第14話 灼熱の一撃
煙のバリアはどんなものだろうと弾いてしまう。どんなに勢いやパワーがあろうとも、それは攻撃として意味を為さない。そして同時に、田子倉はいつでもすぐにその煙を使って攻撃できるのだ。
彼にとって姫佳の炎は攻略したも同然。今考えているのは、不利な状況を好転させるとかではなく、どうやって痛めつけるかということだった。
「猪苗代、できるだけ距離を置いて」
姫佳はチラッと響に目を向けて告げる。田子倉から攻撃を受けないようにするには、距離を置くことが最善だと考えている。しかし、そうすれば姫佳が1人になってしまう。それはつまり、姫佳が攻撃を受けるリスクが大きくなるということ。
「いや待て倉十!やつにおまえの能力は効かない!ここは逃げた方が…!」
「逃げない」
響はこれ以上の戦いが危険だと判断し、姫佳に逃げるよう告げる…が、彼女はそれを退けた。どうしてそんなことを言うのかと響は冷や汗を垂らして姫佳を見る。
彼女はやけになっているわけではなかった。彼女の表情は鋭く、逃げずに戦おうとする姿勢に説得力があった。もはや田子倉の殺意なんて恐くない。自分が猪苗代を護り、奴を倒すのだ。
姫佳は両掌を田子倉に向けてかざす――と、掌が眩く輝きだし、直後に灼熱の炎が太い筋状に放たれた。その勢いは今まで以上に凄まじく、姫佳の覚悟の強さを表しているようだ。
「ばぁか!!意味ねーっつってんだろぉ!!」
田子倉にとって姫佳の攻撃はバカの一つ覚えだ。どんなに威力を強めようが意味がない。彼女の覚悟を決めた姿勢が逆に滑稽に見えてくる。
――しかし、その油断がこの後の行方を決定づけた。凄まじい炎が絶え間なく放たれているのに、どうせこれだけだろうと高をくくってしまったのだ。
「あつっ…!!」
田子倉は足に高熱を感じて思わず声を上げた。そして飛び上がるように別の地点に足を接地させる―――が
「あちぃ!!あちぃーーー!!」
その場所も同じくとんでもない熱さだった。まるで高温に熱せられた鉄板の上を裸足で歩いているかのようだ。灼熱の地面の上で立っていられるはずも無く、田子倉は体のバランスを崩して倒れ込んでしまう。
ジュゥ…
「ぐわあぁぁぁ!!あちっ!!あちぃ!!あちぃ!!」
倒れたら最後、接地した手や背中、ふくらはぎへ瞬間的に膨大な熱が伝わっていく。もはやどうすることもできず、田子倉はひたすら悲鳴を上げることしかできなかった。
姫佳は初めから“炎で”攻撃しようとは考えていなかった。ただ、その凄まじい炎をわざと弾かせて、下方向に向かわせることで地面を熱したのだ。熱は形を持たないものだから、煙のバリアに阻まれることなく、地面を伝導して田子倉の足元を熱することができる。――姫佳はこれを狙っていた。
田子倉は体の至る所に火傷を負ってしまった。立ち上がることもできないほどダメージを受け、煙のバリアも消えてしまった。―――いよいよ丸裸だ。
なんとか震えながらも頭を少し起こすと、無情にも姫佳が掌をかざして今にも炎を放とうとしていた。すると、本能的に負けを認めたのか、田子倉は白目をむいて意識を失ってしまった。
「やった…」
姫佳は田子倉が意識を失ったのを確認し、ホッと安堵の息を漏らす。なんとか…大事に至らずに済んだ。
「すげぇ…」
一方、響は姫佳の圧倒的な力にただただ驚き感心していた。初めて能力が発現してまだ数日しか経っていないが、着実に強くなってきている。いや……初めからこれくらい強かったのかもしれない。
「猪苗代…ケガは大丈夫?」
「俺は大丈夫だ。おまえこそ、落下したときにケガしなかったか?」
「大丈夫。猪苗代が助けてくれたから。ありがと」
そう告げて、姫佳は柔らかな微笑みを向ける。響はなんだか体が熱くなるのを感じた。未だに燃えている炎のせいだろうか…。よくわからないが、とりあえずそういうことにしておこう。
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