前提 「なろうテンプレ」とはどのような作品を指すか
「なろうテンプレ」が何であるかを論じるには、まず「なろうテンプレ」とはどのような作品であるかを前提として提示する必要があるかと思います。
実のところ「なろうテンプレ」のパターンというものは流行があり、2014年頃のパターンは2019年には既に古びていて当てはまらないものがあります。
ですが、その中核には不変のパターンやエッセンスもあると考えられます。そこで、まずはその「不変のパターン」や「不変のエッセンス」を抜き出してみたいと思います。
(1)ストレスフリーであること
序盤に「追放」などの苦難が主人公に降りかかることはありますが、それ以降は常に主人公は勝ち続け、一度の苦難も味わうことなく成功の道を上り詰めるのが「なろうテンプレ」のパターンです。
主人公に限らず、ヒロインや味方の主要キャラでさえも苦難を味わわせることはブックマークを減らす原因となります。
苦戦さえすることなく、楽勝し続けることが主人公とその仲間たちに求められているのです。
(2)主人公がチート能力を持つこと
チート能力というのは、反則的に強い能力のことです。その能力があるだけで、他を圧倒できるような超越的な能力を主人公が持っていることが求められます。これは(1)のストレスフリー展開の根源となります。
そして、この能力は通常は「努力無しで与えられる」ものです。それだからこそ「チート」という言葉が冠されるのです。
この能力を「チート」と称すること自体に意味があると私は考えますが、これについてはあとで論じたいと思います。
(3)コンピュータRPG的であること
内容が、いわゆるコンピューター
具体的に言うと、以下のような内容が挙げられます。
・中世西洋風ファンタジー世界であること。
・モンスターや魔物と呼ばれる敵が存在し、戦ってそれを倒すことが職業や仕事として成り立っていること。
・魔法やスキルと呼ばれる戦闘用の技能があり、それを使って戦うことができること。
・レベルやステータスなど、登場人物の能力が数値化されていること。
・戦闘によってモンスター等を倒すことで経験値が得られ、レベルが上がって強くなること。
多少の差異はありますが、
なお、例外的に
(4)読みやすいこと
会話を主体として、説明的な要素はなるべく省いた、短くて読みやすい文章が良しとされます。技巧や修辞を凝らした文章は好まれません。複文の長文などはもってのほかです。
特に、「なろうテンプレ」で恒例化している要素については、説明を加えることは不要であるだけでなく、むしろ邪魔になります。具体例を挙げると「冒険者ギルド」「ステータス」「インベントリ」など、知っている人間なら理解できるものについての説明は簡単に流す程度で充分であり、細かく書き込むことは読者離れにつながります。
また、前記(3)のコンピューターRPG的要素についても、詳しい説明を加えるよりも省略することが推奨されます。
(5)ヒロインが記号的であること
これは、実は「なろうテンプレ」の要素とは言えるかどうかは微妙なのですが、一応は入れておきたいと思います。
俗に「チョロイン」と称されるように、ヒロインは主人公にすぐ惚れることが求められます。そして、一度惚れたら主人公が何をやっても失望したり裏切ったりすることは許されません。
また、複数のヒロインが主人公に惚れることも許容されます。いわゆる「ハーレム」です。ただし、こちらは「なろうテンプレ」に必須ではありません。
そして、ヒロインには処女性が求められます。経験豊富なヒロインが主人公をリードするなどということは許されません。ハーレムの三番手以降の場合の類型としては許される場合もありますが、第一ヒロインが非処女であるということは許容されません。
ただし、俗に言う「ラッキースケベ」は「なろうテンプレ」の要素ではなく、従来型ラノベの要素がそのまま引き継がれていると考えられます。
これらは、多くの「なろうテンプレ」に見られるのですが、一部例外的にヒロイン自体が存在しないのに大人気の作品もあるので、必ずしも必須ではないと考えられます。
(6)主人公は現代人が転生したか、またはトリップした存在であること
実は、これは2014年頃の「なろうテンプレ」では必須条件だったのですが、最近は必ずしもそうではありません。現地生誕型の主人公も増加しています。
ただし、やはり主人公は転生者という類型は多く見られます。2014年頃には、トリップも多かったのですが、その後は転生者が主流になります。
俗に「トラック転生」と揶揄されるように、転生原因は事故などが主でした。2014年頃の「なろうテンプレ」では最初に転生原因を描き、それから神様に会ってチート能力を授かって転生するというのが「なろうテンプレ」のひとつのパターンでしたが、近年はこの展開自体が(4)の「省略可能」な事項に含まれているようで、詳しく描写されることが少なくなりました。
ほかにも「なろうテンプレ」の要素はあるかと思いますが、一般的に「なろうテンプレ」と呼ばれる作品群に共通する要素として挙げる必要があるものは、この程度ではないかと考えます。
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