28:魔なる盗賊の王
外を駆けまわり、最初に戦った中央の協会前までやってくるとラーギラと彼の仲間たちは俺を待っていたかのように迎えた。
「やっぱそう来るか……」
俺があいつならどうするか? と考えていたが、やはり読みは当たってしまったようだ。
協会の上、ラーギラの傍にはミスカとレオマリが立っており、俺の前方にはガダル達が居た。
恐らく要らない奴等を先に突っ込ませ、どうするかを見るつもりなのだろう。
俺はゆっくりと進みながら、ラーギラに言った。
「全部聞こえてたな? ボクスと話してた事は」
「ああ。あいつの鎧は僕が作ったもので、僕の影の成分が入ってるから、あいつの情けない泣き言は全部聞こえてるのさ。最初っから、出来もしない復讐を夢見てたってわけだ。小説のいいネタになると思わない? これ?」
少しトサカに来たが、俺は息を整えて思考を逡巡させた。
逆に言えばボクスの話は聞けていたが、その前の俺が資質に覚醒した部分の詳細は分かっていないという事だ。
それが唯一、アイツに勝つ見込みがある部分でもある。
大事に使わなければならない。
(先にできればミスカを何とかしたいが……)
ミスカを倒し、魔術式を奪ってからラーギラと1対1となるのがベストだが恐らくはガダル達、レオマリの順にこちらへと攻撃を仕掛けさせてくる。
更に最後は、ミスカと同時攻撃を仕掛けてくる、という感じだろう。俺がアイツならばそうする。
大事な手持ちキャラは、失わないように。不要なコマは死のうが苦しもうが構わないから、なるべく効力を発揮するように使う。
ゲーム的な思考としては、正解と言う他無い。だからこそ俺は心が煮えくり返っていた。
だが―――こういう時こそ、冷静さを失ってはならない。XYZの鉄則だ。
冷静さと希望を失った奴から、破滅の運命に飲み込まれていく。
「……おかしいなぁ。お前の能力が見えなくなった。急にさ。何が起きたんだ?」
どうやら、ラーギラは離れていた場所からでも相手の能力、いや「ステータスが見える」のだろう。
だからこそ、苛立っている。
奴からすれば自分に全てのクズは能力をさらけ出して当たり前、隠し事など絶対にあってはならないのだから。
(どうやら……俺の魔力防壁の力も強まっているみたいだな)
相手の能力を識別する魔法があるが、魔力防壁の強さで見れる範囲は異なる。
無論、術者の強さでそれは崩せるのだが、相手が強ければ見えない。
つまり俺の力は少なくとも奴に拮抗しうる状態ではある、という事だろう。
「ボクスはぶっ殺しておくべきだったなぁ、やっぱり。余計な事をペラペラと……おかげでまた僕が戦わなくちゃならないじゃないか」
「それがお前の望んでる事だろう? 戦って、自分の力をこれでもかと誇示してから勝って、称賛されたい。お前みたいな抑圧され続けた奴が良く持ってる願望だ。自分は弱くない、自分は偉大なんだ、唯一無二の人間だって示したいんだ」
「……そうだけど、それに何か問題でもあるみたいな口ぶりだね。僕はさ、他の勝ってる奴がやってる事を同じようにやってるだけさ。僕は優しいよ? ネチネチしつこくやらないで、スパッと勝ち負けはつけるし、精神攻撃はしないし、手加減してやってる。本気になると何もかもぶっ壊しちゃうからね」
「それは優しさでもなんでもない。お前のやってる事は、自己満足だよ。お前自身にとっても、お前以外のすべてにとっても、ひどく残酷なだけの、な」
俺が言うと、にやにやしていたラーギラの表情から笑みが消え、険しくなった。
図星だったのか、それとも全くこちらが怯む様子を見せないからか。
かなり苛ついているのがハッキリと態度に現れ始めた。
「僕自身にも、だって……?」
「お前は満足してるか? 強くなるだけなって、後は名誉を貰えるだけ貰って、女を侍らせて楽しく暮らす、あたりが夢なんだろうが……してないだろう。ゲームで強くなっても、キャラを全部そろえても、それだけじゃ満足しないもんだ。お前も同じゲーマーの端くれならわかるはずだ」
「……何が言いたいんだ?」
