第2話 下降

真っ暗の坂をひたすらに下る。

登ってきた時のことは覚えていない。気がつけばあの場所にいたのだ。気がつけばあの光を見ていたのだ。


曲がりくねった道を、自分の感覚だけを頼りに降りて行く。耳元で何かが囁くように感じたが、風の声がそれを遮って聞こえない。


聞こえなくてもいい。

どうせ大したことでは無いのだ。

聞き返さなくてもいい。

どうせつまらないことだ。


山の中、いくつかの曲がり道には何か生き物が転がっていた。その正体が何なのか、確かめることはできなかった。

確かめようにも、一度自転車を止め、降りてから近づく必要があり、もし自転車を止めてしまうと、風の声も止んでしまう。

風の声を耳に入れ続けなければ、他の音が耳に侵入してくる。


私は聞きたくないのだ。

煩わしい音など、聞いて楽しいものではない。


道に転がっていたのは、おそらくヒトだろうか。

私と同じように坂を下っていたヒトが、上手く曲がれずに、ああして転がっているのだろうか。可哀想に。


途中、ちらちらと樹木の間から光がのぞいているのを感じた。それを感じる度に、早く降りたいという気持ちが高まったものである。

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探しものと見つかりもの 八重の れい @rei_yaeno

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