それでもこの冷えた手が ~ずっと、一緒だよ~

無月弟(無月蒼)

それでもこの冷えた手が 前編

午後五時半。電車を降りて、駅を出て。木枯らしが吹く寒い中、家へと続く道を歩いて行く。平日は大体いつもこんな感じで、高校から帰宅している。そしてそんな私の左隣には、いつだって彼がいる。


「寒くないか、雪」


雪、と言うのは、私の名前。優しい声で名前を呼んでくれた男の子は、陽くん。陽くんとは中学と高校が同じで、毎日こうして一緒に帰っている。


「ちょっとだけ寒い。けど、今日はまだ暖かい方かな」

「そんなこと言って、どうせまた手が悴んでいるんだろう」


陽くんはそう言って、私の左手を握ってくる。


「ほら、やっぱりスゲー冷たい」


確かに冷たい。重度の冷え性である私は、冬の間は少し外を歩いただけですぐに手が悴んでしまうのだ。

名は体を表すとは言うけれど、『雪』という名前で冷え性なんて。人に言ったら笑われることが多いけど、困ることも多いから、私としては笑えないよ。


だけどそんな手の冷たさとは裏腹に、胸の奥は熱を帯びてきた。陽くんの手はとても暖かいから、その熱が伝わってきたのかも。


「冷たかったらちゃんと言えよな」

「う、うん。でも陽くんは嫌じゃないの?手を繋いだら冷たいのに」

「全然。繋ぎたいから繋いでいるだけだから」


そんな風に言われると、何も言えなくなってしまう。

陽くんに好きだと告白されたのが一月前。私は私で、ずっと陽くんの事が気になっていたから、それがとても嬉しくて。

元々一緒に帰ることが多かった私達だけど、付き合い出してからは必ず毎日一緒に帰るようになった。


列車に乗って、駅について。それから私を、家まで送ってくれる陽くん。

歩く時、陽くんはいつも車道側。別に私が車道側でも危なくなんて無いと思うけど、陽くん曰く、『事故なんていつどこで起きるかわからない』とのこと。

心配性だな陽くんは。だけどそう言う所も、やっぱり好き。


駅を出てからは、こうして手を繋ぐのも毎日の事。この暖かな手と時間が、とても愛しく思える。


「陽くん……」

「なに?」

「ありがとう」

「どういたしまして」


私は今日も、陽くんと並んで歩いて行く。彼の手の温もりを感じながら……

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