颯の場合13
家に帰って、数分したら母さんからメールが届いた。
どうやら彼女が目覚めたらしい。
それに付け加えて莉音のことも書いてあった。今日も母さんの所で泊まるようだった。
まぁ、明日も学校休みだし学校に関しては大丈夫だろう。
それにしても莉音は何故か最近よく母さんと居る。昔ならは俺らから離れる度に泣き崩れて嫌だ嫌だとジタバタと暴れていたくせに今ではもう連絡のひとつもなしに離れていく。
寂しくなんかはない。
ただそれが当たり前になりすぎて何も感じてこないのが不思議なだけだ。
「颯、今日の夜ご飯何がいい?」
「なんでもいい。あと、莉音今日も帰ってこない」
「了解。莉音……今日もか」
お前、莉音のことほんと好きだよな。
その声は呑み込む。
そんなことを言ったら、拓磨からなんて言われるかわからない。
拓磨は基本誰にでも優しいが莉音についてだけは別だ。人が変わったように莉音には甘いし優しいし反面に厳しさもある。まるで十歳以上離れた弟妹を見守る兄みたいだ。
本当のところ、俺らは三つ子なのだが。
「じゃあ、焼き鮭でいい? 丁度貰った鮭が2匹あったんだ」
「おう、任せる」
2人で食べた身が締まった焼き鮭がいつもより塩っけが多かった気がするのはきっと気の所為ではなかったはずだ。
そういえば俺、莉音の顔を最後にまともに見たのいつだ?
ボーッとテレビを見てる時にふと思った。その言葉が声に出てたのか、拓磨から鋭い視線を投げられる。
なんだよ、と俺が睨み返すと別にと言うでもなく普通に話しかけてきた。
「颯ってまじで3年前のこと覚えてないの?」
「3年前? なんの事だよ」
「お前がバスケできなくなった理由の時のこと」
拓磨が俺の足を指さす。
またか。
俺と二人っきりになると拓磨はよくこの話題を出してくる。そして俺の答えはいつも決まっていて
「覚えてない。いつの間にか病院にいたんだから」
それ一点張りだ。でも仕方ない。本当に覚えてないのだ。何故俺が病院にいたのかも。バスケを出来なくなっていたのかも。
その時は嘘だと思って入院が終わってリハビリを頑張れば今まで通り動けるようになると思っていた。だが、それは違っていた。俺の足はまるで別人の足のように固く己の動きが出来なくなっていた。
手がボールを弾む度、その動きに合わそうとする脚だけがついていかなかった。それを知った途端俺はバスケを捨てた。
今までの人生の中で一番かけてきたものをいらなくなった玩具のように簡単に捨てられた。不思議だった。滑稽だった。
あぁ、こんなものだったんだ。と。
俺はなんのためにバスケをやっていたのか分からなくなっていた。バスケは好きだったと思う。全国まで行ったし、もう少しで推薦も貰えるぐらいだったからそれなりに実力もあった方だと過信はしている。
だか余計にそれが俺を挫折へと簡単に引きずり落としたのかもしれない。
今覚えば俺がバスケットボールを思いっきり地面に叩きつけた時、誰かに何かを言われた気がする。それが誰だったかも何も言われたのかも覚えてはいない。
俺の記憶はいつもどこか虫食い状態に抜けている。
でも確か俺はその誰かに八つ当たりしたかもしれない。誰かに思いっきり当たり散らしたのはぼんやりと覚えている。けれど本当にその当たり散らした相手が俺に声をかけてきたやつかと聞かれたらまたそれも曖昧でそうだとは答えられない。
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