「ゲームで一番面白いのは、体験する時だ。その世界の住人の一人になって、物語のいち登場人物として、同じものを誰かと共有して一緒に一体感を味わう……そういう時に一番満足感ってものが心の奥底から湧いてくるんだ。もうちょっと有り体に言えば―――臭い台詞になるが、お前は愛が欲しいんだよ。誰かに愛されたい、誰かを愛したい、心を共有したいと思ってるのに、それを自分自身で潰しちまってる。お前は哀れな奴だよ。本当にな」
俺が言うと、ラーギラの方から魔銃(メイジブラスト)が飛んできた。
それは俺の足元へと命中し、地面を激しく溶解させた。
ラーギラの怒りが込められたような一撃だった。
「殺す……!! 僕をバカにしたな……? お前は、僕が知っている一番苦しい死に方をさせてやる……!!」
(ま、やっぱこうなるよな……そして、アイツ自身はああは言っても前には出てこない)
ラーギラが指示すると、ガダル達がこちらへと攻撃を仕掛けてきた。
雷を纏った火炎弾が降り注いでいく。
ガダルの得意魔法である爆菱(エデュオル・ガデム)だ。
ラーギラから力を得ているのか、以前よりもパワーアップしている。
「死ねィッ!!」
ガダルが魔法で遠隔攻撃を放ちつつ、グラフトンが前へと出てきた。
更にガダルの更に後ろからは、シエーロが地面を走るような物体を放ってきていた。
「鉄拳(アルドイゼル)!!」
グラフトンの拳が巨大化し、更に鈍い色となってこちらへと振り下ろされた。
彼は身体の一部を巨大化、瞬間的に金属させる変質魔法の使い手だ。
普段なら防壁ごと割られる一撃だが、俺は素早く攻撃を回避した。
そのまま、シエーロの攻撃も回避し、グラフトンには構わずに協会の前へと駆けていく。
「早い……!?」
(カウンターを入れる事もできるが……)
ラーギラに余り自分の手の内を見せるわけには行かない。
なるべく少ない手数で、あの二人以外を倒す必要がある。
そう考えた時、取る手段はひとつだった。
「紺碧の太陽(クリアシャカーモン)!!」
待ち構えていたレオマリは、既に背中に光球を発生させていた。
そこから白い針のような攻撃がいくつも降り注いできた。
石の壁が紙のように穿たれ、建物が穴だらけになっていく。
俺は魔力防壁に力を集め、攻撃を弾きながら近づいていった。
「ぐううっ……!?」
ラーギラは、ニュクスが攻撃を弾きながら進んで行くところを見て
感心した風で見ていた。
今まで、能力的には最低辺としか言いようがなかった相手が、急に強くなったのだ。
どんな―――使える力なのだろうか、と興味が出てきてしょうがなかった。
(美味しそうな感じがするなぁ……!)
「うっ!?」
俺はレオマリを組み付くと、背後へと素早く回り、レオマリの首を絞めつけた。
締め落として気絶させるための格好だ。
組み合った時の格闘戦では、流石にこちらに分がある。
「すみません! 後で謝りますから!」
とはいえ、こちらも力が強くなっている。
加減しながらの締め落としは骨が折れた。
レオマリそのものの力も強くなっているので、弱すぎると効いていかないからだ。
彼女を締め上げていると、ガダル達が参戦してきた。
(よし、まとまってきたな……!)
ガダル達はニュクスが動けなくなっているのを見越し、固まってやってきている。
これが―――狙いだった。
「発電針(ウーバロウ)!!」
掌をガダルの方へと向け、俺は電撃魔法を放った。
ぱん、とクラッカーが大音量で鳴ったような音が響くと、ガダル達を包み込むように
電撃のエリアが展開された。
ガダル達は正面からそれをモロに浴びてしまい、次々に防壁が破壊され身体を痙攣させた。
「ガ、ガガ、ががあがぁっ!!」
電撃の嵐がやむと、身体から白煙を上げ、ガダル達は倒れ込んだ。
俺はそのままレオマリも締め上げ、身体から力が抜けた所で手を離した。
彼女も同じように地面に倒れ込み、動かなくなった。
「……大丈夫か」
力の加減が出来ているか不安だったが、いちおう脈があるかを確かめておく。
ガダル達も気絶しただけで、死んではいないようだ。
「よし、後は……―――!」
上を見上げると、ラーギラが目の前まで迫ってきていた。
慌てて拳でラーギラのナイフの一撃を受け止める。
転瞬、轟音と共に周囲の床が歪み、凹んだ。
(な、なんだこの攻撃は……!?)
