25:地獄への片道切符
剣を振るかの如く鋭い蹴りは、俺の魔力防壁を一瞬で突き抜け、更には
防御した腕をもくの字に折ってめり込んだ。
そのまま吹っ飛ばされ、今まで居た塔屋の壁へと叩きつけられた。
ミスカが地面から壁を作ってラーギラを跳ね飛ばし、距離を無理やり空けさせる。
「ニュクス、アンタ……!」
「いいから……飛び上がれ……! 俺に構うな……!!」
ミスカはそのまま空中へと飛行魔術を使って飛び上がり、ラーギラとの戦闘へと入った。
俺はその場に食っていたものを吐き出しながら、腕を抑えた。
(な、何だ、この威力、は……!?)
アームド・シェルで防御しているというのに、まるで紙でも折るかのように一瞬で防壁ごと砕け折れた。
鋼鉄の塊が、すさまじい勢いで衝突したかのような蹴りだった。
これが、本気を出したアイツの実力という事なのだろうか?
もはや俺は戦えないと見切りをつけたのか、ラーギラはミスカの方へと向き直った。
その際に彼は言った。
「全く、今のを咄嗟にガードするんだから、大した頑丈さだよ。大抵の奴は今ので戦闘不能。悪けりゃ肺潰して血吐いて終わりなのに。ま、巨人の時も、ガードを切ってやったのに拳まともに喰らって生き残れたんだから、これぐらいはできるのかな」
「……!」
どうやら、闇の巨人の時に自分の魔力防壁を知らぬうちに壊していたのは彼だったらしい。
だが、責める間もなく、ラーギラはミスカへと向かって行った。
■
ラーギラも飛行魔法は使えるらしく、屋上に置かれていた鉄の板へと乗って
空中へと飛び上がった。
そしてふわふわと浮かびながら、大剣に乗っているミスカと向かい合い、言った。
(こいつ、飛行も使える……!)
「謝るなら今の内だよ? 僕に服従するか、死ぬかだ!」
「何度言われても同じ答えよ。あなたの仲間になる気はない……ここで、倒す!!」
ミスカが呪文を詠唱し始めると、ラーギラは大きく溜息を吐いた。
そして掌を向けて、言った。
「残念だよ」
ラーギラが力を込めると、巨大な火球が発射された。
ミスカは空中で加速し、それを回避した。
火球は建物へと命中すると、深紅のギラギラしたものを周辺と飛び散せていった。
「な、何これ……? ただの炎じゃない……!?」
「土魔法と炎魔法を組み合わせたマグマのエネルギーを発射する魔法さ。数段普通の火よりやばいから注意しなよ」
建物は一瞬で火の手が上がり、周辺のものすら溶けていく。
まともに命中すればただでは済まないだろう。
それを、無詠唱で放ってきた。
ミスカは対抗するかのように瞳を深紅に輝かせ、言い放った。
「火の視線(エンファ・バギッシュ)!!」
火の凝視魔術が発動し、ミスカの目から相手に向かってレーザーが発射された。
深紅に輝く火の光線であり、一点に集中させた分威力が高い。
だが―――ラーギラの防壁に跳ね返された。
まるで鏡に光が反射するように、周囲へと拡散され、更に一点に返されていく。
レーザーはミスカの方へと向けられ、逆に彼女の方がダメージを受けていた。
「うっ……!」
「しょっぱいね。その程度かな? 言っとくけど……僕の防壁は物凄く硬いよ。それこそシナリオレベル7のラスボスクラスかもね」
ミスカはひるまず、攻撃を次々に放っていく。
ミスカが使うことが出来る魔力は、大きくいくつかに分けられるが、系統としては火、土、雷、闇、光をテーマとした魔術である。
特に得意とするのは闇と光の魔力であり、そのおおよそが攻撃型の魔術となっていた。
「くっ……!」
(馬鹿な……!!)
