仲間
俺達はまた黙って歩き始めた。
化け物に見つからないようにするためでもあるが。何よりこの細い路地の向こう側からは怒涛や悲鳴、そして化け物の叫び声が飛び交っている。その中で楽しく世間話が出来るやつなんて……相当狂っているやつしか出来ないだろう。
「あれ? もしかして人ですか?」
俺達の横から崩れかけた店の入り口から鉄パイプを持った男性から声をかけられた。
……ちょっとびっくりした。
「あなたは?」
「僕ですか? 僕はこの店に避難しているんです。見てくれは崩れかけですが中はまだ安全ですよ」
どうやらこの人は見張りのようなことをしていたのだろう。その男性は中に入るように促してくれる。
俺は詩音さんの顔を見た。罠……ということはないだろう。しかし、今は2人で行動している以上独断で入る訳にも行かないと思った。
詩音さんと目が合い、そして無言で頷いてきた。言葉で言われた訳では無いので断定はできなかったが、入ってもいいという合図と受け取った。
「……すいません、助かります」
俺達は見張りの男性に店の奥に案内される。店の中は鉄骨や電線がむき出しになっている。たまに火花がバチッと音を立てる。
だが中は比較的に歩けるところが多かった。床にはカードばかりが散らばっている。恐らくここはカードショップだったのだろう。
……よくカードに火がつかなかったな。
「大場さん。 まだ逃げている人がいましたよ」
「おおー!片井先輩、ナイスです!」
すると奥から俺達を案内してくれた人と同じ服を着た女性が出てきた。
なるほど……ここの定員さんだったのか。あんまりショップ定員の制服っぽくないな。
何だか奥から出てきた女性の高いテンションや俺達を案内してくれた男性の落ち着き方、何だかこんな状況では場違いのように思えた。
さらに奥まで行くと大きな鉄柱が立っている所まで来た。そこには一般の客だっただろう人達が3人いた。1人は中年男性ぐらいだろう。もう2人は中学生ぐらいの男女だった。そこにいた人達はみんな暗い表情をしているように見えた。……まぁ普通そうだよな。
「さーて……とりあえず自己紹介でもしようか!」
「そうだね。ちょうどいいね」
その中で明るく振舞っている大場さんと言う女性と、冷静すぎる片井さん達が……少し異様に見えた。
「私は
大場華蓮。見た目は小動物と言う言葉がよく当てはまる人だった。身長は俺より頭1つ分小さいぐらいだった。
第一印象としては普通に会っていれば明るい人なのだが……今の状況を考えると少し……少し不気味さを感じた。
「僕は
片井迅。見た目は細いメガネが知的さを醸し出して大人びた……と言っても俺より4歳上だから大人っぽく見えるだけかもしれないけどな。
身長は俺より少し小さいかなって感じだ。第一印象としては何事も動じないというか……物静かな人だな。
「……
山方優太。見た目はぽっちゃりとしていていかにも中年男性という感じだ。身長は片井先輩と同じぐらいかな?
第一印象としてはたまにこういうおじさんがいるよねって感じだ。後はキャラTシャツが目立つかなって感じだ。……ただなんのアニメかが分からないな……相当マニアックなやつなのだろう。
「
黒石蒼真。黒石陽菜。見た目はまだまだ子供って感じだ。やんちゃな兄と大人しい妹という感じなのだろう。
妹の陽菜ちゃんは全く喋ろうとしない……というか怖がっている感じだ。まぁこんな薄暗いし……外の現状を知っているなら……子供には酷だろう。
その分兄の蒼真君は強がっているのかは分からないがそこまで怖がってはいないようだ。
身長はまだまだ伸び盛りなのだろう、俺の胸にも届かないぐらいだ。
第一印象はきっと仲のいい兄妹だろうという感じだ。
「
宮良詩音。見た目は選手と言うよりマネージャーのような感じがしたのだが……どうやら勝手な妄想だったようだ。
身長は大場先輩より少し大きいぐらいだった。
第一印象は何だか困っていたら手を差し伸べたくなるというか……そんな不思議な雰囲気を持っていた。
「
一通り自己紹介を終えたあと、俺達の間には喋りずらい……居心地の悪い空気に包まれた。
外から聞こえていた悲鳴はほとんど聞こえなくなっていた。
恐らく俺たちみたいに隠れられる場所を見つけたのだろう。……それか化け物共に……いや……やめよう。こんな時だからこそ後ろ向きな考えは良くないな。
俺はそう思って俯いていた顔を上げる。辺りを見ると片井先輩と大場先輩以外は顔が俯いていた。なんとも……絶望しかないのだろうと思わせるような空気だった。
それもそうかもしれない……いくら前向きに考えようとしても
外から悲鳴は聞こえなくなっていたとは言え、火災の火が遠くで燃える音。
建物が音を立てて崩れていく音。
そして化け物の獲物を探しているような叫び声。
聞こえてくる音はどれも絶望を連れてくるような音しか聞こえないのだから。
「……さーて、みなさん。自己紹介も終えたことだし、今後のことでも決めましょう!」
俺がまた後ろ向きな考えになっている時、大場先輩が急に立ち上がり、この先のことについて切り出した。
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