「ハハハ!! 重力波にもビクともしない! なんだよそれ、お前の力はさぁ……!?」
俺は距離を取り、ラーギラの方へと向き直った。
そしてミスカの方を確認した。
彼女の方は、全く動いていない。
どうやら読み間違えたらしい。先にラーギラの方が攻撃に来てしまったようだ。
(重力波……という事は、今のは高重力の攻撃か)
どうやらラーギラは最初から体重移動の資質など持ってはおらず重力を操る事により、無音での移動などを可能にしていたようだ。
そして傍目からはテレポートしたようにしか見えない動きも、あれで可能にしているようだ。
確かにあんな攻撃を喰らえば、例え腕や足がただ触れただけでも何十トンもの圧力が掛かる。
普通なら内臓ごと潰されて即死だ。
「……と、まずはこいつだっ!」
俺は火の魔法を使って小さな火の玉を周囲にバラまいた。
そして燃えそうなものに粗方火を付け、周囲を照らした。
(よし、これでとりあえずはしのげるか)
「良い判断だね。僕の能力をよくわかってるじゃないか」
ラーギラの能力を盗む能力について、わかっている事は3つほどある。
まず影を介してでなければ盗めない事。
つまり真っ暗闇や今のように周囲に照らすものが沢山あって、影が伸びる方向が一定でない場合は盗みにくくなる。
次に盗みが成功するまでに一定時間が必要な事。
これはミスカに速攻で能力を発動できなかった事からわかる。
最後に―――もう一つ。
この手の能力は、吸収できる能力の量や数に制限があるのだ。
XYZで似たような資質が登場した事はあるのだが、いずれもそのような制限が設けられている。
ただ、それがラーギラにも適用されているかは不明だ。
(さてこっからだな……どうするか)
慎重に、相手の出方を待っていると再びそよ風が吹いた。
ラーギラの瞬間移動攻撃だ。
俺は今度はその動きを見極め、カウンターの一撃を放った。
「おおっ!!」
「な―――ッ!!」
ラーギラはカウンターを素早く身体を捻って回避した。
だが、拳の圧力で魔力防壁に一瞬でヒビが入り、そのまま砕け散った。
まるでシャボン玉が風圧だけで割られたように。
その時、ラーギラの顔に初めて恐れの表情が見えた。
(ばっ、馬鹿な……!? かすってすらいないのに、近くを通っただけで……!!)
「喰らえェッ!!」
「ぐう”ぅッ!?」
俺が続けて二の拳を放つと、ラーギラの胸部に一撃が入った。
拳は鎧を砕き、骨が折れるような音が同時に響いた。
ラーギラが短い悲鳴を上げた後、身体が吹き飛ばされ、教会の壁へとめり込んだ。
そのまま壁を崩して瓦礫の中へと埋まっていく。
(どうだ? 効いたか……? 俺の一撃は、どれぐらい効果がある……?)
自分の攻撃がどれぐらい効果があるかわからない以上、下手な追撃は危険である。
しばらくすると、ラーギラは瓦礫の中から飛び出してきた。
再生能力で身体は元通りになっているが、装備までは元には戻らないらしく壊れた鎧や破けた服から素肌がむき出しになっていた。
「くそっ、よくも……お前……!!」
(うん? 思ったより……効いてる、のか?)
意外とダメージを受けている。
ミスカの攻撃すら防いでいた魔力防壁があったので、どれだけ通用するか心配だったが基礎的な能力の部分では俺の方が上回っているらしい。
(くそっ、バカな、バカな……! こいつ、なんだこの馬鹿力……信じられない! 僕の魔力防壁は、盾の精霊神の力を取り込んでいて、滅多な事では傷つかないはずなのに……!!)
ラーギラの魔力防壁は、自分の魔力だけではなく、いくつかの神々の力を取り込んで生成されている。
だから凄まじく頑丈なものとなっていた。
それこそ常人の数万倍の硬度であり、最高位の魔法使い達にも届くような密度のものだ。だからこそミスカの攻撃は殆ど効果がなかった。
しかしそれが―――ニュクスの一発であっけなく破壊された。
今までヒビすら入る事がなかったものが、ヒビが入る間すらなく一瞬で、である。
(コイツの能力、一体何なんだ……!?)
見た目では何をやっているのか、よくわからない部分もラーギラを不安にさせていた。
今まではどんな能力も詳細が一瞬で判明したため、劣勢になる演技すらできていたが相手の能力が見えない為、強く出ることが出来ない。
ひとまず上空へと距離を取るが、ニュクスは追撃の一撃を放った。
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