〈3.3〉彼女と彼女のガレキ
で、次の日、午後遅い時間にガレージハウスに行くと、すすくちゃんの激怒からすべてが始まった。
「ハガネぇー!」
ボク様が来てからきれいになった机の上には、手のひらサイズのガレージキットがちょこん。“コートアーマー”なんだけど、ごてごてカスタムしてて、突き刺したら超痛そう。
んで、なんですすくちゃんが怒ってるかと言うと、
「言ったよね。これめちゃくちゃレアなんだって! なんで勝手に組み立てたの!」
「俺が知るか。そんなもん、興味ないんだから」
「そ、そ、そんなもん~!? ニャンフェス行って、めっちゃ並んでようやく手に入れたzampodさんのオリジナルカスタム“コート”のガレキ! ……ていうか、ハガネしかいないでしょ! 金庫にしまってあったんだから!」
いや~、怒ってるすすくちゃんも可愛いな~、必死で。これは気をつけないといけないな。同棲生活が始まったら、これが見たくてついついすすくちゃんにいじわるしちゃうかも。
ってな感じで内心ニッコリしてたら、ボディガードがボク様の方をちらっと。
「……最近はこいつもいるだろ」
「はー? そういうこと言う? 犀麻ちゃんがこんなことするわけないでしょ! だいたい金庫開けられるわけないじゃん。私だって開け方知らないし!」
ボク様のことかばってくれるすすくちゃん。たじたじのボディガード。うーん、いい光景。しめしめ、ちょっと追撃しとくか。
「あ、あの……すいません。私が来るようになったからですよね……ってことはつまり私のせいで……」
「違うからね」ばっ、とこっち向くすすくちゃん。「犀麻ちゃんは全然悪くないから」
きりっとしててかっこいい~! やばい! 誰かカメラ持ってこい! 激写激写! これを写真に撮って永遠に世界の歴史に残さなくては! いや、残すな! 全人類が惚れてしまう! やっぱり、この瞬間はボク様だけのもの! きゅんきゅんしちゃうよ~。だってボク様のこと百パー信じてて、それを真剣に口に出してボク様のこと守ろうとしてるのかっこよすぎよ~。
まあ、ガレージキット組み立てたのボク様なんだけど。
すすくちゃんが帰ったあと、ボディガードが夕飯食べに外出てるあいだに、こっそり忍び込んで金庫の鍵開けて、ガレキを別のとこで組み立てて、また持ってきたのだ。雑魚い金庫だったよ、チョコボールの蓋開ける方がムズいって感じ?
「ていうか、なんでこんな嫌がらせするわけ? 信じらんない」
そして目論見どおり喧嘩が勃発。よし、ボディガード! お前はもうお払い箱だ! 安心してくれ……すすくちゃんはボク様が一生守るから……嫌われちゃったんだからしょうがないよね。くひひひっ。
「なんなの? 私なんか悪いことした? こんな完璧に作ってさ!」
すすくちゃんは“コートアーマー”のミニチュアをボディガードの目の前にずいっ。
たぶんどっかの軍の“コート”なんだけど、いろいろカスタムされてて、変なところが装甲厚かったり、持ってるのもSF映画みたいな銃だしで確かにすげー組み立てるの大変だった。塗装も面倒くさかったな~。何回も塗らないとムラが出ちゃうんだよ。ちっちゃいデカールもいろんなとこに貼らなきゃいけないし。でも、ググって作った初作品にしてはよくできた! ボク様、もしかして才能ある? 潜入して金庫開けてガレキ作って、ってもはや才能のデパートじゃん。自分で自分が怖い!
ボディガードはガレキを突きつけられると、一瞬怪訝な顔をしたあと、ものすごい目つきでそれを見た。急にすごかった。ギラって感じ。
「……すまん、勝手に作って。俺が悪かった」
そうそう、お前が悪いんだぞ。ボク様とすすくちゃんの蜜月を…………へ? 今、謝った? い、いやいいんだけどさ……でも、作ったのボク様じゃん。なんでそんな嘘つくん?
またすすくちゃんが何か言おうとしたけど、ボディガードは頭を下げた。
「本当にすまない! ……その、なんか作ってみたくなって……」
「はあ、何それ……常識どこやったの」
「これ、個人で作ったやつなんだよな。連絡とってもう一つ売ってくれるもんなのか」
「……まあ、余ってたらくれるかもしんないけど……なに、買ってくれるの?」
「ああ。連絡先とかって」
「SNSしかわかんない」
それでいい、ってボディガードはすすくちゃんに教えられながら、携帯でそのSNSアカウントを取り始めた……って、いやなにどういうこと!? 怖い怖い! 何考えてんのこいつ! なんで自分が作ったって嘘ついたの!? いや、百歩譲ってすすくちゃんと喧嘩したくなかったからってさ、誰かが家に忍び込んでんだよ!? ボク様怪盗だけど、ちょっとそれどうなのって心配になるっていうか、やっぱり怖い! なんだこいつ!
パニクってたら、ボディガードは新しいアカウントでもうそのガレージキットを作ったモデラーにメッセージで連絡とってた。いちいち読み上げながら文章打ってるから、ボク様にも筒抜け。おじいちゃんかよ。
「既読はついたけど返信がこない」
「貸して」とすすくちゃんが携帯を奪い取った。と思ったら、ぽちぽち。
すぐにボディガードに返す。
「返信来たよ」
「……本当だ。おい、なんて送ったんだよ」
それはちょっとボク様も気になる。
「当方、十七歳。JKです、って」
男を手玉にとるすすくちゃんかっこひひ。
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