第26話『スリル』

 エリカさんとリサさんが無事に地球の海に入ることができたので、4人で思いっきり遊ぶことにした。水を掛け合うことはもちろん、みんな泳げるので少し深いところでゆったりと泳いだりもして。

 また、ホテルのプールサイドに遊具を貸し出しているので、ビーチボールでゲームをして楽しんだ。


「地球の海も気持ちいいね」

「ですね、エリカ様。気に入りました。ただ、海に来るときに通り過ぎたプールというところにも興味があります」

「じゃあ、今度はプールの方に行ってみる?」

「いいね、行ってみようよ!」

「では、海で遊ぶにはここまでにして、プールの方で遊びましょうか」


 荷物を持ってホテルのプールの方へと向かう。さすがに砂浜よりも狭いので、人が多くいるように思える。

 さっきと同じようにサマーベッドを確保して、俺はプールに入ることに。海よりもこっちの方が冷たくないな。


「おっ、プールのお水は海とは違って塩の味はないんだ」

「確かにありませんね」

「普通の水を使っていますからね。ただ、色んな人が入っていますし、殺菌のための薬も入っているので、舐めたり、飲んだりすることはしないでくださいね」


 そういえば、小学校のプールの授業で、プールの水をがぶ飲みした友達が腹を下して何日か休んだっけ。


「そういえば、あたし……小学生の頃に、プールの水をたくさん飲んでお腹壊しちゃったことがありますね」

「……ここに経験者がいたか」


 意外だな、愛実ちゃんがそんなことをするなんて。


「ねえ、宏斗さん。あそこに大きなあるものは何なの? たまに人が滑り落ちてくるけれど」


 エリカさんが指さす先にあったのはウォータースライダー。たった今、浮き輪に乗った2人の若い女性が到着した。


「ウォータースライダーという遊具ですね。水の流れている滑り台って言えばいいんですかね。ですから、勢いよく滑ってきて、最後にはあのプールに到着するんです」

「へえ、楽しそうだね!」

「私はちょっと怖いですね。スリルのあるものはあまり得意ではないので……」


 リサさんは絶叫マシンが得意じゃないのか。俺も昔はそんなに得意じゃなかったから彼女の気持ちは分かる。


「じゃあ、一度、あたしと一緒に滑ってみようか、リサちゃん。あのウォータースライダーは2人一緒でも大丈夫みたいだし。あたし、こういうスリルのあるアトラクションは大好きだから」

「そうなんですか! 愛実様が一緒なら安心できそうです」


 愛実ちゃんは絶叫マシンが大好きなのか。イメージ通りかな。あと、リサさんとは特に結構仲良くなってきているな。愛実ちゃんには会わせて正解だったようだ。


「じゃあ、宏斗さんは私と一緒に滑る? 宏斗さんはああいう遊びは苦手?」

「普通に大丈夫ですよ。元々は苦手だったんですけど、妹達に無理矢理付き合わされて遊べるようになりました」

「ふふっ、そうなんだ。じゃあ、一緒に滑ろう。あと、宏斗さんがたまに妹さんのお話をするから、いつかは会ってみたいな」

「旅行中にお土産を買うつもりなので、それを渡すときにエリカさんやリサさんを妹達に会わせたいなと思っています」

「分かった。じゃあ、そのときを楽しみにしているよ。よし、みんなでウォータースライダーに行ってみようか!」

「そうだね、エリカちゃん! さあ、リサちゃん行こう!」

「はい」


 愛実ちゃんはリサさんの手を引いてウォータースライダーへと向かう。俺もエリカさんに手を引かれ、2人の後について行く。

 人気の遊具だからか、ウォータースライダーには待機列ができていた。2人で一緒に滑ることができることもあってか、カップルや夫婦、友達と一緒に並んでいる人達もいる。


「このスライダー、人気みたいですね」

「そうだね。一緒に滑ることができるのもいいのかも」


 そう言って、エリカさんは俺の左腕をぎゅっと抱きしめる。素肌で彼女の胸が当たるとさすがにドキドキしてくるな。エリカさんは楽しそうな笑みを浮かべているけれど、ドキドキはしているのだろうか。

