第24話『そうだ、一瞬で行こう。』
旅行に行くことが決まってからは、海やホテルのプールで遊ぶ以外にも何かしたいという話になった。
調べてみると、ホテルの近くに神社などの観光地がいくつかあるので、観光もすることに決めた。
旅行中に必要になるかもしれないということで、リサさんはダイマ王星から持ってきた桃色のダイマフォンを愛実ちゃんにプレゼントした。そのことに愛実ちゃんはとても嬉しそうにしていた。
午後10時を過ぎた頃、愛実ちゃんが帰ることに。ただ、彼女は結構酔っ払っているので、リサさんがテレポート魔法を使って彼女を自宅まで連れて行くことにした。リサさんやエリカさん曰く、住所が分かればできるとのこと。
「それじゃ、日曜日を楽しみにしてますね!」
「楽しみにしてるよ!」
「また日曜日にね、愛実ちゃん。今日はお酒をたくさん呑んだから、ゆっくり休んでね」
「はい! 先輩、今週もお疲れ様でした!」
「うん、お疲れ様」
「では、一緒に行きましょう、愛実様」
すると、リサさんと愛実ちゃんは一瞬にして姿を消した。地球人よりも強い力を持っているリサさんが一緒なら大丈夫だろう。
あと、テレパシー魔法も凄いと思うけれど、実際に消える瞬間を見るとテレポート魔法のインパクトは絶大だ。
「さてと、愛実ちゃんも帰ったし、そろそろ片付けましょうか」
「その前に、ソファーで一緒にゆっくりしたい」
「分かりました」
俺はエリカさんと一緒にリビングに戻り、ソファーに隣り合って座った。酒に酔っているせいか、ソファーが気持ち良くて眠ってしまいそうだ。
エリカさんは俺の腕をぎゅっと抱きしめて、俺に寄り掛かってきた。
「こうしていると、幸せな気持ちでいっぱいになるよぉ」
「そうですか」
「幸せすぎて宏斗さんに口づけしたくなっちゃう。ねえ、結婚しよう? そうしたら、明後日からの旅行が新婚旅行になるよ?」
「唐突にプロポーズしてきますね。結婚についてはもう少し考えさせてください。ただ、旅行は4人で楽しみましょう」
「……宏斗さんがそう言うなら、それでいっか。じゃあ、口づけじゃなくて頬にたくさんキスするね! 今週のお仕事を頑張ったご褒美だよ!」
そう言って、エリカさんは柔らかな笑みを浮かべながら、俺の頬に何度もキスをしてくる。この調子だと、リサさんが帰ってくるまではずっとキスしていそう。
それにしても、日曜日から1泊2日で旅行か。エリカさんやリサさんとは初めてだし、愛実ちゃんとはプライベートでは初めてだ。3人がいい旅行だったと思えるようにしないと。
「そういえば、社会人になってから海やプールに行っていないので、水着を持っていなかったですね。明日、買いに行かないと」
「そうなんだ。私は持っているけれど、水着なら地球のものでも着られるものがあるかもしれないし、見てみようかな。じゃあ、明日は旅行に必要なものを買いに行こう!」
「そうですね」
しっぽが生えているダイマ星人でも、水着なら着ることができるものがありそうだ。
愛実ちゃんは地球人だから大丈夫だけど、耳やしっぽが生えているエリカさんとリサさんが水着姿で現れたら、周りからどんな反応をされるだろう。2人とも可愛らしいので、意外といい意味で注目されたりして。
「ただいま帰りました。愛実様をご自宅に帰してきました」
「ありがとうございます、リサさん」
「お疲れ様、リサ」
「ありがとうございます。愛実様のご自宅に入らせてもらったのですが、このリビングよりも狭かったですね。愛実様は1人暮らしなのでこれでも十分だと言っていましたが。何だか、彼女がとてもたくましいと思いました」
「ははっ、そうですか。俺も前に住んでいたところは、このリビングくらいの広さでしたね」
愛実ちゃんの家には一度も行ったことはないけれど、このリビングくらいなのか。
立地や家賃でここにしたけれど、住み始めてすぐの頃はかなり広く感じた。エリカさんやリサさんが一緒に住むようになってちょうどいいと思えるほど。
王宮の広さがどのくらいか分からないけれど、エリカさんやリサさんにとっては俺の家でも狭く感じるのかも。
「ねえ、宏斗さん、リサ。日曜日の旅行楽しみだねぇ」
「そうですね、エリカ様。海や温泉はもちろんですが、泊まるホテルのある地域の食べ物やお料理も楽しみです」
「旅行といったら食事だもんね!」
ダイマ王星でも旅行の楽しみは食事なのか。2人に地球での旅行を気に入ってくれると嬉しいな。
「宏斗さんは何が楽しみ?」
「俺も温泉と食事が楽しみです。あとは、ホームページに写真はありましたけど、泊まる部屋がどんな感じなのかも楽しみですね」
「お部屋かぁ。2部屋予約したけれど、宏斗さんだったら一緒のお部屋で良かったんだよ?」
「愛実様がいますからね。宏斗様なりのご配慮ですよ。それに、女性だけの方が話せることもあるかもしれませんよ。愛実様との仲を深めるいいチャンスなのでは?」
「……それは言えてるかも。でも、お部屋に遊びに来ていいからね、宏斗さん」
「はい。一度は伺いたいですね」
