第43話『星間通信』

 お昼ご飯は美夢と有希が作ることになった。夕ご飯は外で食べることになったので、気合いを入れて作るつもりだという。2人とも昔から俺と一緒に作っていて、料理の腕は相当なものだ。

 そんな2人が作ったのはハンバーグ。期待したとおりでとても美味しかった。エリカさんやリサさん、愛実ちゃんも満足そうだった。




 午後は美夢が持ってきたホームビデオを見ることに。写真だけじゃなくて動画の方が、これまでの俺の堪能できるだろうと考えたそうだ。

 今度こそ逃げようと思ったけれど、主役がいなければ意味がないと再びエリカさんとリサさんに拘束されてしまった。写真なら何とか耐えられたけれど、動画は非常に危険だ。


「……うん? いいけれど……」

「どうしたんですか? エリカさん」

「みんなが集まっているところを見たら、お母様が話したいって。向こうも公務が一段落したみたいで。私やリサは定期的に地球の報告をするときに話しているけれど、宏斗さんは久しぶりでしょう?」

「エリカさんがこの家に来たとき以来ですね」


 ただ、一度しか話したことはないけれど、仕事から帰ってくると「お母さんに報告した」と話すことが多いので、久しぶりという感覚もあまりない。


「エリカちゃんのお母さんと話せるの? あたし、話してみたい!」

「私も!」

「あたしも話してみたいですね。エリカさんのお母様ですから、きっと綺麗な方なんでしょうね」

「ふふっ。分かったよ。じゃあ、ホームビデオを観る前にお母さんと話をしよっか。向こうの様子をテレビに映すね」


 正直、ナイスなタイミングでルーシーさんが話しかけてくれた。これで少しでもホームビデオを観る時間が減れば幸いだ。

 すると、テレビにはルーシーさんの姿が映し出される。おまんじゅうを食べているよ。


『エリカ、リサ、風見さん。さっき、地球から旅行のお土産が届きました。どうもありがとう。このおまんじゅう美味しいです』

「良かった、お母様に気に入ってもらえて」

「そうですね。ただ、女王様もエリカ様と同じくらいに甘いものがお好きですからね。ゴーフレットなどのお菓子や、日本酒という地球のお酒もエリカ様と一緒に買いましたので、気に入ってもらえると嬉しいです」

『ありがとう。お父さん達と一緒に楽しむわぁ』


 おまんじゅうが気に入ったのかかなりの上機嫌だ、ルーシーさん。こういう姿を見ると、エリカさんのお母さんなんだなと思える。


『ところで、風見さん。初めて見る女性が3人ほどいますが、彼女達はみんな風見さんの女なのですか? 地球では今のような状況をハーレムと言うのですよね?』

「いえいえ、ハーレムなんてことはありませんから。彼女達は、俺の妹と職場の後輩の子です。今日は土曜日で会社や学校がお休みですから、俺の自宅に遊びに来ているんです」

『あらぁ、そうでしたか。てっきり、エリカの恋のライバルと思ったのですが』


 ルーシーさんはつまらなそうな表情をしている。前に、エリカさんに俺のことをゲットできるように頑張れと言ったじゃないですか。


「あたしは前に宏斗先輩に告白しましたが、見事にフラれました! あっ、初めまして。宏斗先輩の職場の後輩の白石愛実です。23歳です」

『告白したことはとても素敵なことです。今でも風見さんと仲良くできているのですから、その思い出を大切にしておくのがいいでしょう。自己紹介が遅れましたね。初めまして、私、ダイマ王星を統制するダイマ王国の女王であるルーシー・ダイマと申します。そちらにいる第3王女のエリカ・ダイマの母です』

