颯の場合15

「颯ー!春菜さん載ってるよ!」


 朝から女子がキャーキャーと騒いでいる。毎度思うがこの集団のテンションにはついていけない。


「おー、そうだな」


「春菜さんの隣にいる子めっちゃ可愛くない?! 新人かな?」


「どうだろ? あ、でも春菜さんのインタビューに10共演出来て嬉しいって書いてある」


「そんな前からいたの?! こんな可愛いのになんで注目されないんだろ……」


「あれなんじゃない?10年ぶりに芸能界復帰したとか」


「あぁー、それなら有り得そうだな」


「この子私たちと同い年ぐらいかな? だとしても春菜さんも若いし綺麗だよね。ねー、颯。春菜さんって今何歳?」


 女子だけで話すんなら他所でやれよと思っていたところで質問された。女は以上にそういう所が鋭い。タイミングというか間というか。微妙に他人を飽きさせないような知恵を持っているような気がする。


「確か41? ネットで調べれば出てくんじゃね?」


「それでも息子ー? でもその年で10代と並んでも違和感ないんだからちょっと怖いの域」


「まぁ、中身が子供だからな」


「そうなんだー? でもドラマの春菜さんめっちゃかっこいいよね!」


「うんうん!」



 何故か母さんの話しで盛り上がっている。盛り上がるのは構わないが身内のいる目の前では盛り上がらないでくれ。こっちの気にもなれって感じだ。


 ……そう言えば、母さんと一緒に写ってる人は誰だろう。10年ぶりと言っていた。そのワードに少し興味がある。

 その年といえば俺が丁度天使と出会った……。



 ___可愛い。



「えっ?!」



 また、声にでてたのだろうか。女子が驚いた様子で俺を見ている。

 またやっちまった。


「へぇー、颯ってこういう子がタイプなんだ〜」


「なんか妬けるなぁ〜。あ!そうだ。今日一緒に遊ばない? 親かえってこないんだよねー」


「颯、私とはー?」


「えー、ずるいー!」



 最近、こいつらと遊んでないな。


 その全ての理由はその雑誌に載っている彼女のせいなのだが、きっかけも彼女だ。

 俺は彼女を求めていて、ほかの女を求めた。

 けれど何も満たされなかった。ただ一時の快楽だけが身体に起きるだけで心に満ちるものは何一つ感じられなかった。


 それが今、目の前にあるのだ。



「わりぃ、俺辞めるわ」


「え?」


「お前らと遊ぶのもう辞める」



 この時の俺はどんな罵声や嘲笑が来るのだろうと覚悟した。しかしそんなものは必要なくて彼女らの反応は以外にもあっけらかんとしていた。



「えー、寂しいなぁ。じゃあさ、必要になったらいつでも言ってね?」


「何ー? 好きな人でもできたの?」


「じゃあ夜は一旦お暇として、他は今まで通り遊ぼうね!」



 女というものはどうやら感というものを優れているらしい。

 俺がどんなに彼女らを傷つけたのかも何かを与えられたのかもわからない。それでも何故かこいつらは俺と居る。

 この中には俺に告白までしてきた女もいるというのに、どういう考えがあるのだろう。



 そんなもの俺には分からないし、分かろうともしない。ただ、彼女らが抱いている気持ちが今の俺なら少しは分かるつもりだ。

 彼女らも必死なのだ。好きな人を目前にしてどうしたらいいのかもよくわかなく、分かってもいたりしてその人に少しでも刻みたいと思っている。

 もしかしたら本命は別にいて俺はただの気晴らしなのかもしれない。顔だけを拝みに来てるのかもしれない。それでも別に構わない。


 俺だって、彼女らの相手をそんな気持ちでやっていたようなもんだから。

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