良かったよ」


 幡谷は肩のパッチに貼ったままの侍がラプターに刀を突き刺すシールを撫でた。幡谷にとっての勲章、だがこのシールの裏では七人の侍がラプターに食い殺されている。もし実戦なら、百人以上の侍の犠牲でやっと一匹のラプターを倒せるか倒せないかだ。


 「まあ、そのためのF-35じゃないか。今回のコープ・ノース・グアムで君の評価は爆上げだ。さっき隊長たちが話していたよ。君が新設されるF-35飛行隊のパイロット候補だってね」

 

 F-35はアメリカが主導した開発した第五世代戦闘機だ。F-22に比べるとやや小型で価格も安く、エンジンもF-22が二基なのに対してF-35は一基しか搭載していない。価格もアメリカ軍の調達価格ではF-22は一機あたり約一億五千万ドル、F-35は約八千万ドルなので倍近い差がある。F-22とF-35の関係は高性能なF-15を補完する安価なF-16といったの関係に似ている。F-35は「ロー」の機体ではあるものの、開発時期はF-22よりも新しいため内部のセンサーやコンピュータなどの電子機器が新しく、F-22よりも優れた部分も多い。劣っているとは言えない。何より、F-35はF-22と同じ第5世代戦闘機。F-22対F-2のように横綱対高校相撲の戦いではなく、少なくとも同じ土俵で戦うことができる。


 「F-35か。日本人の訓練は再来年からだったよな」

 「フラッグは希望は出しているんだろ?」

 「もちろん。男なら最強の戦闘機に乗りたいからな」

 「僕もF-35飛行隊を希望している。そしてピーコングもね」


 そういって近藤は近くの街頭に寄りかかったまま半分寝ている西野を見た。その視線に戦友に対するもの以外の感情を読み取った幡谷は気をきかせることにした。高い状況認識力と決断力は現代のパイロットに求められる必須能力だ。


 「俺はもうちょっとこの辺りを散歩して酔いを醒ますよ。悪いけどコントはピーコングを送っていってくれないか」

 「わかったよ。道に迷ったら電話をくれ。迎えにいくから」

 「おう。じゃあ、また明日な」


 近藤は寝ぼけた西野を引きずるように宿舎の方へ歩いて行った。二人の距離は心なしか先ほどよりも近い。幡谷はいいことをしたという達成感とミサイルを全弾撃ち尽くしてふわっと軽くなった機体のような一抹の寂しさを感じた。


 「コントがピーコングをなあ」


 幡谷と永森、西野の三人は航空自衛隊航空学生として山口県の防府にある第12飛行隊でパイロットの訓練を受け始めた頃からの付き合いだ。男と女、ロマンスの一つや二つが生まれても不思議ではないが、三人がそれぞれ友人同士という関係が変わるのは少し残念でもあった。


「 さて、これからどうするか。すぐに宿舎に戻ったらお邪魔虫だし、また飲み直すか」


 士官クラブでは先輩パイロットたちがまだ飲んでいるはずだし、いなくとも別の国のパイロットたちと飲めばいい。クラブにはビリヤード台もあったから適当にだれかを捕まえて一ゲームくらいするのもいいだろう。そう思って幡谷がその場で百八十度回頭すると、いつの間にか目の前に見慣れない女性が立っていた。

 その女性は一見して日本人だとわかった。基地内で働くアジア系の女性は顔のつくりは日本人や中国人に似ているものの化粧の仕方がアメリカンになる。今目の前にいる女性は日本の新卒会社員といった感じのナチュラルメイクで、服装もリクルートスーツのような地味なスーツ。腕には「Press」と書かれた腕章をつけ、デジタル一眼レフを肩から下げている。日本の報道関係者だろう。自衛隊関係のマスコミは限られているので、大抵のジャーナリストや記者は顔見知りなのだが、その女性は幡谷の見かけない顔だった。


 「あの、幡谷翔一尉ですよね」

 「ええ、そうですよ。あなたは?」

 「私、ジャパン・ウイングス誌の佐藤と申します」

 「ジャパン・ウイングス? ああ、いつも読んでいますよ」


 それは日本で発行されている軍用機の専門雑誌の名前だった。いわゆるマニア誌で、大きな写真とわかりやすい文章で最新の戦闘機や航空自衛隊の部隊についての記事を掲載されている。マニア誌は航空自衛隊にとっては外部の広報部のようなもので、幡谷の所属する第三飛行隊も年に何度も取材を受けている。ただ、幡谷の記憶にあるジャパン・ウイングスの記者はもっと年配の男性だった。


 「初めまして、ですよね?」

 「はい。ご挨拶をさせていただくのは初めてです」


 そういうと佐藤はカバンからピンクの名刺入れを出し、中から名刺を一枚取り出すと幡谷に渡した。ジャパン・ウイングス編集部の佐藤麗奈というらしい。ちょっと妙だなと幡谷は首を傾げる。海外演習の取材は雑誌にとってもかなり大きなイベントだ。新人の記者一人を送り込むのは少し不自然だった。


 「雑誌社の人がアメリカまで来るなんてめずらしいですね。いつもは方はいっしょですか。ええと杉村さんでしたっけ?」

 幡谷はジャパン・ウイングスの馴染みの編集者の名前を少し間違えて出してみた。


 「もしかして杉山のことでしょうか? 杉山は今回は本誌の仕事が残っているので来れなかったんです。私はたまたま、人道支援訓練の取材でC-130に乗せてもらってグアムまで来たんです。米軍さんの好意で基地の中も取材をさせてもらってるんです」

