第27話『浴衣3人娘』
海の家でお昼ご飯を食べて、チェックインの時間である15時まで海やプールで思う存分に遊んだ。ここ数年は海に行っていなかったので、これまでの分も思いっきり遊んだような気がする。
チェックインの時間である午後3時を過ぎて、俺達は海やプールから後にした。
私服に着替えて、フロントで荷物を受け取る流れでチェックインの手続きを行なう。シングル1部屋と和室1部屋の予約ができていて安心した。ただ、直前に予約して部屋の種類も違うことから、同じ7階にはなったけれど、隣同士の部屋ではないという。
「みなさん、泊まる部屋に行きますよ。隣ではありませんが、同じ7階ですって」
「ふふっ、可愛らしいお連れ様ですね。では、ご案内いたします」
みんな可愛らしいけれど、きっとエリカさんやリサさんの耳やしっぽを見てスタッフさんはそう言ったんだろうな。
あと、さすがに周りのお客さんも注目している。ただ、そんな状況をエリカさんやリサさんは特に気にしていないようだった。エリカさんは王女様だから、むしろこうして注目されるのが好きだったりして。
30歳前後と思われる女性スタッフさんによって、俺達は宿泊する部屋へと案内される。7階だとバルコニーから見える景色も結構広そうだな。
エレベーターに乗って7階に到着すると、エレベーターホールから近いという理由で俺が泊まる707号室から案内された。
「こちらが風見宏斗様の宿泊される707号室になります」
ホームページに載っている写真は見ていたけれど、実際に来てみると意外と広いな。これまで出張でビジネスホテルに泊まったことがあるから、シングルというとこじんまりしたイメージがあった。さすがはリゾートホテルといったところか。
この広さだと愛実ちゃんは広いと感じるかもしれないけれど、エリカさんやリサさんは狭く感じそうだ。
「シングルでも結構広いですね、先輩」
「そうだね。さすがはリゾートホテルだと思ったよ。出張で使うビジネスホテルだとここよりも狭いから」
「家での私達の部屋よりも広いから、宏斗さん1人ならゆったりできそうだね」
「ですね。地球に来てから、本来ならこの程度の広さでいいんじゃないかという考えを持つようになりました」
普段からとても広いところに住んでいると、それはそれで考えることがあるようだ。
あと、エリカさんの言うように、俺一人ならゆったりできそう。部屋の中に入って窓の方を見ると、綺麗な青い海が広がっている。
また、リサさんが「地球」という言葉を発したからか、スタッフさんがちょっと首を傾げていた。
「俺の泊まる部屋は分かりましたので、次は彼女達が宿泊する部屋を案内していただけますか?」
「かしこまりました。お三方が泊まる和室は702号室でございます。ご案内いたします。その前に、風見様にこの707号室のカードキーをお渡しします。観光や食事などホテルを出られるときはフロントにお預けください」
「分かりました」
俺はスタッフさんから707号室のカードキーを受け取る。いざとなったらエリカさんとリサさんの魔法で部屋には入れるけれど、なくさないように気を付けないと。
707号室を後にして、3人が泊まる702号室へと向かう。隣同士ではないけれど、同じフロアにあるだけで彼女達が近くにいると思える。
「こちらがエリカ・ダイマ様、リサ・オリヴィア様、白石愛実様が宿泊される702号室になります」
『おーっ!』
部屋の中を見るや否やエリカさん、リサさん、愛実ちゃんはそんな声を挙げる。
「いい匂いがするね、リサ」
「ええ。きっとこれが畳の匂いなのでしょう。落ち着きますね」
「落ち着くっていうリサちゃんの気持ち、分かるなぁ」
「ふふっ、ありがとうございます」
初めてである畳の部屋はエリカさんとリサさんに好評のようだ。
最大4人まで泊まれることもあって、この和室はとても広いな。女性3人ならゆったりと過ごすことができると思う。
妹の美夢や有希が小さい間は、家族5人で一緒の和室に泊まることもあったっけ。このホテルに来るのは初めてだけれど、懐かしい気分になるな。
「では、702号室のカードキーもお渡しします」
「ありがとうございます」
「大浴場は1階にあり、時間で男女入れ替わりとなります。夕飯は1階のレストランで午後6時から9時まで。朝食は2階の『夏海の間』で明日の朝の6時から9時半までです。両方バイキング形式となっております。何かありましたら、内線2番でフロントにお願いします。では、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
スタッフさんは一礼すると、702号室を後にした。
大浴場は時間帯で入れ替わりになるのか。きっと、夜中の間に入れ替わるんだろうな。両方楽しみたいから2度行かなければ。
「宏斗さん、愛実ちゃん。お食事の話で言っていたバイキング形式っていうのは何なの?」
「簡単に言えば、自分の好きなものを取っていって食べる形式ですね」
「ああ、パーティーのような感じなんだね」
「エリカ様、たくさん取り過ぎて、他の宿泊客の分が無くなってしまわないように気を付けてくださいね」
「あははっ、そこはちゃんと気を付けるって」
たくさん取って残さないように気を付けるなら分かるけど、周りの人の分がなくらないようにっていうのは凄いな。家では地球人の女性と同じくらいの量を食べているけれど、実はダイマ星人は大食いなのかな?
