ヨダ山岳遺跡
序章、あるいはけちな盗掘屋の述懐
マキャデー高原都市には2つの顔があって——火山活動からなる温泉街、観光都市としての顔、そしてヨダ山脈奥地の遺跡地帯を探索する冒険者たちが集う冒険都市としての顔——私にとっては、ここは後者だったっス。
土地柄なのか冒険者ってやつがそうなのか、山岳遺跡に挑む連中って、なーんかやれ大型ゴーレムを倒しただの火蜥蜴を倒しただの喧伝したがる奴が多いんスよね。私に言わせりゃ戦歴を自慢できるような大物とやりあってる時点ですでに相当なヘマっつーか、正直命の危険がある相手と正面からガチンコするような冒険者のことを心底見下してたり。最もそういう奴らが体を張ってくれてるおかげで際限なく迷宮に沸く魔物たちが剪定されてたり西の方の片田舎で現れた魔王が倒されたり、いろいろ平和にやれてる側面があるのは否めないッスけどね。美味しい思いをしたかったら能力は索敵と敏捷に振って盗掘をやるのが賢いやり方ってやつなんスよ。ええ、サアルの息子に誓って。
そういうスタンスでずっとやってきた私なんスけど……間抜けなことにぶっちゃけ、ピンチに陥ってたッス。絶体絶命の。
「いつの間にこんなに近く——私の五感をすり抜けて? こんなのが出るなんて聞いてないッスけど……」
鉄の自動人形——速い。この遺跡で見られる一般的な物より細身で流線型のそれが肘から生やした刃を横薙ぎに振るうのを飛び上がって回避、
ぞぶり、と翼に嫌な感触。そして焼けるような熱さと激痛。返し付きの鏃が食い込んで、巻き取られていく鎖が私を地に引きずり落とす。
知らぬ間にこれほど近付かれていた。
(——嘘、だ)
山岳遺跡の
私はだって、慎重に、死なないように。下調べを重ねて他の奴らとは違うんだって。嫌だ。死にたくない。おかしい。わざわざ何人もの先駆者から情報を集めてマッピングして、私じゃない。死ぬべき奴が他にいるはず。もっと迂闊で、もっと死たがりな。私じゃない。私じゃなくて。そんな。それが、こんなに簡単に。
「嫌————」
価値あるものを手に入れたかった。このマキャデー山岳遺跡で。
ささやかな願いのはずだ。財を築きたい訳でも名声を得たい訳でもない。私は、だって、ただ。
呻く私を引きずり寄せるゴーレムのもう片腕がぬらりと振り上がる。穿たれていない翼をばたつかせても状況は好転するはずもなく。死を覚悟する余裕もない私へと振り下ろされて——
そこで、銀の軌跡が閃いたッス。
奴の刃より速く、その剣は私を死へ誘う鎖を断ち切って、次いで現れた根の四肢と双頭を持つ獣がゴーレムに踊りかかって引きずり倒した。
現れたのは精霊と、それを操る召喚師。夕陽に燃えて黄金に煌めく髪と対照的に、すらりとした体躯が纏う装備は堅実で遊びを感じさせないもの。冒険者だ——それも、場慣れした——ってのが第一印象だったッスね。んや、実際そうなんでしょう。……私みたいな雑魚にもそれが分かるだけの堂に入った雰囲気があるんスよ。あっという間にゴーレムを破壊して当たり前みたく私の翼を治療する彼女を見て、こいつは私とは別の世界観に生きてんだろうなと思いました。同業が死にかけてるのを見て義理もないのに助けに入る。嫌いな人種ッスね、ええ、今でもそうッス。運が良かったとは思ってるけど。
——そして、これが最初ッス。
大騎士ハイトネットが偶然の託宣により異例の速さで発見した魔王サイレンフォイル、それを彼が辿り着くよりも早く打倒した最年少の魔王討伐者にして猫王ラガマフィの私生児を悲劇の淵から救い上げた英雄。完璧人間のような面をしているのに、その内実に酷く脆い爆弾を抱えている、いけ好かない女。
ほんとうは少しだけ私と似ていて、だけどずっと遠い人。
シタン・ネルサとの邂逅。
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[シタン・ネルサ]
召喚師、剣士
主な技能:【茨の矢】【再生】【剛力】【精霊召喚】【細剣術】
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