戦果
「あっ! 片井先輩おか……」
俺と片井先輩は化け物を奇襲で倒した後、みんながいる店の奥まで帰ってきた。
「……今終わったよ。 ちなみに僕達に怪我はないよ」
片井先輩は片手をプラプラとさせて自身に異常がないことを知らせるような行動をとる。
「……あっ今タオルとか持ってきますね!」
「私も行きます」
そう言って大場先輩と詩音さんはスタッフルームの方に入っていった。
2人がこの空間からいなくなった。すると辺りは静寂が包んだ。
それもそうだろう。紫色とはいえ返り血を浴びまくっている奴らが奥から現れたのだ。知り合いでも喋りかけるのは難しいだろう。
そんな奴らがいきなり来たら、辺りは嫌な静寂が包むだろう。
「片井先輩! これ、濡れてないですけど」
「あっ見上さん。その……お疲れ様……も違いますね。うん、ありがとうございます……」
俺達はボロボロで使い古されたタオル3枚と業務員用の制服を貰った。
「ありがとう大場さん。 見上君。 向こうで着替えようか」
「……そうですね」
俺と片井先輩はスタッフルームの方に歩いていった。
俺は返り血を浴びた服を脱ぎ、使い古されたタオルで体に着いた血をふき始めた。
「……見上君。 後悔はしてるかい?」
「……もちろんですよ」
あの時の感覚。なんとも味わったことの無い気持ち悪さ。こんな感覚は知りたくはなかった。
「だよね。僕は殺したり時ももちろんあるけど。それよりも大場さんの……君にとっては宮良さんになるのかな?
僕の見る目、対応が変わってしまうんじゃないと考えると……」
片井先輩にしては珍しく言葉が濁った。
そんな片井先輩の手は小刻みに震えていた。
「そうですか……って俺は詩音さんとはさっきあったばかりですよ」
「へぇ。てっきり関係があるのかと思ったよ」
片井先輩は意外そうな顔で俺の顔を見る。
「まさか! 全然そんなのないですよ。 たまたま途中で出会っただけですよ」
「へぇ。それにしては……いややめておこうかな」
片井先輩の顔が少しにやけているような顔になる。もしかしたらこの人はこういう色恋の話とか好きなのかもしれないな。
「俺達より片井先輩と大場先輩の方が関係深そうですけどね」
「そうかい? でも残念ながらただのサークル仲間とバイト仲間って関係だよ」
……随分と関係が深そうだな。
「僕は……彼女のことは好きだけどね。向こうがどう思ってるのかは分からないしね」
まるで告白をするような。
片井先輩の手の震えはもう収まっていた。
「へぇ。上手くいきそうですけどね」
「さぁ。どうだろうね。……まぁこの話はこのぐらいにしておこう。
ここの壁は意外と薄いから、話し声が漏れてるかもしれないからね」
まるで外にいる人に伝えるような声のボリュームだった。
「パパッと着替えようか」
「そうですね」
なんだか俺は……この人にはかなわないような。そんな気がした。
俺達はそのあとは他愛のない話をしながら着替えた。その時は幾分かさっきのことを忘れることが出来た。
俺達は着替え終わったのでスタッフルームから出る。
「あっ!……片井先輩……その」
大場先輩が顔を真っ赤にしながら片井先輩に話しかける。
「どうしました?」
片井先輩は先程の他愛のない話をするような落ち着いた口調だった。
それでもきっと内心は緊張してるんだろう。
「……あの、詩音さん」
「……なんですか?」
俺が小声で喋りかけたので詩音さんも小声で返してくれた。
「もしかして……声漏れてました?」
詩音さんはコクコクと頷く。ちょっと興奮しているのかいつもよりオーバーリアクションだった。
「その片井先輩……ちょっと向こうに行きませんか?」
「いいですよ」
そう言って2人は店の入口の方に行く。
「「……リア充だな」」
俺と詩音さんの声は重なった。
……普通なら爆発しろとか思うかもしれないけど。あの人ならいいかなって思えた。
少ししたら大場先輩と片井先輩は満足そうな顔で戻ってきた。
それまで俺と詩音さんは片井先輩達のことの話をしていた。
黒石兄妹と山方さんはカードゲームをしていた。
兄の壮馬君が山方さんと勝負している。それを妹の陽菜ちゃんが見ていると言う感じだった。
「あー、また負けたー」
「……このカードを入れ替えるといいかもしれない」
意外と山方さんは子供の扱いがうまかった。
「……大場お姉ちゃん。なにかいい事あったの?」
陽菜ちゃんはカードゲームを見ているのが飽きたのか大場先輩のほうに走って行った。
「な……なんでもないよ!」
大場先輩は何かを隠すように慌てて何も無いと答える。
みんなわかりきっていると言うのにな。
「じゃあ私も陽菜ちゃんの様子を見に行きますね」
詩音さんも大場先輩の方に行った。ちゃっかり結果でも聞くのだろうか?……さて俺も片井先輩の所に行こうかな。
「片井先輩……結構どうだったんですか?」
「どうって?別に何も無いよ」
俺が結果を聞いても濁されるだけだった。
……なんだか片井先輩の口調で言われるとほんとに何もなかったように聞こえる。
「そんなことより……見上君はカードゲームは出来るかい?」
そう言って片井先輩は新品のスタートパックを1つ渡してきた。
タイトルは"Demon wars"と書いてあった。
最近頭角を現しているカードゲームだ。
やったことはないが。確か魔物のカードとフィギュアを使うカードゲームだったかな?
大々的にCMをやっていたから名前ぐらいは知っているぐらいかな。
「山方さん。僕達も入れてもらえるかい?」
なるほど……話のきっかけか。
「……リア充が……」
「いいじゃん!山方兄ちゃん。みんなでみんなでやった方が面白いじゃん!」
「……ルールは分かるのか」
「これでもカードショップの定員だからね。見上君は?」
「俺はやったことないんで」
「なら僕が教えるよ! まずはね!」
スタートパックを開けてカードの並べ方を教えてくれる。
そう言えばお金払ってないけど……いいのかな?
「せっかくですし。僕達もやりますか」
「……リア充に負けるほど……僕は弱くないよ」
どうやら片井先輩と山方さんも始めるようだ。
なんだかガチ勢感が凄いが……
今この空間にはなんだか暖かい空気が流れている気がする。
……今起こっている悲劇から目を逸らせるような。
なんだか嘘だったんじゃないかと思わせるような。
そんな暖かい空気が。
そう。今までの日常が少し帰ってきたような。
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