「今は午後3時半くらいか。じゃあ、これから夕ご飯の前まで自由時間にしますか? 6時ちょうどに会場に行くと混んでいるかもしれないので、6時半とか7時にして」
「そうだね。じゃあ、6時半にエレベーターというものに乗れる場所で待ち合わせにしようか」
「賛成です、エリカ様」
「エリカちゃんの意見に賛成!」
「じゃあ、6時半にエレベーターホールに待ち合わせという形にして、それまでは自由時間にしましょう。それまでの間、俺の部屋へ遊びに来てもらってもかまいませんので。逆に、俺がここに来るかもしれませんが。そのときはダイマフォンにメッセージ入れますね」
『はーい!』
みんな、子供みたいにいい返事をしてくれるな。せっかくの旅行だし、そこら辺は自由にしていいんじゃないだろうか。
「俺はとりあえず自分の部屋に戻ってますね。また後で」
702号室を後にして、俺は自分の部屋の707号室へと向かう。
途中に自販機があったので見てみると、この夏海町のある地域限定の飲み物がいくつかあるな。ちょいと高めの値段だけれど、後で買ってみるか。
俺は707号室に戻る。改めて1人でいるとこの部屋は広く感じる。
コーヒーメーカーがあるのでホットコーヒーを淹れ、ベッドの横にある椅子に座ってゆっくりすることに。
「優雅だ……」
ホテルの部屋で美味しいコーヒーを楽しみながら、窓から見える青い海を見る。とてもいい夏の休日を過ごしているな。これも愛実ちゃんが旅行を提案してくれたおかげだ。後でお礼を言っておかないと。
エリカさん達と一緒に遊んだ海なのに、こうして部屋から眺めると印象が変わるな。
ベッド横のテーブルにホテル案内が置いてあったので、それを見てみることに。
「さてと、これから夕食前までどう過ごすか……」
やっぱり、温泉には入っておきたいな。予想通り、夜中に入れ替わるようだ。
おっ、ゲームコーナーもあるのか。小さい頃は美夢や有希に手を引っ張られて遊びに行ったな。
あとは居酒屋やバーもあるんだ。27歳になった今ではゲームコーナーよりもこっちの方が興味あるかな。どんな地酒が呑めるのかとか。
「このベッドふかふかで気持ちいいね」
「そうなんですか、エリカさん……えっ?」
気付けば、ベッドにエリカさんとリサさん、愛実ちゃんが腰を下ろしていた。ビックリしてしまい、持っていたカップからコーヒーが溢れるところだった。
あと、3人ともさっそく浴衣に着替えたんだ。
「エリカさんとリサさんのテレポート魔法で来たんですね」
「そうだよ。3人で過ごすのもいいけれど、宏斗さんが一緒の方がより楽しそうかなって」
「ははっ、そういうことですか。俺の泊まっている部屋に行くのはもちろんいいですけど、間違って他のお客さんのところに行ってしまわないように気を付けてくださいね」
「分かってるって」
大きな問題になってしまうからな。下手したらホテルから出禁になる。
「それにしても、3人とも浴衣似合っていますね」
「ありがとうございます、先輩」
「動きやすくていいですね」
「初めてだけれど、こういう服装もいいね」
「気に入ったようで何よりです。ところで、浴衣だとエリカさんとリサさんのしっぽはどうなるんですか?」
服装の話題になると、どうしても2人のしっぽのことが気になってしまう。今のところ、しっぽは見えていない。
「しっぽが生えている場所の少し上のところで帯を巻いているからね。立っているときは普段と変わらないし、座るときも腰のあたりでしっぽを巻けば大丈夫だよ」
「それなら良かったです」
てっきり、魔法でも使ってしっぽを出すのかと思ったけれど。
「ところで、宏斗様はこれからどのように過ごすつもりですか?」
「海やプールでたくさん遊んだので、今はこうしてゆっくりしていますけど……やっぱり温泉には入りたいですね」
「温泉ですか。私も本場の温泉に浸かって、海やプールで遊んだ体を癒したいです」
リサさんの口から初めて115歳らしい言葉を聞いた気がする。そういえば、リサさんは地球の温泉に興味があるって言っていたっけ。
「リサちゃんの言うように、あたしも温泉に入りたくなっちゃった。エリカちゃんはどう?」
「温泉で疲れを取るのもいいかもね。じゃあ、みんなで温泉に入りに行こうか。宏斗さんとは……一緒に入れないんだね」
「混浴がありませんからね」
エリカさん、露骨にガッカリしているな。耳を下げているし。これまで一度しかエリカさんとは一緒にお風呂に入ったことがないけど、せっかくの温泉だから一緒に入りたいと思ったのかな。
「今回は女性3人で一緒に温泉を楽しもうよ、エリカちゃん」
「愛実様の言う通りです。それに、女性だけであれば、きっと温泉をゆったりと楽しめることでしょう」
「……そうだね」
納得したのかエリカさんは再び笑みを浮かべるようになった。
3人を見ていると、いい友人関係を築くことができているなと思う。愛実ちゃんにエリカさんとリサさんのことを話してみて良かった。
まずは、旅の目的の一つでもある温泉へと入りに行くことに決めたのであった。
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