5分ほどミスカとラーギラは戦っていたが、その実力は雲泥の差と言っても良かった。
ラーギラが、余りにも強すぎる。
ミスカの攻撃はほぼ効果がなく、命中しても防壁にほぼ遮られている。
一度だけ、余裕を出して防壁を解除した所に魔術を命中させ、片腕を消し飛ばしたがものの数十秒で腕は再生していた。
ラーギラは常に自分に回復の魔法効果をかけており、致命傷に見えるような傷でも数十秒あれば再生させることが出来るらしい。
そして、魔力を駒にした街の住人から得ているらしく、枯渇を待つのは難しかった。
「魔弾(マジックボルト)!」
「さっきから……うるさいなぁ。ホント」
俺も屋上からラーギラを狙って援護を行ったが、
ミスカの攻撃でも破壊できない魔力防壁に穴が空くわけもなかった。
「源子弾ってのはね……こうやって撃つのさ!」
「うっ!」
「魔銃(メイジブラスト)!!」
ラーギラの腕全体が輝き、こちらへと大口径の光線が放たれた。
それは俺が居た場所の建物をあっという間に溶かし瓦解させ、焼失させた。
俺は素早く屋上から別の建物へと移動し、何とか難を逃れた。
まるで超高出力の熱線と言った感じだ。あんなものが命中すれば、俺は間違いなく死ぬ。
(くっ、くそ……どうすればいい……!)
俺には、何もできなかった。
これから起こる事が何かをも、薄々わかっていながら。
「さて、そろそろ息切れかな?」
「まだ……これで……終わりよ!!」
ミスカが空に拳を高く掲げ、呪文を詠唱し終わった。
すると周囲に細かい光の粒子が現れ、回転し始めた。
ミスカの最大の攻撃である「魔力の嵐」を発動させようとしているのだ。
「魔力の嵐か……まずいなぁ。それは受けるとちょっと危ないんだよなぁ……」
今までの余裕の表情とは打って変わり、額に僅かに汗を流し、ラーギラは言った。
ミスカは必死の表情のまま、魔術を発動させた。
「これで……消し飛べッ!! 魔力の嵐!!」
ミスカの中心へと光の粒子が一瞬集まり、爆発―――しない。
「……えっ……?」
光の粒子が突然、消えていく。
そしてミスカの飛行魔術の効果すらも消え、建物の屋上へと不時着していく。
彼女の能力がいきなり消失していった。
(……まずい!!)
「何、が……?」
ミスカが体勢を立て直そうとした時、目の前にラーギラが迫ってきていた。
ミスカが剣に力を込め、それを振り下ろすが、魔力が剣に込められない。
全ての力が、彼女の身体から抜け出ていた。
ラーギラは武器を持っていたミスカの手を掴むと、ミスカの首を掴んだ。
「がっ……あ……!!」
「ごちそうさま。もう君の能力は奪らせてもらったよ。もう君は……無能者と何ら変わりない。僕からまた能力を貰えない限りね」
「やめろぉーーーッッ!!」
俺は魔弾を力の限り、ラーギラへと向かって放った。
自分のすべてのマナが切れるまで、身体から力が抜けきるまで力の限り撃ち込んだ。
だが―――その全てはラーギラの直前で止まっていた。
「さて、ゴミクズは黙らせたからお仕事と行こうかな」
ラーギラは首をさらに強くつかむと、そこからミスカの首元へと何かを植え付けた。
街の人間を自分の駒にした時の能力を使い、ミスカを自分の肉人形へとするべく
洗脳のための種を植え付けているのだ。
(立ち上がれ、俺……くそ、くそ、くそう……!!)