「私、風見宏斗の妹で風見美夢といいます! 大学2年生で今年20歳になります」

「同じく妹の風見有希です。高校1年生の16歳です」

『あらあら。みなさん若くて羨ましいわ。地球の方は成長が早いのですね。みなさんを見ていると、若かりし頃のことを思い出します』


 ルーシーさんは楽しげな笑みを浮かべている。いやいや、あなただってとても若々しいじゃないですか。きっと、俺以外の地球人3人も同じようなことを考えているだろう。


「はい! 質問してもいいですか?」

『もちろんいいですよ。どんなことでしょうか、美夢さん』

「さっき、エリカちゃんの年齢が110歳であると知ったのですが、お母様はおいくつなのですか? とても若々しいですが」


 そういえば、ルーシーさんの年齢っていくつなのか聞いたことがなかったな。寿命が長いこともあって、いくつなのか全く予想がつかないけれど。


「ふふっ、いいでしょう。私の年齢は地球時間で換算すると……230歳です」

「あ、あたしの10倍……」

「さすがはエリカさんのお母様ですね」

「へえ、230歳なんですか! この見た目で230歳ですと、死ぬまでずっとそのままなんじゃないですか?」

「そういえば、私が生まれた頃から、お母様の見た目はずっと変わらない気がする……」

「私の記憶の限りでも、女王様はずっと変わっていませんね」

「あらあら、みなさん嬉しいことを言ってくれますね。ダイマ星人も歳を重ねればさすがに老けますが、今の見た目のままで平均寿命の600歳を迎えたいですね」


 ルーシーさんならそれができそうな気はするけれど、彼女が600歳になるときには俺達地球人は死んでいるので確認のしようがないな。


「じゃあ、リサちゃんのお母さんも若々しくて綺麗なの? あと、どんな仕事をしているの?」

「王家に仕えるメイド長です、愛実様。娘の私が言うのは何ですが、私よりも子供っぽい見た目といいますか。性格はとてもクールで大人っぽいのですが」

『ふふっ、確かにあなたの母親のミサは子供っぽい見た目よね。ミサちゃん! 地球にいるリサやエリカ達があなたのことを話題にしているわよ』

『……メイドである私のことを話題にしていただけるとは、光栄なことでございます』


 すると、エリカさんの隣にメイド服姿をした黒髪の少女が現れた。顔つきも体つきもリサさんより子供っぽいかも。この方がリサさんのお母さんのミサさんなのかな。


『地球のみなさま、初めまして。リサの母のミサ・オリヴィアと申します。王家のメイド長を勤めております』

「初めまして、風見宏斗です。この家の家主です」

「その妹の美夢です」

「同じく、妹の有希です」

「風見宏斗が勤める会社の後輩の白石愛実といいます」

『……エリカ様もリサも、地球で素敵な方々と出会ったのですね。メイド長として、母として嬉しく思います。心なしか、リサもダイマ王星にいる頃よりも元気に感じます。風見様という殿方と一緒に暮らしているからですか?』

「な、何を言っているのですか、お母様! エリカ様と久しぶりに再会して、一緒に暮らすことができているのが嬉しいからです! 確かに、宏斗様もいい方だと思っていますが……」

『……ふふっ、お可愛い娘だこと』


 ミサさんのその笑みはとても大人っぽく見える。それとは対照的にリサさんは少し不機嫌そうな様子で顔を真っ赤にしている。


『そうだねぇ、ミサちゃん。……あっ、彼女とは幼い頃からの親友でもあるの。エリカとリサのような関係ね』

『そうですね。私は225歳ですし。ただ、女王様と年が近いこともあってか、どうしてこんなに発育の仕方が違うのか何度も考えたことはありますが。リサが私より体の発育が良くて、母として安心です』

「……エリカ様を見ていると、お母様の気持ちも分かりますよ」


 はあっ、とリサさんは小さくため息をつく。そんなリサさんのことを美夢が後ろから抱きしめて、頭を優しく撫でている。

 ルーシーさんやエリカさんの側にいたら、親子で似たようなことを考えるのは当たり前なのかもしれない。


『風見宏斗様。地球でのエリカ様と娘の居場所を与えてくださりありがとうございます。お二人や女王様から話は聞いていたのですが、一度お礼が言いたかったので』

「いえいえ。2人のおかげで本当に助かっています。以前よりも仕事が捗るようにもなりました」

『そう言っていただけると母として、メイド長として嬉しく思います。今度ともお二人のことをよろしくお願いいたします』

「こちらこそよろしくお願いします」


 エリカさんとリサさんを預かっている身としても、彼女達にあまり迷惑をかけないように気を付けなければ。

 あと、こういうときのミサさんの姿は、本当に落ち着きもあって母やメイド長としての貫禄を感じられる。


『ふふっ。みんなと話したら、私も地球へ遊びに行きたくなってきちゃった』

「こっちはいつでも遊びに来ていいからね、お母様」

「お待ちしています、女王様」

『ありがとう、エリカ、リサ。今日も元気そうで良かった。エリカ、引き続き風見さんをゲットできように頑張りなさい。またね』

『皆さま、体調には気を付けてくださいませ。それでは失礼いたします』


 そう言うと、テレビに2人の姿が写らなくなり、真っ暗となった。


「どの星にも家庭があるんだね、お兄ちゃん」

「そうだな」

「テレポート魔法もそうだけど、テレビを通して他の星にいる人とお話しすることができるなんて。凄い体験をしたね、姉さん」

「うん! ダイマ星人って凄いなって思うよ。超能力はいくつも使えるし、地球人よりも寿命はとても長いし」


 力も地球人よりもかなり強いし。それを何度も身を持って思い知らされた。これから地球人も進化していって、ダイマ星人に少しでも近づく未来が待っているのだろうか。


「エリカちゃんとリサちゃんのお母さんを見たら、あたしも実家に帰って、両親に会いたくなったなぁ。宏斗先輩、8月までに夏期休暇を取って帰省したいと思います」

「分かったよ、愛実ちゃん。いつにするか決まったら教えてね」

「私もお母さんに会いたくなったなぁ」

「一緒に住んでいるじゃない、姉さん」

「そうだけどさ。でも、ホームビデオには若い頃のお母さんも映っているから、これから観てみようか」

「じゃあ、俺は自分の部屋に――」

「一緒に観ようね、宏斗さん!」


 俺は再びエリカさんとリサさんにしっぽで拘束されることに。

 その後、俺は強制的にホームビデオを観させられた。その中で、必要以上に過去を振り返ることはしないと心に誓うのであった。

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