なほあまりある 8


 呑気にそう言った弘人に目を剥く。すると弘人は俺を見返して、悪戯っぽく笑ってみせた。


「お前はさ、どーでもいい奴にはホンットに無関心なんだぜ。あいつに『バカな事してねぇよな? 先輩の言った事ちゃんと守ってるよな?』ってお前が確認した時、『大事な友達なんだ』って俺にはちゃーんと判ったね」


 胸を張って、自慢げに言ってのける。


「だから仲間なのかよ?」


「そーそー。それもある」


 隣で笑い続ける弘人に、俺は「ふん」と鼻を鳴らした。


「お前に言うバカと、あいつに言うバカは違うんだよ」


「えー? バカに違いなんてあんのー?」


 首を傾げ、弘人が不思議そうな顔をする。


 その顔を見つめながら、俺は弘人が昭仁に普段通りの態度を取ってくれていた事に感謝していた。


 俺と同じ間違いを、弘人はしなかったのだ。


「いや。お前は実は頭いいかも」


 言い直した俺に、弘人が吹き出すように笑う。


「それって、褒め言葉なのかよ?」


「どーだろな?」


「えーッ。お前が言い出した事じゃん!」


 なんだよー、と不満げに頬を膨らませた弘人は、それでもすぐに笑顔に戻った。

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