颯の場合12


「……俺、あなたのことが好きです」


「……え?」


「だから、俺、あなたの事が」


「待って、待って待って」


「どうしたんですか?」


「___ごめん。答えられない」


 再開してから数回目、やっと彼女とまともに話せると嬉しく思った己から出た言葉は唐突で、俺の天使は焦った様子で顔を青白くして答えた。


 少し戸惑って嫌そうな顔をしているときでさえ愛おしく見えてしまうのだがら、俺はどうかしている。俺は彼女から好かれていないことぐらいわかる。反対に嫌われているのではないかと。彼女とまともに話したのだってついさっきだ。なんで母さんとよく居るのか、いつからこの仕事をしているのか、そんなことを聞いていたぐらいだが。


 彼女の答えは少し曖昧で腑に落ちない返事もあったが、そこは深く突かないでおいた。誰にでも聞かれたくないことはある。


 だが、俺はこの最近までの自分の正体不明の言動の答えを声にしてしまっていた、それも本人の目の前で。

 こんなつもりはなかったのだが、頭の中が真っ白なもんで前後の出来事など覚えていない。ただ、ハッキリと俺は彼女に告白し、断れたのだと、その事だけは分かったつもりだ。



 ___それでも諦められない。


 彼女の茶色い瞳が大きく見開かれ、俺を見つめる。


 好きだと言って断れたら、どうするのが正解なのだろう。

 俺に告白してきた女子達は泣いて逃げるか、そうと悲しそうに目を伏せらるか、だよねーと笑いながら不自然にいつも通りに接しようとするかの3パターンだ。

 俺はそれらで終わらすつもりは無い。


 俺は彼女が好きなのだと、分かったのだから。

 ここで諦めてはだめだ。

 今まで思っていた思いが想いならば、今気づいた分ここで伝えなければまた後悔するだけだ。


 彼女が、小刻みに震えだした。

 両膝を抑えてなんとか止めようとしているが、先ほどよりも顔が真っ青になっている。


「大丈夫ですか?」


 俺が声をかけるよりも先に彼女はグラりと身体を傾けたので、俺は急いで彼女の腕を引いた。


 冷たい。



 血色が良くないその腕に見に覚えがあるような気もしたが、は真っ黒に塗りつぶされていた。




 彼女を休憩室に運んで母さんに連絡した。母さんも彼女が倒れた時の騒動を耳に挟んだらしく、仕事に一段落着いたらすぐ行くと急いだ様子で言っていた。



 彼女が苦しそうに唸っている。


 ___ごめんごめん。


 謝罪の言葉と辛そうな聞き取れない声がこの部屋に響き渡る。


 幸いにも今この部屋には彼女と俺、2人だけだ。


 彼女の額に浮かぶ脂汗を拭きながら母さんも待っていると聞こえてきた足音と共にドアが勢いよく開け放たされた。


「りおっ!」


 大丈夫?大丈夫?ごめんね。と母さんがらしくもなく焦った様子で彼女に声をかけている。

 彼女は目を覚ます気配はないが、倒れた時より血色は良くなった顔を見て母さんは少し安堵した様子を見せた。


 ___あとは、母さんに任せて。スタッフの方々には事情聞いたし、説明もしておいたから。


 らしくもないトーンで言われたもので俺は母さんに任せた。

 女性同士の方がやりやすいこともあるだろうし、分かることもあるだろう。


「颯、ありがとう」


 母さんが俺が部屋をあとにする前に言った時の顔は何故か、柏木春菜ではなく母親の顔だった。

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