颯の場合17
気づいたら俺は病院にいた。
待て。待て。意味がわからない。何故俺が病院にいるのだ。いるべきは俺ではなくあの小さな男の子か彼女だ。それなのに何故俺が……。
「やっと目が覚めた?」
拓磨が本を花瓶の傍において俺に聞いてきた。
「なんで俺が病院に」
「なんでって、颯が子供をトラックから助けて一応入院しようってことになったから」
「は? 助けたの俺じゃないだろ。彼女が___」
「彼女? 何言ってんの? 頭ぶつけて記憶あやふやになってるんじゃない?」
___じゃあなんだ。俺のさっきまで目に見えていたのは俺の空想だというのか。
男の子を助けて変に頭をぶつけて混乱してると。
「男の子は無事だったか?」
「あぁ、無事だよ。けど起きないお前を見てビービー泣いてたな」
「怪我ないんならいい」
俺の記憶が間違いにしよ将来ある子供が怪我を追ってはダメだ。そういう運命になるのは俺だけで十分だ。
「けど、大丈夫そうで安心した。2回目だから免疫ついたのかもな」
「免疫ってな、けど痛くはない。頭痛は少しするけど」
「先生も1日休めは大丈夫って言ってたから今日安静にしてたら大丈夫だろ」
「了解ー。てか、なんで拓真いんの」
「莉音から連絡があったから」
莉音?何故あいつから。俺が聞くよりも先にノックの後にドアが開いた。
「颯……」
「莉音」
莉音が俺に近づいてくる。
久しぶりにこいつの顔みた。最後に見た時よりも前髪が短くなっていて顔が伺える。俺や拓磨とは違う整った顔が近くにある。マジかで見ると本当にこいつは女みたいだ。
莉音はそれっきり何も言ってこない。俺じゃなくこいつが事故にあったんじゃないかと思うぐらい莉音の方が血色が悪い。
久しぶりに莉音の手を掴む。
ほら、見ろ。
やっぱりお前の方が冷たいじゃないか。
「ごめん、颯」
莉音が謝ってきた。何に対してだ。
「僕、颯のこと、また怪我させて……」
莉音のせいで怪我?なんの事だ。お前のせいで俺が怪我したことなんて1度とも無いはずだ。それに少なくとも今回に関しては少なくとも男の子を助けた俺がこうなったということで完結しているはずなのにまだ何かあるのか。
「俺はお前のために怪我したことなど一回もない」
「___うん」
「颯、俺と莉音もう帰るな」
「おう」
それから2人は病室を出ていった。
拓磨が莉音の肩を腰に手を回すように掴んでいたことは別にどうでもいい。
本当に俺は一日で退院出来た。
深夜母さんに送ったメールの返事が届いている。
《りな? りななら元気だけど、どうしたの?》
どうやら本当に彼女は関係なかったようだ。じゃあ昨日俺が見た彼女は別人だというのか。もう別人でも構わない。彼女に怪我がないのならもうほかに喜ぶことは無い。
それに俺が見た記憶も夢だと考えれば納得が出来る。都合の良い夢。誰も事故に合わなかった夢。実際現実とそう変わらないのが不思議だが夢なら夢でいい。このままでいいのだ。
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