 「ああ、なるほど」

 

 コープ・ノース・グアムは戦闘機や爆撃機など戦う飛行機が主役の演習だが、同時に輸送機などが主役となる輸送の演習や、紛争地帯に食料や衣料品を届ける人道支援の訓練も行われている。きっと佐藤も日本から物資を輸送して訓練に参加した航空自衛隊機か在日米軍の輸送機に乗ってきたのだろう。輸送機の取材は戦闘機に比べるとやや地味だし、人道支援の訓練は女性の方が新鮮な切り口で積極的に取材をすることも多い。


 「ところで、その肩のパッチ、ラプターキラーですよね?」

 

 佐藤が暗がりの中で目を光らせた。


 「よくご存知ですね。どうです、かっこいいでしょ? うちの整備員が一時間で仕上げてくれたんです」


 幡谷はシールを見せつけるように佐藤の目で肩を突き出すポーズをとった。女性と戦闘機の話をするのは楽しい。普通の女性はラプターといっても何のことかわからない。たぶん十人に聞いても戦闘機の事を思い浮かべる女性はいないだろう。それどころか気持ち悪がられるか引かれる可能性が高い。戦闘機の話をして口説ける女性はほとんどいない。せめてブルーインパルスになら十人に二人、戦闘機パイロットの給料が高いといえば十人に五人は耳を傾けてくれるが、F-22を撃墜したんだといってもそれこそ百人に一人落とせるかどうかの世界だ。その点、軍事雑誌の編集ならF-22が何であるかも、それを落とすことがどれほど大変かも知っている。


 「F-22を撃墜するなんてすごいですね! 日本人初じゃないですか! どうやって落としたんですか?」

 「それは、ふっ、軍事機密なので教えられません。そうですね、まあ航空自衛隊のマーベリックと呼ばれた俺の実力、ですかね」


 マーベリックというのは有名な戦闘機映画の主人公のタックネームだ。主演はトム・クルーズ。もちろん、幡谷のタックネームは「フラッグ」なので一切関係がない。


 「あの幡谷さん、もしよろしければこれから一杯いかがですか? ラプターのこととか幡谷さんのこと色々と聞かせてくれませんか」


 佐藤は顔を少し赤らめ、もじもじとうつむきながらいった。一応、色仕掛けのつもりなのか、ちらちらと上目づかいに幡谷の顔を見ているが、真面目そうなリクルートスーツと一番上までしっかりとボタンを留めた白いシャツでは破壊力は今ひとつだった。ラフな服装に胸元がはち切れんばかりの基地の女性スタッフや、鍛え上げられた腹筋を見せながらランニングをするアメリカ軍の女性隊員の方が魅力的だが、真面目そうな日本人とアメリカで飲むのも悪くはない。ただ、ほいほいとついていくのは何となくプライドが許さなかった。


 「うーん、どうしたものか。記者と一対一で飲むとあとあと問題になるかもしれないしな」

 「もちろん割り勘です。公務員規定に違反しない範囲で」

 

 佐藤は必死に幡谷にくいついてきた。雑誌の編集者にとって取材源の確保は非常に重要だ。もちろん、幡谷と佐藤が個人的に親しくなったからといって、ジャパン・ウイングスに贔屓をするわけではないが、ぽろっと面白い情報を口にしてしまうこともあるかもしれない。新人らしい佐藤にとって、幡谷とのパイプは今後の武器になるはずだ。


 「そうか、まあ少しくらいならいいかもしれないなあ」

 「是非、お願いします。ラプターとかF-35の話も聞かせてもらいたいです」

 「へえ、35の話か」

 

 佐藤は目端の利く記者らしい。幡谷が近い将来、F-35の飛行隊に入ることも予想しているだろう。最新鋭の戦闘機部隊の隊員とのつながりは何よりも貴重だ。


 (油断はできないな)


 幡谷は必要以上に情報を取られないよう気を付けることを鼻の下を伸ばしながら決めた。


 「私、いいお店を知っているんですよ。美味しい日本酒もあるそうです。そろそろビールにも飽きてきたころじゃないですか?」

 「日本酒か、いいね。アメリカにきてから毎日ビールを飲んでいるけど、俺はもともと日本酒党なんだ。よし、じゃあ一杯だけご一緒させてもらおうかな」

 「ありがとうございます!」


 そういって佐藤は採点が終わり、落第を免れてほっとする女子大学生のように喜んだ。どちらかといえばスレンダーな佐藤は幡谷の趣味からは外れていたが、若くて美人には変わりはない。美女を撃墜する快楽は戦闘機で敵機を撃墜する快楽に勝るとも劣らない。


 (コントやピーコングもよろしくやっているんだ。俺だって多少はな)


 永森が紳士的に西野をベッドに寝かせ、波多野が戻ってきたら軽く一杯飲もうと缶ビールとつまみのスナックを用意しているともしらず、幡谷は「こっちです」と前を歩く佐藤のタイトスカートを見ながら浮ついた足取りで基地の中を進んでいた。

 結局、幡谷が自分の部屋に戻ったのは翌朝のことだった。

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