戦闘前
「……みんなはここに残っていて」
片井先輩が鉄パイプを片手に店の入り口へと向かってゆく。
「……僕は行きませんよ」
山方さんはボソッと呟いたかと思えば店の奥の方に引っ込んでしまった。
「山方さん。一応これ、渡しておきますよ」
片井先輩は奥の方に鉄パイプをフワッと投げた。山方さんは声には答えずただカランカランと鉄パイプが地面に落ちた音だけが反響した。
「大場さん。スタッフルームから鉄パイプを持ってきて貰ってもいい?」
「片井先輩……無茶じゃないですか?」
「……それでも誰かがやらないと。生憎非常口は潰れてるんだから」
片井先輩が指を指す。そこには隣の建物の外壁でグチャグチャに潰れていた。きっとあそこに非常口があったのだろう。
「それでも……」
「なら……俺も行きます」
手にグルグルと巻きついているテーピングを取りながら俺はついつい口走ってしまった。ただ俺自身でも分かるぐらい俺の声は震えていた。
ただなんだろう……熱にでも浮かされたのだろうか。
……別に怖くないわけではないんだけど。片井先輩がなんだか物語の主人公みたいで
……なんだかカッコよく見えたからだろうな。
「うん。1人で行くよりは気持ちが楽だね。……でもいいのかい?」
「……はい。こう見えても俺、ここに来る前にあの化け物殴ってますしね」
そう言って俺は精一杯笑って見せた。上手く笑えているかなど分からないけど。
「そうか。それはいいね。……大場さん。鉄パイプを2個持ってきて貰える?」
「それでも……!危ないですよ!」
大場先輩の声が大きくなる。
「@adupjm……!!」
「@amgtjwjwjw……!!」
しかし、そんなやり取りをしている暇を与えないかのように化け物の声がだんだんと近ずいてくる。
「もう時間がないね」
片井先輩がスタッフルームに向かおうとする。
「……あーもう。 分かりました!」
すると大場先輩は片井先輩のことを追い抜きスタッフルームから鉄パイプを2つ持ってきた。
「ぜっっったい無理はしないで下さいね!怪我する前に帰ってきてくださいよ!見上君もだからね!」
「分かってるよ。大場さん。それと宮良さん。子供たちのことをよろしく」
「あっ……はい」
「分かりましたけど……本当に無理しちゃだめですからね!」
大場先輩は念を押す。それに片井先輩は笑って答える。
……なんでこの人はこんなに落ち着いていられるんだろう。
「……じゃあ見上君。行こうか」
「っはい!」
俺は鉄パイプをギュッと握りしめ店の入り口へと歩き始めた。
「……あの!」
すると後ろから詩音さんが声をかけてきた。
「その……自分勝手かもしれないですけど……怪我とかしないようにしてください」
詩音さんは涙目になりながら俺たちにお願いをしてきた。
……詩音さんは化け物に襲われかけたばかりだし……きっと死ぬという恐怖を本当に知っているから涙目なのだろう。
すると片井先輩が俺の背中を少し押してきた。
「あっと……そんなに心配しなくてもね。君を助けたみたいに何とかするから」
今のはちょっと臭いだろうか……まぁでもこんな時だからちょっとはカッコイイセリフになってるといいんだけどな。
すると詩音さんは大きく頷いてから子供たちと一緒に奥へと向かっていった。
……やっぱりダサかったかな。
「それじゃあ行こうか」
俺達は店の入り口へと改めて向かい始めた。
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