俺は死力を振り絞り、最後の一発をラーギラへと発射した。
だが―――まるでハエでも撃ち落とすように、最後の一発を呆気なく止め、こちらへと跳ね返してきた。
俺はそれに肩を貫かれ、激痛と共にその場に膝をついた。
「あ、あ……! ああ……!」
俺は絶望と共にその一部始終を見ていた。
やがて完全に種の受け付けが終わったのか、ラーギラは手を離した。
こちらを向いた時、ミスカの目からは完全に光が消えていた。
「さ、エナジーを少しだけあげるから、あいつを―――殺さない程度にいたぶってから、空に打ち上げてくれないかい?」
「はい。ラー君……言った通りにするわ」
ミスカは剣にのって高速で滑ってきた。
そして俺の防御しようとした手を払いのけ、剣で壁へとそのまま突っ込んだ。
防御した腕は、そのまま串刺しとなった。
「ぐああああああッ!!」
凄まじい力だった。フィロが自分の首を掴んだ時とは比較にならない。
俺は力の限りふりほどこうとしたが、ビクともしない。
やがて、ミスカの目に涙が溜まっているのが見えた。
(こ、こいつ……まだ意識が……!)
―――あたしを、殺して
(ッ!)
心の中へと直接、ミスカの声が聞こえてきた。
そう言えば、魔術師の中には声を発さずとも会話をする力を持っている奴がいるという話だったが
ミスカもそれが使えるのかもしれない。
俺が戸惑っていると、ミスカは言った。
―――あたしの首を切って。この手の能力は、死ぬ前の状態になれば……きっともう少しだけ戦える。あなたはその間に逃げて。もう、話す力が……出ない……お願い……
その言葉と共に、ミスカの身体から力が一気に抜けた。
壊れたアームド・シェルの尖っている部分を使えば、ミスカの首は切れそうだった。
だが、俺にはできなかった。
(馬鹿野郎! 出来るか……そんな事……!!)
ここで彼女を犠牲にすれば、逃げることは出来るのかもしれない。
だが、そんな事をするのは絶対に嫌だった。
俺が動きを止めていると、やがてミスカの最後の力が消えたのか、再び力が戻り始めた。
そして、首を掴んだまま上へと放り投げられた。
「があぁッッ!!」
上空へと飛ばされると、そこにはラーギラが待ち構えていた。
飛んできた俺の髪を掴み、勝利の笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「さぁて、料理の時間かな……言い残す事はあるかい?」
「ねぇ……よッ!!」
腕を構え、最後の抵抗とばかりに俺はラーギラの顔面を狙って魔弾を発動させた。
だが―――魔法が発動されない。
「弾が……なんで、だ……!?」
「フフ、最後だから種明かしをしてやるよ。僕の能力を奪う力はさ……”影”を通して使うんだ」
「影……!?」
「そう。僕は自分の影を誰かに触れさせるか、もしくは僕自身が誰かの影に触れる事で相手の能力や経験、記憶を奪うことが出来るんだ。君は散々調べたけど、ホントにいい能力を持ってないね。恥ずかしくない? そんなので生きててさ?」
俺はいつの間にか、自分の能力すら奪われてしまっていた。
身体から、力が抜けていく。
身体がボロボロになり、最後に自分の体を動かしていたものが失われたように思えた。
ラーギラの表情が更に歪むと、彼の周囲に光の粒子が煌めき始めた。
「こ、れ……は……!」
「さっき彼女から奪った”魔力の嵐”さ。見たかったんだよねぇ。至近距離で発動させたら、人間がどういう風にバラバラになっちゃうか、って……!」
俺は全ての力を使い、防御壁を可能な限り張り直した。
そんな事は魔力の嵐の前では、無意味だとわかりながら。
死ぬとわかっていても、やるしかなかった。
「それじゃあ、ねッ―――! ゴミムシ野郎ッッ!!」
目の前で光の爆発が起こった。
俺の視界はズタズタになり、手足が千切れ飛んでいくのが見えた。
ラーギラの満面の笑みを最後に、俺はまるで大砲の玉のように飛ばされた。
身体中の骨が折れ、砕けていく音が聞こえると共に体温が急速に消えていく。
そして、最後に大地へと身体がぶつかると、地の底へと勢いよく埋められていった。
まるで地獄へ落ちるかのように、最後に訪れた死の冷たさと共に、俺の意識は完全に闇へと飲まれていった。
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