 変な気を起こしてしまわないためにも、前の方を見てみると、愛実ちゃんとリサさんが今もしっかりと手を握り合っていた。耳としっぽがなければ姉妹に見えそうだ。


『きゃーっ!』

「……き、緊張してきました。私から離れないでくださいね」

「あははっ、離れないって。さっき見えたけれど、2人乗りの浮き輪に座って滑るみたいだから、よほどのことがない限り大丈夫だよ」


 愛実ちゃんの方がお姉さんに見えるな。あと、リサさんが115歳であることを信じる人はいないんじゃないだろうか。もちろん、エリカさんが110歳であることも。


「宏斗さん、私も怖いな……」

「……その激しく振っているしっぽは何ですか? 本当はとても楽しみなんじゃないですか?」

「えへっ、バレちゃった。宏斗さん、私がついているから安心してね」

「……こ、心強いですね」


 どうやら、エリカさんはこういったスリルのあるアトラクションは得意なようだ。ただ、興奮のあまり浮き輪を割ったり、ウォータースライダーのコースを破壊したりしないかどうかが心配。

 そんなことを考えているうちに、リサさんと愛実ちゃんの順番になった。


「さあ、あたし達の番だよ。リサちゃんは前と後ろ、どっちがいい?」

「後ろがいいです」

「即答だね、分かった。じゃあ、あたしが前に座るね」


 スタート地点に置かれた2人用の浮き輪に、リサさんと愛実ちゃんが座る。愛実ちゃんは興奮しているけれど、リサさんは緊張しているな。


「宏斗先輩、エリカちゃん、お先に行ってきますね!」

「い、行ってきます!」

「うん、いってらっしゃい、リサ、愛実ちゃん」

「楽しんできてくださいね」

「それでは、2人ともいってらっしゃーい!」


 女性スタッフが押したことによって、リサさんと愛実ちゃんが乗る浮き輪はスタートする。


「あははっ! 気持ちいいー!」

「きゃあああっ! うわあああっ!」


 愛実ちゃんの黄色い声と一緒に、断末魔と言ってもいいくらいのリサさんの叫びが響き渡った。


「次は私達の番だね。宏斗さんは前と後ろ、どっちがいい? 私は後ろがいいなって思っているんだけど」

「もちろんいいですよ。じゃあ、俺が前に乗りますね」


 スタート地点に2人用の浮き輪が置かれたので、俺は前の方に座る。

 ちゃんと安全のために手を掴む場所があるんだな。これをしっかり掴めば、浮き輪から落ちてしまうこともないだろう。

 両側からエリカさんの脚が見える。あと、右肩にエリカさんのしっぽが触れる。


「それでは、2人ともいってらっしゃーい!」


 女性スタッフによって浮き輪が押され、俺とエリカさんもスタートした。

 水の勢いもそれなりにあるし、浮き輪なのでどんどんスピードが増していく。


「きゃああっ! はやーい! きもちいい!」

「結構早いっすね!」


 エリカさんの黄色い声が響き渡る。ただ、興奮しているからか、エリカさんのしっぽが俺の右肩をビシビシ叩いてきて痛い。


「痛い! 痛いです!」

「えっ? いたい? 一緒にいたいの? 私も一緒にいたいよ! 宏斗さん大好きいいいっ!」


 ますます興奮してしまったのか、しっぽの振る力が更に強くなってしまった。浮き輪のスピードよりも、俺の肩を叩くエリカさんのしっぽの方が怖い。

 今はどうしようもできないなぁ。そう思った矢先、俺達の乗った浮き輪はゴールのプールに到着した。


「はあっ、スリルがあって気持ち良かった!」

「……そうですね」


 俺にとっては別の意味でもスリルがあったけれど。ただ、エリカさんが楽しそうにしていれば右肩の痛みもそこまで気にならない。

 プールサイドからリサさんと愛実ちゃんがこちらに手を振っていた。


「先輩! エリカちゃん! ここのウォータースライダー凄くいいですよ!」

「愛実ちゃんも? 私も興奮して楽しかったよ!」

「2人とも興奮していますね。……あの、宏斗様。右肩のところがかなり赤くなっていますけど大丈夫ですか?」

「ちょっと痛みますけど大丈夫です。リサさんはどうでしたか? 物凄い叫びが聞こえてきましたけど」

「……怖かったです。でも、なぜかもう一度滑ってもいいかなと思えるのです」


 リサさん、さっきのエリカさんほどではないけれど、結構激しくしっぽを振っている。どうやら、リサさんもウォータースライダーにハマり始めたようだ。


「じゃあ、今度は私と一緒に滑ろうよ」

「分かりました、エリカ様」

「……あの。先輩さえ良ければ、今度はあたしと一緒に滑りませんか?」

「もちろんいいよ、愛実ちゃん」


 愛実ちゃんにはしっぽはないから、純粋にウォータースライダーのスリルが楽しめそうだ。

 この後もウォータースライダーを中心にプールで思いっきり楽しんだ。エリカさんやリサさん、愛実ちゃんも楽しんでいるようで何より。

 昔行った夏の家族旅行でも、こういう風に妹達と海やプールで遊びまくったなと懐かしむことができたのであった。

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