なほあまりある 7


 弘人の台詞に昭仁が目を見開き、しばらくしてから理解したように小さく笑いを零す。


「オレ達、仲間だな」


「そう!」


 うれしそうに頷く弘人に手を上げて、昭仁は再び背中を向けた。


 昭仁とは逆の方向に歩き出しながら、隣で弘人が「あいつ、いい奴だなぁ」と感心したように呟く。


「なんで?」


「俺、あいつの友達がガム吐き捨てた時、顔しかめたんだ。『汚いな』って。それをあいつ見てて。だからさっき、ガムを拾って捨てたんだぜ。――きっと、友達を悪く思われたくなかったんだよ」


「ふーん」


 あんな奴等でも、あいつにとっては大事な友達だったのかと、ぼんやりと考える。そして、自分の態度が母親のそれに似ていた事に、今更ながら気がついた。


 慌てて昭仁を振り返るが、人込みに紛れてもうその背中を見つける事は出来なかった。


 自分が言われれば怒るくせに、昭仁に対しては同じ言葉を発しようとしていたのだ。


 ――『あんな奴等とは、付き合うな』と。


「それに、お前にとってもあいつが『大事な友達』なんだって、ちゃんと判った」

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