ラジオ

「……さーて。 みなさん。自己紹介も終えたことだし、今後どうするか決めましょうか!」


 深い沈黙が続く中、大場さんが急に立ち上がった。そしてこの先のことについて仕切り始めた。


 この先のこと……か。きっと大事なことで考えなければならないんだろうけど。なんだか考える気になれないな……。


「……そんなこと言っても……政府とかが救出してくれるんじゃないのか?」


 山方さんが聞き取るのがやっとなぐらいの声量で言った。


「確かにな……あっスマホとかで助けが呼べるんじゃ」


 俺はそう思ってポケットからスマホを取り出そうとした。


「いたっ……」


 しかし、残念ながらスマホは画面がボロボロに割れてしまっていた。……恐らく化け物の攻撃がかすった時が原因なのだろう。


 おかげでスマホのデータは……はぁ、ゲームの引き継ぎコードとか設定しとくんだったな。……それに右手に破片が刺さってちょっと痛いし。


「見上さん……大丈夫ですか?」


 俺の痛がる声を聞いたのか詩音さんが心配そうに駆け寄ってくる。


「いや、スマホで警察とかに連絡出来ないんじゃないかと思ったけど……ご覧の通りだよ」


 俺は血が出ていない左手で壊れてしまったスマホを見せる。


 ……ゲームの引き継ぎもそうだけど……このスマホ……買ったばっかりだったんだけどな。


「そうなんですか……って血が出てるじゃないですか!」


 隠せると思ったのだがどうやら右手の血が床に垂れてきてしまったようだ。


 ……別にこの位の怪我は大したことないのだけれど。


「あっ! ほら見上君……で合ってるよね?

 ってそれより ほら傷口見せて!」


 片井先輩は救急箱のようなものを大場先輩に渡す。恐らく"スタッフルーム"と書かれたドアがあるのでそこから持ってきてくれたのだろう。


 ……なんだかおおごとになってしまったな。




 それから大場先輩に手当てをしてもらった。手際はバスケサークルのマネージャーだからかとても良かった。だが右手がテーピングでほぼ動かなくなってしまうぐらいぐるぐる巻きにされた。


「あーと。片井先輩、大場先輩、ありがとうございます」


「おー!片井先輩!私が先輩って呼ばれましたよ!」


 大場先輩がキラキラした目で片井先輩のことを見る。

 まるで飼い犬と飼い主みたいな……いや、普通に失礼だな。


「うん。良かったね。……ちなみに見上君。スマホとかのネットの機能は全く使えないよ。

 通信が混みあっているのか……そもそも通信出来る施設がないのかのどちらかだね」


 片井先輩が笑顔……というかほぼ表情を変えないで怖いことを喋る。

 ……確かに可能性としてはあるのかも知れないな。


「ちょっと片井先輩!そういう不安になるような……ネガティブになることは言わないようにするって約束じゃないですか!」


「ん?あー、そうだったね。ごめんごめん」


「もう……次はなしですよ」




「あの……スマホとかのネットがダメでもラジオとかもダメですか?私のウォークマンの中に一応ラジオ機能がついてるみたいなんですけど」


 詩音さんは何も入ってなさそうなスカスカの両掛けのバックから人差し指程の大きさのウォークマンを取り出した。


「……ラジオなら……行けるかもしれない」


 山方さんがボソッと呟いた後に立ち上がり、俺達の方に来た。


「結構災害とかに使えるって聞きますしね」


 よく学校からのお便りでラジオを使ってだとかを始業式の時に言っていた気がするし。

 ……ただ片井先輩が言っいた通り発信する場所が壊されてなければの話だけど。


「じゃあやってみますね」


 詩音さんはラジオと書かれているアプリを開いた。すると黒石兄妹達も静かにこちらに来た。


 詩音さんはウォークマンにイヤホンを付け、音を最大にする。聞こえてくる音は意外と大きくみんなで聞く分には十分な怨霊だった。


 しかし、イヤホンから聞こえてくるのはザザザッと砂嵐のような音しか聞こえてこなかった。


 やっぱりダメなのか……。


「……ここの周波数を合わせなきゃ」


 そう言って山方さんはウォークマンを操作し始める。

 ……普段ラジオを使わないからな。周波数とかあるのか。




 ──ザザザッザザ……速報……緊急速報です。ただ今全世界で謎のテロリストに襲われる事件が発生しています。そのため現在日本の全国が半壊状態に陥っています。

 そのため日本政府は救援部隊を結成しました。もしテロリストを見かけても近ずかないで直ぐに避難してください。……




「……これ以上は充電の無駄だと思う」


 緊急速報からは主に2つの情報が流れてきた。


 1つは世界中があの化け物に襲われているということ。

 ……関係ないがあれをテロリストと人間と同じ扱いをした時はどうかと思った。


 2つは救援部隊を結成したということ。


 これの繰り返しだった。


「そうですね。同じ情報の繰り返しですし」


「あっ分かりました」


 詩音さんはウォークマンの音量を落として電源を切った。


「でも助かる可能性が出てきただけ進歩かも」


「いえに……かえれるのかな?」


 みんなが少しずつ希望を持ち始めている。

 実際俺も助かる道が出来たというか……助けが来るという確信が出来たことが嬉しかった。


「@admja…………」


「@adk…………」


 しかし、現状はそこまで優しくはなかったみたいだ。


 もしかしたらラジオの音を聞きつけたのかもしれない……。


「@adlmtd……」


「@amuja5w……」


化け物の声がゆっくり近ずいて来ている。それに何だか建物に攻撃しているような……そんな音が聞こえた。


「……みんなはここに残っていて」


片井先輩は鉄パイプを片手に店の入り口の方に向かっていった。

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