風そよぐ 5


 俺にとっては、特別な場所だから。


 だから例え、それが俺達共通の友達だったとしてもさ――。


「他の誰にも、見せてやんないんだ」


 ニンマリと笑った俺に、祐志が目を剥く。


 そして一瞬、目の前が暗くなって、気付くと祐志の顔が離れていくところだった。


「え?」


 唇に残った微かな感触を、指先で辿る。固まった俺の視線の先で、祐志は目を細めて微笑んでいた。


「――なに……笑ってんだよ」


 拗ねたように言ってみても、自然と口許が緩んでくる。


 だって、目の前で祐志が、すごく楽しそうに笑ってんだもん。


「お前こそ、笑ってんじゃん」


「だってこれは、祐志が――」


 お前が、笑ってるから。


 ケタケタと笑いながら、祐志は花火に視線を戻す。


 俺も再び花火を見たが、心臓がドキドキしてまともに見てはいられなかった。


 只、頬に風が当たっているのを感じる。頬が熱を持ちすぎて、今まで感じもしなかった風を、気持ちいいと感じていた。

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