しづこころなく 5
今、弘人と仲良くなったのを後悔していないのと同じくらい、中学の時に仲良くなった奴等の事も、後悔などしていなかった。
特にあの人は、俺の心の拠り所だったのに――。
ドライヤーのスイッチを切って、無意識に鏡を見る。視線の先には、自分の左耳が映っていた。
今はもう、その痕跡すらも残していないピアスがあった場所。いつの間にか穴が塞がっているのに気がついた時、俺は自分自身で相当なショックを受けた。
ヤツ当たりだと解っていながら、弘人の所為だと辛く当たった時期もあった。
――忘れるつもりなんて、全然ないのに……。
俺はドライヤーをあて終えたばかりの、まだ熱の残る髪をクシャリと強く掴む。
……只、時々。
時々、弘人が俺の心を占める時がある。あなたといた時のように、俺に安らぎを与えてくれたりする時があるんだ。
「―――さ…ん……」
あの人の名前を呟いたつもりだったのに、掠れてしまって、声とはならなかった。
ドライヤーを少々乱暴に棚へとしまい、部屋に向かう。
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