第25話『青い海』
いよいよ、4人での旅行が始まった。
まずは海で遊ぶので、水着や貴重品以外の荷物をホテルに預かってもらうことに。スタッフの方からホテルのプールの横を通って、ビーチへ向かうことができると教えてもらった。
プールに近いところに更衣室があるので、そこで着替えることに。
夏休み前だからなのか。それとも、午前10時過ぎという時間帯だからなのか。男子更衣室にはあまり人がいないな。もしかしたら、ビーチやプールもそこまで混雑していないかもしれない。
昨日買った青い水着に着替えて、俺はプールへと通じる出入り口の近くでエリカさん達のことを待つ。
そういえば、海は社会人になってから初めて来たな。毎年、夏になると夏期休暇を取得するけど、そういうときは家でゆっくりするか、実家に帰ることが多い。
「実家か……」
家族にエリカさんやリサさんと一緒に住んでいることをまだ伝えていない。ただ、この旅行のお土産を家族に買うつもりだし、それを渡すときに2人を紹介すればいいか。
「宏斗さん!」
「先輩、お待たせしました」
すると、女子更衣室から水着姿のエリカさん達が出てきた。エリカさんは白いビキニ、リサさんはフリル付きの黒いビキニ、愛実ちゃんはパレオ付きの赤いビキニか。
また、愛実ちゃんは髪型が普段のポニーテールではなく、ストレートのセミロングヘア。ポニーテールに見慣れているからか、印象がガラリと変わる。
「もう、宏斗様。どうしたんですか、そんなにじっと見て」
「きっと、私達の水着姿に見とれちゃったんだよ」
「そ、そうなんですか? 宏斗先輩」
「3人の水着姿を見るのはこれが初めてですからね。思わずじっと見つめてしまいました。みんな、とても似合っていますよ。写真を撮りたいくらいです」
「宏斗さんならもちろんいいよ」
「宏斗先輩であれば。あとで写真を送ってくださると嬉しいです」
「思い出を残すという意味ではいいでしょう。きっと、宏斗様なら厭らしいことに使うことはないでしょうから」
すっかりとリサさんにも信用されるようになったな。とても嬉しい。
3人のお言葉に甘えて、俺はデジカメとスマートフォン、ダイマフォンを使って3人の水着姿の写真を撮る。こうして写真に写った3人を見ると、みんな綺麗で可愛らしい女性だなと思う。
「さあ、宏斗さん。海に行こう!」
「ええ、そうですね」
エリカさんに手を引かれる形で俺達はビーチへと向かう。
途中、ホテルのプールの横を通るけれど、プールには若い人を中心に多くの人が遊んでいる。ウォータースライダーとか流れるプールもあるのか。海で遊んだ後にプールで遊ぶのも良さそうだ。
プールの横を歩いてビーチに向かうと、そこには既に水着姿の人が多くいる。今日の海は穏やかで絶好の海日和と言えそうだ。
「砂浜に立って、改めて見てみるととても綺麗な海だね!」
「ええ、地球の海は美しいですね!」
エリカさんもリサさんも興奮した様子。激しく振っている2人のしっぽがシンクロしていて面白い。気に入ってもらえて嬉しい限りだ。
「先輩、あそこにいくつもサマーベッドが空いていますよ」
「おっ、よく見つけたね。じゃあ、あそこを確保しちゃおうか」
愛実ちゃんの見つけたサマーベッドへ向かうことに。サマーベッドとビーチパラソルがたくさんあるけれど、ホテルが用意してくれているのかな。
予想通り、多くの人が耳やしっぽが生えているエリカさんやリサさんに視線を向けてくるけれど、
「凄く綺麗な人達だな」
「茶髪の人は凄くスタイルいいね! 耳やしっぽも似合ってる……」
「黒いビキニの子も可愛らしいよね」
などと、好意的な声が聞こえてくる。今さらながら、驚いたり、あからさまに嫌悪感を抱いたりする人が全然いないことに驚いている。少なくとも、日本人はダイマ星人と上手くやっていけるんじゃないかと思う。
サマーベッドに到着したので、ゆっくりと横になる。ビーチパラソルのおかげで眩しくないし、風も穏やかで気持ちいい。あぁ、優雅な休日を過ごしているな。
「あの、宏斗さん。愛実ちゃんの勧めで日焼け止めっていうものを塗ることになったから、背中に塗ってもらえないかな? しっぽを使えば塗れないことはないんだけれどね」
「器用なしっぽですね。でも、そういうものは手で塗った方がいいと思います。じゃあ、俺が塗りますね」
「ありがとう、宏斗さん。あとで宏斗さんにも塗ってあげるね」
「ありがとうございます。じゃあ、さっそく塗りましょうか」
ゆっくりと起き上がると、隣のサマーベッドにエリカさんがうつ伏せになっていた。あと、更に隣のサマーベッドに、既に愛実ちゃんがリサさんに日焼け止めを塗ってもらっている。
俺はエリカさんの背中に日焼け止めを塗り始める。
「ひゃあっ」
「大丈夫ですか?」
「う、うん。日焼け止めが冷たかったのと、背中を触られるのがくすぐったくて」
