柏木颯と天使くん

颯の場合1

 10年前俺は天使にあった。けれどあの時の光景は朧気だ。でも確かに覚えていることはその天使は俺達に微笑みかけこう言った。「何してるの?お菓子食べようよ」と___。






「やば、朝だ」


 毎日飽きずに鳴く鳥達。きっともう少ししたらあの鳴き散らすような頭に響く烏野の声まで聞こえてくるのだろう。俺は、相変わらずボートする頭の違和感を抱えたまま、ベットからでた。


 あの出来事から10年。俺らは高校2年になり、日に日に変わっていった。莉音は教室ではいつも読書をしていて地味な学校生活を送ろうとしている。拓磨は人当たりが良いとか人懐っこいところが可愛いとか言われ男女から好かれている。俺はと言うと自分で言うのもなんだが、女子にモテる。モテるという言い方は語弊があるかもしれないがきっと一般男子生徒よりは比べ物にならないぐらい告白された回数は多い。

 そんな俺たち3人はひとつ屋根の下で暮らす家族である。

 母は国民的な知名度を持つベテラン女優で、父は有名ファション雑誌を中心に活動するベテランカメラマンだ。


 そんな家系で育ってきた俺たち3人は良い意味でも悪い意味でも目立って育ってきた。だから莉音がいくら地味でクソつまらない学校生活を送ろうとしていても生徒からも先生からの視線は避けることが出来るなく、目立たない学校生活なんて送れるはずがない。つまり莉音は自ら臨んでいない溝にはまりに行っている。

 俺や拓磨みたいな生活がいい訳でも無いが綾音は悪目立ちが酷い。クラスの違う俺でも莉音の陰口を聞かない日は多分ない。莉音は俺たちと違って人と関わるのが苦手だ。しかも教室では一人でいるところしか見た事がない。だから俺は莉音が嫌いだ。表情は出さないし、口数も少なく何を考えているのかわからない。きっと莉音も俺の事を嫌いだと思っているだろうから丁度いい。それに俺は少し前からあいつとろくに話した記憶がない。


「おーい、莉音。朝ご飯出来だぞー」


 拓磨の声が部屋の外から聞こえてくる。きっと莉音を呼びに行っているのだろう。両親が多忙なため家事掃除は役割で回すことにしている。料理分野は拓真。掃除分野は莉音。買い出し分野は俺だ。小学生の頃からこの縦割り分担みたいなやり方をやっていたからすっかり慣れてしまった。買い出しは確かに面倒な時もあるけど主に買ってくるものは日用品だけで多分俺の仕事が一番楽だ。拓磨は作りたい料理の材料を自分で買って、洗い物もするのだから彼が1番仕事量が多い気もする。


「拓磨……おはよう」


 莉音の眠たそうな声が聞こえてくる。その後に拓真の「おはよう、莉音」という返答が来るのは聴くまでもない。


「じゃあ俺は颯を起こしに行ってくるから先に降りてて」


「うん」


 それから拓磨が俺の部屋に入ってくる。きちんとエプロンをしていて髪型までセットされている。起きたばかりの俺とは比べ物にならないぐらい整っている。


「おはよう、颯」


「……はよ」


「朝ごはん出来たから準備出来たら下に降りてきて」


「はいよ」


 拓磨は誰が相手でもちゃんと挨拶をする。そこが誰からも好かれるポイントだと思う。それに比べ俺は誰にでもできる訳では無い。見知ったやつほど挨拶が出来なくなる。綾音はそれ以前の問題だ。


 俺は髪を軽く整えて制服を適当に着て一階へ降りた。

 食卓に行くとメガネをかけた莉音が校則通りの制服姿で座っている。ブレザーのボタンを下から2番まで閉めていて見ているのこっちが暑く苦しくなる。


 コップを3つ持ってきた拓真が座ると、「いただきます」と3人声を揃えて朝食を食べ始める。



 いつもと変わらない、朝の時間だ。

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