061 剣の魔導士とそこにあるものⅤ
「まぁ、そこにいる二葉さんがこの建物に入っていくのを見まして……。それに怪我をしていたようだからな」
男は二葉の体を見て答える。
二葉はここに帰ってくるまでマントを羽織り、フードもかぶって怪我していたところなんて見えなかったはずだったのに男は全てを見抜いていた。
左腰に一本の刀を差していた。
「口調がおかしいよ」
「いや、これでいいんだ。それよりも二葉さん、お怪我は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。三久が手当てしてくれたから……」
「そうか。それなら良かったんだが……そう言えば、裕也の奴はどうしたんだ?」
男は部屋中を見渡して、裕也の姿を探す。
「総司さん、裕也君はその……」
三久が総司と呼ぶ男に話そうとする。
「その様子は何かあったらしいな。一度話してくれるか?」
「はい……」
三久は小さく頷いた。
男の名は沖田総司。裕也や三つ子と同じくこの世界に飛ばされた日本人である。
沖田総司はあの新選組の沖田総司と同姓同名であり、同じ神速の剣の持ち主である。
彼の腰に差してある刀は、名刀・菊一文字である。
黒髪の短髪で、身長約一八五センチ、今は私服でいるが、軍に潜り込んでいる時は制服で行動している。
煙草を時折吸っており、女の前では絶対に吸わないという変なこだわりを持っている。
軍の階級は中尉。
軍内部ではデミトロフの部下として行動を共にしている。
「裕也君は今、アルブレヒト教会にいると考えられます」
「やはりそうだったか……。依頼したのは大佐だろ?」
「はい」
「俺もあそこの噂は耳にしている。賢者の石と黒魔法、そして、西の軍の奴らに内通者がいるって事もな……」
「二葉しか帰ってこられなかったって事は、裕也君は向こうで捕まっていると思うんです」
「あいつ、油断したな……」
「そして、二葉にこの手紙を渡したそうです」
三久は例の紙を総司に渡した。
受け取った総司は裕也が残したメッセージを目で追いながらゆっくりと読む。
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