「そうですか。じゃあ、できるだけ優しく塗りますね」
日焼け止めが付いた手で素肌を触られたらくすぐったいか。それにしても、エリカさんの肌は白くて綺麗だな。それはリサさんや愛実ちゃんにも言えることだけれど。
リサさんと愛実ちゃんの方を見てみると、立場が逆転してリサさんが愛実ちゃんに日焼け止めを塗られていた。
「ダイマ星人ってお肌が綺麗ですよね、先輩」
「そうだね。愛実ちゃんの肌も綺麗だと思うけど」
「あ、ありがとうございます」
「……ま、愛実様! 激しいですって! くすぐったいですよ!」
あははっ! と、リサさんはいつになく大声で笑っている。こういう笑った姿を見ると115歳であることが信じられないな。15歳っていう方がまだ頷ける。
エリカさんに日焼け止めを塗り終わったので、今度は俺が塗ってもらうことに。さっきまでエリカさんがいたところにうつ伏せになる。
「それじゃ、日焼け止めを塗るね」
「お願いします」
俺の背中にエリカさんの手が当たる。さっき彼女が言っていたとおり、日焼け止めが冷たいな。さっきまで手に付けていたのに、体がビクついてしまった。
「こんな感じで塗っていけばいい?」
「はい。そのままお願いします」
優しい手つきだからか気持ちいいな。うつ伏せにしていることもあってか、段々と眠くもなってきた。
「……あれ?」
エリカさんだけに塗ってもらっているはずなのに、背中と両脚に日焼け止めを塗られている感覚がある。
ゆっくりと後ろに振り返ってみると、エリカさんだけでなくリサさんと愛実ちゃんも俺に日焼け止めを塗ってくれていた。
「2人も塗っていたんですね。ちょっと驚きました」
「こちらは早く終わりましたからね。愛実様と話して宏斗様の脚に日焼け止めを塗ることにしたんです」
「気持ちいいですか? 先輩」
「うん、気持ちいいよ」
まさか、女性3人に日焼け止めを塗ってもらうときが来るとは。あと、周りの人からどう見られているかが気がかり。地元じゃないし気にすることでもないか。
それにしても、段々とくすぐったくなってきたぞ。どうせ、3人で示し合わせて俺の体をくすぐっているんだろうけど、
「やばい、くすぐったい……あははっ!」
ついに我慢できなくなって大声で笑ってしまう。あぁ、ここまで大きな声で笑ったのは久しぶりだ。
「宏斗先輩も大声で笑うことがあるんですね」
「そりゃあ、体をくすぐられたら笑っちゃうよ。まったく、3人で俺のことを……」
「すみません、宏斗様。エリカ様の命令には逆らえません」
やっぱり、エリカさんが企んだことだったのか。あと、エリカさんの命令でも聞けないこともあるんじゃなかったんですか、リサさん。
「全員日焼け止めも塗りましたし、そろそろ海で遊びましょうか」
「そうだね」
「地球の海、初体験です」
「大げさだなぁ、リサちゃんは」
これまで、家族や友人と一緒に海で何度も遊んだことがあるので愛実ちゃんの言うことも分かるし、初めてだからドキドキするリサさんの気持ちも分かる。
ゆっくりと海へと向かい、俺と愛実ちゃんは海に入るけれど、エリカさんとリサさんは波打ち際で立ち止まる。
「2人とも、どうしたの?」
「……いざ入るとなると緊張しちゃって」
「私もです」
「いつもの夏よりも少し水が冷たいけれど、普通に入って大丈夫だよ。ですよね、先輩」
「ええ。怖くありませんから来てみてください」
愛実ちゃんと俺がそう言うと、エリカさんとリサさんは互いの顔を見合う。何を思ったのか、頷き合うと2人は手を握った。
「じゃあ、リサ。一緒に入るよ」
「はい」
「……せーの!」
エリカさんの掛け声で、2人は一緒にジャンプして海の中に入った。それは2人にとって大きな一歩なのだろう。といっても、足元くらいの深さしかないので、その光景はとてもシュール。クスクスと笑って見ている人もいるよ。
「きゃーっ、冷たい!」
「冷たいですね! でも、波が脚に当たって気持ちいいです!」
「うん! ……きゃっ!」
「愛実様、冷たいですよ!」
「さあ、地球の海で遊びましょう!」
エリカさんとリサさん、愛実ちゃんは水をかけ合ってはしゃいでいるな。本当に楽しそうだ。みんな童心に帰っているのかな。
どうやら、エリカさんとリサさんは地球の海を気に入ってくれたようだ。
「うわっ!」
3人に一気に水をかけられた。冷たいからビックリしたよ。
「ボーッとしていたらダメだよ、宏斗さん!」
「周りには人もいるんですからね、先輩!」
「宏斗様も一緒に遊びましょう!」
「……分かりました。じゃあ、まずは今のお返しをしないといけませんね!」
『きゃーっ!』
せっかく久しぶりに海に来たんだ。職場の後輩もいるけれど、俺も海で思いっきり遊ぶことにしよう。
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