ただ、エリカさんとリサさんが旅行を機に愛実ちゃんと仲良くなってくれたら嬉しいな。リサさんの言うように、女性3人の方が色々なことを話せていいんじゃないだろうか。
あと、旅行に行くんだから、家族や職場のみんなにお土産を買っていかないと。
ただ、愛実ちゃんと一緒に旅行に行ったって言うと、特にうちのチームメンバーに変に誤解されそうな気がする。そこは……ちゃんと説明すれば大丈夫か。2人きりで行くわけじゃないし。
明日からの3連休はとても濃密な時間になりそうなのであった。
土曜日は、駅周辺のお店で旅行のために必要なものを買いに行った。
最大の目的である水着は忘れないように、最初に購入した。
また、エリカさんやリサさんも、着ることができそうな水着がいくつもあったので、彼女達も水着を買うことに。どんな水着を買ったのかは海でのお楽しみとのこと。
買い物中、ダイマフォンに愛実ちゃんからメッセージが届いて、彼女も明日からの旅行のために水着を買ったそうだ。3人がどんな水着姿になるのか楽しみにしておこう。
旅行前のワクワクした感覚を27歳になってまた味わえるとは。きっと、それはエリカさんやリサさん、愛実ちゃんのおかげなんだろうな。そんなことを考えながら買い物をしていくのであった。
7月14日、日曜日。
今日から夏海町で1泊2日の旅行だ。
旅先である夏海町は明日まで晴れの予報で、雨が降る心配はないとのこと。絶好の旅行日和と言えるだろう。
「ついに、旅行の当日になったね!」
「ええ。夏海町の方も2日間天気がいいみたいなので、楽しい旅行になりそうな気がします」
「楽しみな気持ちは分かりますが、興奮してハメを外さないように気を付けてくださいね、エリカ様。小さい頃は旅行に行くとケガをされることもありましたから」
昔のエリカさんはやんちゃな一面もあったのかな。
「110歳になったんだし、大丈夫だって。それに、宏斗さんや愛実ちゃんがいるんだから、迷惑をかけないように気を付けるわ」
「……そうしてくださるとメイドとして安心です。まあ、何かあったときには私がいますから安心してください。では、私は愛実様を迎えに行ってきますね」
そう言って、リサさんは愛実ちゃんの自宅へと姿を消した。
今は午前10時過ぎ。エリカさんとリサさんのテレポート魔法で夏海町に行き、午前中から旅を思いっきり楽しむつもりだ。とりあえず、午前中はホテル近くの海岸で遊ぶ予定になっている。
「ただいま帰りました」
「おはようございます、宏斗先輩、エリカちゃん」
気付けば、ロングスカートにブラウス姿の愛実ちゃんの姿があった。私服の彼女の姿を見るのは、今年の5月にあった社員旅行以来か。
「おはよう、愛実ちゃん。その服、似合っているね」
「そうだね。ようやく、しっぽのない地球人も見慣れてきたよ」
「ありがとうございます。2人も似合っていますよ」
えへへっ、と愛実ちゃんは照れくさそうに笑った。職場でもないし、私服姿だからか女子大生のように見える。
「じゃあ、4人揃ったところで、そろそろ夏海町に行きますか。……あっ、その前に、気軽に行き来できても、戸締まりとかを確認しておかないと。愛実ちゃんは大丈夫?」
「はい。ここに来る前に何度も確認しましたから」
「うん、分かった。俺が確認するので、3人は荷物を持って、家の外に出ていてください」
俺は窓の鍵や電気、水回りなどの確認をする。そんな中で、随分と生活の匂いがする自宅になったなぁと思う。
大丈夫であることを確認し、自分の荷物を持って家の外に出る。
「大丈夫でした。家の鍵をかけて……OKです」
「うん。じゃあ、これから私のテレポート魔法で、夏海シーサイドホテルの近くに移動するよ。みんな、荷物と私を掴んでおいてね。じゃあ、行くよ!」
すると、視界が真っ白になった。
しかし、それは一瞬のこと。程なくして見たことのない景色が広がり、潮の香りがしてきた。
スマートフォンの地図アプリを見てみると、俺達は今、夏海町にいることが分かった。それに、すぐ近くには夏海シーサイドホテルが見える。
「本当に一瞬で旅先に来ちゃいましたね、先輩」
「そうだね。一瞬だからか、ここに来ちゃったんだって感じがするよ」
「ふふっ、それは言えていますね」
一瞬で遠くまで行くことができたからか、あぁ、実際に魔法ってあるんだなとようやく実感した。
「地球の海、青くて綺麗だね!」
「ええ! 潮の香りもいいですね」
「確か、地球の人は海に行くと『海だー!』って叫ぶんじゃなかったっけ?」
「小さい頃は叫んでいましたけれど。大人になってまで……」
「でも、こういうことはなかなかないんですし、叫んでみてもいいんじゃないですか? あたしは叫びたいです」
「……では、せっかくですから4人で叫びましょうか。せーの」
『海だー!』
子供のように海に向かって叫んでしまったけれど、そのおかげもあってか俺達は旅行に来たのだと気持ちを切り替えることができたのであった。
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