第5話 織田信長、探索者を作成する 

『CoC』のキャラクター作成は、六面体ダイス複数を何回か振り、能力値を決定していくところから始まる。

 そしてここからダイスの表記の話になるが、少々特殊である。

 例えば、六面体ダイスを三個振って合計するという場合、「3D6」と記述する。

 「3」がダイスの数で、「D6」が六面体ダイスという意味である。

 ちなみに、十面体ダイスふたつで01~00の数字を出す百面体ダイス1個振るときのの表示は、「1D100」と書く。

 「2D10」は同じ十面体サイコロを二個振るが数字を合計するという意味だ。

 そして、能力値の決定は、基本的に3D6を振る。そうでない場合もあるが、ここでは細かくは説明しないでおこう。

 以下が信長が振ったPCの能力値である。


◆能力値

STR(筋力):14   CON(体力):12

POW(精神力):8  DEX(敏捷性):17

APP(魅力):13

SIZ(体格):13   INT(知性):16

EDU(教養):16

HP:13 MP:8

SAN:40

幸運:40 知識:80


「これ、結構優秀ですよ!」

「む、であるか」

 能力値について信長には説明した。

 体つきもまあまあで外見も悪くない。

 腕力もなかなかあって、素早さと賢さ、教養は群を抜いている。

 ただ、精神力は人並みか少し下回る。

 そのことをかいつまんで説明すると、信長も大きくなずいた。


「つまりは、文武両道か。坊主にしておくのは惜しいやつよ」

「今から武士にしてもいいですよ」

「いいや、こやつはこのPOWというのが低いのであろう? POWとは、コウ太の話を聞くに、つまりは胆力のことじゃな。武士というのは腕が立って体が大きゅうても、胆力がなければならん」

「胆力ですか……」

 POWという能力値を胆力に置き換えて理解するとは、さすがといったところだ。

「このPOWは幸運にも関わってきまして、ちょっと人よりついてません」

「運というのは、肝の座った者が機会を逃さずに動いて拾うものよ。胆力が運と関わるとは、なるほど道理である」

 そういう考え方もあるのかと、感心する。

 運も実力のうちとはよくいうが、信長も実行力と行動力によって運を掴んできた。

 桶狭間の戦いなど、その思想は業績として歴史に刻まれている。


「やはり坊主がよい。べんも腕も立つが、肝っ玉は人並みというところが気に入ったわ!」

「……じゃあ、技能ポイントの割り振りですけど。これ、ちょっと難しいので、僕がやっちゃいますね」

「うむ。よきにはからえ」

 こうしてできた能力値を元に、技能ポイントをそれぞれの技能に割り振っていく。


◆取得技能

〈日本刀〉50%、〈回避〉62%

〈応急手当〉40%、〈聞き耳〉65%、〈図書館〉75%

〈目星〉75%

〈言いくるめ〉45%、〈信用〉45%

〈母国語〉80%、〈漢文〉40%

〈オカルト〉55%、〈心理学〉5%、〈歴史〉60%

〈芸術:書画〉30%

※初期値のものは省略


「こんなもんでいかがでしょう?」

 信長にわかりやすいよう、ウェブで入力したものをタブレットPCで見せてみる。

「いかが、と言われてものう……」

 戦国時代というのは、パーセンテージや確率論どころか、現代で広く使われているアラビア数字も伝わっていない時代である。

 それをぱっと見せてもよくわからないのは、当たり前かもしれない。

 しかし、この数字こそがかなめである。

 とりあえず、コウ太は表示を“〈聞き耳〉六割五分”のように漢数字に直すのだが、本文中では英数字で表記する。


「ええとですね。例えばこれ、この僧侶が〈日本刀〉が50%というのは、刀を振るうと、五割は相手を斬りつけられるってことです」

「五割か。まあ、武人にあらずして坊主だからのう。僧兵どもの中には達者な者もおったがな」

 信長も、だんだん理解し始めてきた。

 しかし、石山合戦を始め、一向宗相手に戦ってきただけに信長は坊主に厳しい。

 神や仏をものともしないようなエピソードも多いが、別に宗教を毛嫌いしていたわけではなく、政治に口出ししてくる宗教勢力を嫌っただけとの研究もある。


「これでだいたいのことは決まりましたが、この僧侶がどういう人物なのかを決めていきましょう。年齢とか、性格とか名前とか」

「そうさな。こやつ半端に武芸の腕あるから、元は武士であったのであろう。しかし、胆力が足りぬから戦に恐れをなしてのがれ、寺に駆け込んだのじゃ」

「あ、そうですそうです。そういうふうにストーリーや設定を盛り込んでいくといいです」

「“すとーりぃ”とかいうのは、伴天連ばてれん言葉か? もっと、わしにもわかるように話せ」

「その、お話というか物語というか……」

「ふうむ。御伽おとぎ衆にその場で思いついたはなしをまるで見てきたかのように語るのがおったが、そのような感じか」

「たぶん、近いんじゃないですかね?」

 御伽衆というのは、大名の側近にはべって講釈や説話、体験談を語る者たちである。

 信長の御伽衆では種村慮斎たねむら りょさいという人物が知られている。

 即妙な話術によって権力者の歓心を買った御伽衆たちの逸話も多く残っており、確かにTRPG的かもしれない。


「では、続きじゃな。こやつ、年の頃は三〇ほどであろう。寺に転がり込んでも、坊主であるから金子きんすも足りぬ。師から法名ほうみょうを授かったが、食うや食わず。糊口ここうしのぐために托鉢たくはつに出た。そこで、悪霊騒ぎを聞いた……いかに?」

「い、いいです!」

「お、そうか?」

「いいですいいです! 信長さん、すごく素質あるかもしれません」

「コウ太にそういわれると、わしも面映おもはいのう!」


 初心者は、褒めて伸ばす。

 TRPGを初心者にインストする際の基本的なテクニックである。

 動画で遊び方が紹介されて広がっているとはいえ、見るとやるとではやはり違う。

 今は『CoC』というTRPGを遊んでいるが、RPGといったら無数のゲームタイトルがあるように、TRPGもさまざまなタイトルがあり、それぞれに別の遊び方と楽しみ方がある。

 これをまるで知らない素人に遊んでもらうためには、「それでいい」という肯定の意を示すとよい。

 TRPGは自由な遊びと言われ、無数の選択がある。

 初めて触れる相手が、無数の中から正解を見つけるのは高い理解力を示したということであり、素直に評価すべきであろう。


「なるほど、わかってきたわ。つまり、わしが御伽衆のように語り、この坊主の話を考えていくのじゃな」

「ええ、そうです。坊主になってどうするかを考えるんです。名前、どうします?」

「そうさな。……丁尺ちょうしゃくというのはどうか」

「“ちょうしゃく”ですか」

おうよ。この“T”と“R”から取ったのじゃ」

「ああ、そういう風に見えたんですね」

 TRPGのアルファベットのを、漢字のに見立てる。

 名付けて、丁尺。

 こうしてて織田信長の探索者、僧侶の丁尺(三〇歳男性)ができあがった。

 次は、いよいよ実際に探索を行なう。

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