〈3.2〉ファントム怒りの分断攻撃!
そんなこんなでガレージハウスの掃除をすることになったけど、正直ボク様キッチンの頑固な油汚れとか壁のシミとかお風呂のカビとかきれいにしたことないし、てゆーかやり方知らんし、整理整頓とかボク様も超苦手なわけですし、ほんと穉森犀麻=ドジっ子キャラで行っててよかった~と思うんだけど、しかもおっそろしいことにこのボディガードの部屋はプロでも手こずるんじゃね? ってくらい散らかってて、つまりマジで地獄!
でも、すすくちゃんがいるから、オールオッケー。気分はサイコー!
天秤の片方にはボディガードの事務所を掃除するって屈辱と苦労、でも、もう片方にすすくちゃんを載っけると、はいどーん! 投石機みたいにデメリットは吹き飛んでいきました! ホームラン! お星様きれーい。
ほんと何度このままさらっちゃおうかなーと思ったかわかんないけど、そこは常にボディガードが同じ部屋にいてて、すすくちゃんの美しいお顔を眺めてるぶんには無視できるけど、やっぱりいざ実力行使! って考えるとためらっちゃうくらいにはボク様賢明なんだよね~。あいつが着てた……“パーシヴァル”? って“コート”さえなければ、とっとと“エギーユ・クレーズ”装着してどこか遠くにすすくちゃんを連れ去ってSIMAITAIんだけど――
しかし、チャンスはやってくるものである!
なんかボディガードは“コートアーマー”の修理だかの仕事もやってるみたいで、ある日、立て込んでる一件のために
すすくちゃんがボク様と二人っきりになることを若干嫌がってたけど、すすくちゃんは「犀麻ちゃんはもう身内じゃん」なんて心配ないって言い張った。もう身内! 結婚も視野に入れてるってこと!? 鼻血でそう。
というわけで、ソファーに座って、低い机で学校の宿題をやってるすすくちゃんを、ボク様はきったねえスニーカーとかTシャツをゴミ袋に入れながら、ちらちら盗み見ている。
どうやら難しい宿題みたいで、凛々しい顔をしかめてノートとにらめっこしているすすくちゃん。はあ~、連れ帰って愛で回したい。机の上をうろうろ歩き回ってる黒猫のマッツ……君もちょっと可愛いから、一緒に連れてってあげてもいいよ。
そして邪魔なボディガードは
これは千載一遇のチャンス! 乾坤一擲でさらっちゃって、一日千秋のモンモンに蹴りをつける!
ボク様は汗臭いシャツを置くと、そろりそろりと背後からすすくちゃんに近づいた。
覆いかぶさるみたいに問題集に集中してるすすくちゃんのうなじが……うなじが! 短い髪が届かなくてちらちら見えるうなじが! 耳の形も可愛い! うおー、駄目だ……落ち着けボク様。後ろでふんがふんが鼻息荒くしてたら気づかれちゃう……
よーし、もうちょっとだ……もうすぐ手が届く距離に……そしたら、このマフラーをばさっと払って、セラフィム・ドライブを起動して“エギーユ・クレーズ”を装着。素早くすすくちゃんを抱きかかえて、あの窓をぶち破って外に…………抱きかかえる? やば! すすくちゃんに触る!? やばい鼻息押さえられないかも……
正直に言う。ボク様、超モンモンしてた。
だけど、そのとき! 無粋な一声が階下から!
「おーい、雪! ファグポットの一九年型のスピナー持ってきてくれー! シリンダーのラップフロントが少しダッジしてるローダーだ!」
こ、このボディガード野郎~。いいところで邪魔を…………え? なんて?
「自分で取りに来なよ!」
と立ち上がったすすくちゃん、振り返って目の前にいたボク様に「うわ、びっくりした」とか言いながら、ボク様が連日片付けて作り上げた謎の工業製品コーナーにすたすた歩み寄ると、なんかよくわからないタコの化物みたいな部品を手にとって、さっさとガレージに降りてった。マッツもなんかついていった。
……さっきの暗号、理解できたの?
な、な、な、なにそれ! なんでかわかんないけど、ぜってえ許せねえ! って気分がモリモリ湧いてきて、心臓がねじれて喉から飛び出てきそう。全部の血がぶくぶく沸騰して化学変化を起こして猛毒酸になっちゃって、ボク様の全身を焼殺&溶解、みたいな。
ふだんガレージハウスの掃除してて、二人のやりとり見てるときから、ちょっと感じてたこの自分の気持ちの違和感が、ついに形を手に入れてボク様の心をぐちゃぐちゃに食い荒らしていく。
あーあ、わかった。これ嫉妬だ。
嫉妬してるんだ、ボク様。結局二人はなんだかんだ仲良くて、今目の前で自分のわからない言葉で会話交わされて、ついにボク様気づいてしまったんだ。ボク様は二人にとって異物で、この掃除仕事が終わったらいなくなるただの家政婦でゲストキャラなんだって。
くひ、くひひひっ。
絶対にそんなことさせない。すすくちゃんはボク様のものになるんだから!
ボク様は大怪盗だ。ファントムだ! 変装して潜入するだけが唯一の特技だなんて思われちゃ困るね。ゲストキャラはお前の方だ、ボディガード! とっとと、ボク様とすすくちゃんの人生レコードから消え失せるがいい!
誰もいない二階で、ボク様は部屋の隅にある金庫にゆっくりと近づいたのであった。とぅーびーこんてにゅーど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます