真弓千聡の日記

3月18日 はれ


 今日はT高の合格発表があった。無事、合格していました。ヨッシャ! でも、聞いた話だと、今年F中から受けた人たちはBちゃん以外受かってたみたい。「絶対落ちた」って言ってた山ちゃんが大丈夫だったのに、「絶対受かった」って言ってたBちゃんが落ちてたのは、ちょっとだけ面白い。二十日の登校日までにサインとはんこをしないといけない書類をたくさんもらった。


 周りの人の話を聞いてみたけど、やっぱりみんな訛っていた。訛り隠しの敬語は完全に余計だった。


 合格が分かったら、みんな塾の打ち上げパーティに行っちゃったので、一人で部活を見に行った。入る期満々だった写真部は期待はずれ。引きこもりみたいな眼鏡の部長が一人いるだけで、ちゃんと活動してないっぽいし、つぶれかけっていうのも納得しちゃった。でも機材も資料も部誌の積み重ねも捨てるにはもったいないし、価値の分かる人が学校にいるとは思えない。私がなんとかしないと。部長が引退すれば私の天下だ。


 部長といえば、私が「見える」と言ったら「僕にも見える」って張り合ってきた。それだけでもかなりムカつくけど、部室の中にいたうさぎの霊の鑑定を頼んだら「十代から六十代の男性または女性の霊」って返してきた。適当言って仲良くなろうって魂胆が死ぬほどムカつく。


 帰ってきたらおばあちゃんがお赤飯炊いてた。お母さんからもおめでとうメールが来ていて、仕事が終わった後なのに珍しくごきげんだった。明日が休みだからかも。晩ごはんはお赤飯とお刺身、豆腐とわかめの味噌汁でした。おなかいっぱい。



3月19日 はれ


 今日は休みなので十時まで寝てるつもりだったのに、お母さんに起こされた。昨日の夜にちょっと言っただけの買い物の予定を覚えてたらしい。私は一人で行くつもりだったんだけど、朝ごはんを食べてすぐにイオンに行った。私が準備でもたもたしたせいで(ってお母さんは思ってるんだろうけど)着いた時にはお昼で、だからお母さんはちょっといらいらしていた。


 中学には制服があったし、あんまり服を持ってなくても困らなかったんだけど、T高には制服がない。でも別に、個人で制服を着たって問題ない。山ちゃんの受け売りだけど、セーラー服とかブレザーを組み合わせれば、けっこうかわいくてそれっぽいものが出来そうだし、「自分で制服を決めちゃう」っていうのはかなりグッドアイデアだと思っていた。


 思っていた、っていうのはお母さんはそう思わなかったってことで、また喧嘩みたいになった。制服は浮くからって、お母さんは「普通の服」をいくつか持ってきた。それは全然私の趣味じゃなかったから、私は妥協してより普段着っぽいセーラーワンピースに決めた。おばあちゃんは褒めてくれたけど、お母さんはずっと不満そうだった。私にもらったお金の範囲でやってるんだから、文句はつけないで欲しい。晩ごはんはお赤飯の残りと筑前煮。お味噌汁の具はじゃがいもとわかめ。



3月20日 はれのちくもり


 合格者登校日。義務感で早起きするのは久しぶり。体育館に集められたけど、たいした話はなくて、書類の提出と教科書・指定ジャージの配布がメインだった。教科書もジャージも意外と高くてびっくり。私立でかかる金額を思うと冷や汗もの。


 部活の勧誘は前のときよりすごかった。写真部室がからっぽだったから物色してたら、見たことない色のブラックバードを見つけて、その後部長に見つかった。叱られたらうんと横柄にしてごまかそうと思ってたけど、一緒に心霊撮影に行かせてくれるように頼まれただけだった。私はいいけど、部長が嫌そうな顔をしていたのはわけがわからない。


 道中はかなり気詰まりだった。私は親しくない人ととは静かにしていても平気なほうだけど、部長はそうじゃなかったみたいで、あれこれ話しかけてきてうざかった。そのとき服のことを聞いたらけっこうちゃんと答えてくれたので、思ったより不真面目だとか悪い人だってわけじゃなさそう。その辺を部活にも発揮してくれてればよかったのに。


 今日はE駅前のほこらに行きました。日の高いうちから何人かが集まってるのを電車の中から見たことがあったんだけど、ずっとすごいものが撮れたと思う。思い出しても危ない橋を渡ったな、って思うし、まだ少しどきどきしてるし、今日はお母さんと部長のお兄さんの二人から叱られてかなり堪えているけど、あんなのが家の近くにいるなんて思わなかった。明日、写真を現像してから詳しいことを書きます。


 晩ごはんは野菜炒めときんぴらごぼう。お味噌汁は昨日の残りだった。



3月21日 くもり


 お昼に起きて、昨日のフィルムを現像しに学校に行った。一応話はつけてあったけど、先輩がちゃんと来ていてくれて安心した。てきとう言って鍵を借りても良いけど、部室を使うなら在校生の部員がいたほうが助かる。と、言っても、先輩はフィルムの現像についてはまるで知らなかったし、暗室には私が一人で入って現像作業をした。


 正直、私はもうちょっと写真を撮るのがうまいと思ってた。先輩が火の玉みたいなのを撃ったとき(と思われる)写真はブレブレだったし、鬼を撮った(と思われる)写真は真っ黒だった。半分以上がピンボケで、綺麗に撮れてるうちの何枚かはフィルムを使い切るために撮ったスナップ写真。それらしく写っているのは、E駅で撮ったほんの数枚だけだった。


(写真)


 スキャンするやつとは別に焼き増ししたので、こっちにも貼った。特に二枚目の駅員さんの写真は、私には普通のお仕事写真なんだけど、先輩が言うにはけっこうやばいものらしい。そう言えば、駅員さんがいなくなった後に撮ったはずなのにこの人が写ってるのは不思議だ。三枚目の電車の写真もとっさに撮った割には良く撮れてて自信作。流し撮りなんて初めてだったけど、うまくいった。


(写真)


 一応、これも貼る。線路の向こうに竹林があるんだよ、って教えてくれた女の子。撮った覚えがないけど、綺麗に撮れてたから。普通の家族写真みたいだから、あんまり面白くないけど、先輩が嫌そうな顔をしてたからけっこう当たりなのかもしれない。ネガは先輩が持ち帰って検分してくれるそうなので、楽しみ。


 そういえば、先輩の家は本当にお寺でした。含福寺と言うそうで、おばあちゃんに聞いてみたら、うちも檀家だった。てっきり嘘だと思ってたんだけど、言われてみれば普通の人はあんまり手から火の玉を出したり、ほこらを封じたりしない。


 晩ごはんはピーマンの肉詰めとポテトサラダ、あさりのお味噌汁。どっちも好きな料理だけど、お母さんはまだ昨日のことを怒ってて、あんまり美味しくなかった。


追記


 通過する電車の写真、よく見ると客も映ってる。少し不思議だけど、私には全部こっちを向いているように見える。明日先輩に聞いてみよう。


    ◆


3月30日 あめのちはれ


 十日近くも日記をサボってしまった。サボってた間のことを書くと、最後に日記をつけた後から、ものすごい熱が出て布団から起き上がれなくなった。あんまりつらかったから、おばあちゃんが病院に連れて行ってくれたけれど、「心因性ですね」って言われて解熱剤を出されただけだった。それって「原因不明です」ってことじゃない? 結局薬は効かなかったし、次はあそこの病院にはいかない。


 熱を出してる間はなかなか寝付けなかった。眠れてもあんまり深くは眠れなくて、いくつか夢を見た。十一人格になって他の人格と主導権を取り合う夢とか、迷路を内包した眼球つきキューブの夢とか、ワイヤにぶらさげられていた手榴弾を勝手に使って借金を負わされる夢とか、熱の出ているときにお決まりのやつ。途中、先輩から頼んでおいた部誌の原稿を読んだせいもあると思う。


 お母さんは「心因性」を真に受けていて、自分が休みで私が元気になったからって、『子どもの心理』だかなんだか、親の読む本を片手にカウンセリングの真似事みたいなことをやった。それはまるきり尋問みたいで、それこそ私は心因性の熱を出しそうだったけど、それを言うとお母さんのほうが心因性の熱を出しかねなかったし、病み上がりで何かする気にもならなかったので、私は一日それに付き合った。


 だから、先輩の記事をちゃんと読んだのは夜になってからだった。連絡したらすぐに送られてきたし、もっと雑なものを想像していたけど、中身はかなりちゃんとした記事だった。作文が得意だっていうのは本当っぽい。


 ……ってところで、私のほうは全然作業してないのを思い出した。できなかったと言ってもいいんだけど、先輩に締め切りを提示したのはこっちなんだから、あんまり隙を見せて舐められるわけにはいかない。一応、私もちゃんとやった、って言えるものを持っていかないと。


 というわけで今日の日記はここまで。晩ごはんはまだおかゆ。おかずに豚肉と白菜の蒸し煮を食べました。

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