颯の場合6

「俺、莉音部屋まで運んでくるから車にある荷物家に入れてくんない?」


「いいけど、どの荷物入れればいいんだ?」


「あーじゃあ、母さんと莉音の手提げバックだけでとりあえず」


「了解。車の鍵は?」


「下駄箱の上に置いてある」


 拓磨が莉音を抱えながらリビングへと向かう。俺はそれとすれ違いに鍵を持って車へと向かった。


 外には6人用のボックス型の白い車と赤い4人乗りのスポーツカーがある。どちらも該当に照らされ煌めいてはいるが特に艶があって輝いているのは後者だ。


 俺は撮影会現場からここまで来たのであろう車を開ける。

 洗われているだけのここ最近使っていない家族用の車とは違って少しだけ生活感があった。

 それでも小さい頃荒らしたあの車に比べれば丁寧に扱われているし座敷もくたびれていない。助っ席と運転席の間に置いてあったカバン2つを持って俺は車をあとにしようとしたが、後部座席に多きめなバックが置いてあった。それも持って帰ろうかと思ったがやめた。持って帰ったら明日の朝が大変そうだ、そう思ったからだ。

 それから車の鍵を閉めて家へ戻った。


 リビングへにはまだ拓磨の姿はなかった。その代わり母さんが相変わらず気持ちよさそうに寝ている。


 荷物を適当に椅子に置き、拓磨が止めていた夕食の準備を進めることにする。台所にはオムライスが3つ並べてある。そのオムライスが誰に対するものなのかはすぐにわかった。1つにはバスケットボールの絵、もう1つには的、最後のには本の絵が書いてあった。

 あの様子だと莉音が食べることはなさそうだからラップをして冷蔵庫へ閉まってしまう。とりあえず、スープを暖めて二人分だけ用意しておけば大丈夫だろう。もし、食べる前に母さんが起きてきたら俺のあげればいいし後で起きてきたら何か作ってやればいいか。


 夕食の準備をし終わって拓磨を呼びに行こうかと思ったが、何となくそれは避けたくなった。その代わり少しの間拓磨が来るのを待つとする。しかし、何分経っても拓磨は一階に降りて来なかった。

 何してんだ?あいつ。俺は冷めかかった料理を見て食べることにした。そのうち食べている間に彼のことだから降りてくるだろう。そう思って食べていたが、食べ終わっても拓磨は姿を表さなかった。


「もしかして拓磨まで寝たんじゃないだろうな……?」


 あの拓磨の事だ。少し有り得る。

 食器を片付けてから莉音の部屋に行った。


 莉音の部屋は電気がついていなく窓から差し込む光で何とかぼんやりと伺えた。ベットに近づくと案の定、莉音と拓磨が寝ている。

 拓磨の服を莉音が握っていた。拓磨はその手を解くことを諦め一緒に横になったらいつの間にか寝てしまった、そんな所だろうか。


 とりあえずこの様子では起きそうもない。

 俺はカーテンを閉めて莉音の部屋を後にした。それから料理を冷蔵庫へしまい、俺は俺のやることをした。


 母さんも拓磨も莉音も起きてくることは無かった。

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