第8話



オレが

町や村に下りる時は


ルーナは

山の中で

隠れて待っている。




第一騎士団は

『男女2人組』を探しているし



ルーナの村を

『極悪人の隠れ里』といつわ


それを信じている

連中は

言いたい放題だ。



それに対して

異議を唱えるのは

『情報集め』では

タブーだ。




それに

出来る限り

ルーナの耳に

入れたくはない。




植物採集や鉱物採集

木の伐採など


森や山に

入っている者は

少なからずいる。



だから

森や山から来て

森や山へ入っていく事に


誰も

不審に思わない。




情報集めと

買い物を済ませて


ルーナの元へと戻る。



周囲を見回す。


さっきの村で

耳にした話だと


第一騎士団とは別に

自警団が

定期的に見回りをしているそうだ。


そろそろ

『その時期』に入るらしい。



付近に

誰もいないことを確認してから

洞窟の入り口に潜り込む。




「ルーナ。ただいま」


そう声をかけると

すぐ


「!カミュ!おかえりなさい!」


と返ってくる。



それと同時に

少し目を潤ませたルーナが

飛びついてくる。



それを

オレは笑顔で受け止めてやる。



「ただいま」


「おかえりなさい」


こんなやり取りは

母を亡くして以降

口にしたことも

言われたこともない。


オレを

盗賊として育てたオヤジとは

ろくに会話もなかった。



だが

ルーナと行動をはじめて

普通に口にするようになった。



くすぐったい気分だが

嫌ではない。




いつもルーナは

一人で

息を潜めて


物音がする度に

身を縮こませて



オレが戻るのを

待っている。



心細い思いをさせている。




だから

オレの姿を見ると

安心するのか


涙目で

飛びついてくる。




「今日はもう少し進んでから休もうか」



オレは

ルーナを抱き上げて


山の中を進んでいく。




自警団が動くのは

村の様子から

今夜ではない。



だが

少しでも痕跡を残したくはなかった。



それに

ルーナを

少しでも安心できる場所で

休ませてやりたい。



半年たった今でも

ルーナに

『安らかな夜』は訪れていない。




初めて過ごした

『隠れ家』の夜から


オレは寝る時に

ルーナを抱いている。



今では

少しグズり出しただけで


寝ぼけながらでも

背中を軽く叩いて

安心させてやれるようになった。



寝ている時に

身体を引きらせることも

少なくなった。



あれは

ココロにストレスを感じている時に

起きるらしい。



少なくなったということは

ルーナの負った

ココロのキズが

少しは軽くなったのだろうか。






「カミュ・・・」



ルーナは

自分の足で

歩きたいのだろう。



だが

この山の低木の枝が


ちょうど

ルーナの顔あたりだ。



王都に住む

普通の12歳より

はるかに小柄なルーナでは

枝が目に刺さる可能性もある。




「山道は危ないからな。ちゃんと掴まってろよ」


「うん」



素直に頷いて

ルーナの腕が

オレの首に回される。





「一人にしてゴメンな」



寂しかっただろ?



そう言って

ルーナを抱きしめて

頭を撫でてやる。



そうすると

ルーナの

緊張して固まっていた身体から

チカラが抜ける。





ルーナは

オレに全幅の信頼を寄せている。



オレは

ルーナの期待に

応えられているのだろうか・・・



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