しづこころなく 4
「残りって、父さんの分だろッ?」
吐き捨てるように言う。辛そうに瞼を伏せたその表情から、父親がまた遅くなるのだと理解した。
――あの、クソ親父!
俺は再びドライヤーのスイッチを入れて、鏡越しに声を発した。
「ちょっと急ぎみたいだったから、早くしてくれよ」
ぶっきらぼうに言ったのに、母親はうれしそうに頷いた。パタパタとスリッパの音をさせて、台所へと向かう。
なぜ、自分の家でこんなにも不愉快にばかりならないといけないんだ。
こんな事を思ってはいけないのだろうが、たまに弘人の家が羨ましくなる。そりゃ、喧嘩だってするんだろうけど、仲のいい両親に、面倒見のいい大学生の姉が1人。
遊びに行くたびに、思い知らされる。これが『普通の家庭』なのだと。
俺の家は、俺が小学6年になる頃から、父親の帰りが遅くなった。夜中に目を覚ますのは、いつも母親のヒステリックな喚き声でだった。
別にそれを中学の時、俺の素行が悪かった言い訳にするつもりはない。親から見ればガラの悪い連中も、 俺にとっては気の合う友達だった。
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