18:敗北して
ラーギラの仲間の三人は、かなり強力な戦闘型の魔術師と魔導士だった。
ラーギラ自身が攻撃型の魔法使いなのでバランスを取っているという所か。
「プリエール・オーラ!!」
フィロが緑の髪をたなびかせ、魔術を発動させた。
両手にある彼女の魔術紋が煌めくと、戦いに参加していた人間に力がみなぎっていく。
「な、なんだこれは……!?」
「盾の聖印を授ける魔術です。これでしばらく地の精霊からの加護が掛かります! 今なら爆風に多少は巻き込まれても大丈夫です!」
街から集められた防衛部隊の人々と俺たち3人。
それにラーギラ達3人と、ガダル達3人。
彼等を加え、俺は闇の巨人たちと戦闘を繰り広げていた。
街の防衛部隊には、闇の巨人がどういうクリーチャーであるか説明し、更にミスカが戦っている事を伝えると、渋々街から出て戦闘に参加し始めた。
ミスカはリハールの正規魔公官であるため、ここで戦闘に参加しないと自分たちの居る意義が問われるためだろう。
「ホントだ! 今なら爆風には巻き込まれても大丈夫だぞ!」
闇の巨人がまた爆破され、周囲にエネルギーの波を引き起こす。
しかし、巻き込まれた面々は大したダメージを受けずにピンピンしていた。
どうやら先ほどのフィロの魔術は周囲の味方の防御力を大幅に引き上げるものだったようだ。
そして、俺もいちおう戦闘に参加していた。
源子弾での攻撃は余り効果が無いため、近づいて闇の巨人の身体を直接、特に頭部のあたりを殴りつけていた。
他の面々のように余りダメージは与えられていないが、注意を引き付けるぐらいの事はできた。
(しかし……凄いな)
「おおおおッ!!」
ボクスが右手で持っている剣に左手で何かを込めるような動作を行った。
すると武器から青白い刃が膨らむように伸びた。
そして身体の数倍になった武器を振り回しながら、闇の巨人たちを薙ぎ払っていく。
巨人たちはある程度のダメージを受けると、まるで風船が破裂するように次々に爆発していった。
「赤の塔(エルジャンド・レルド)!」
ミスカが呪文を詠唱し、ステッキを地面へと放り投げた。
それが砂漠に突き立てられると、地面から赤銅色に輝くマグマの柱が現れた。
「滅びなさい!!」
ミスカが指さすと、その方向に極太の熱線が吐き出された。
それは周囲を薙ぎ払い、更に遠くに見えていた巨人たちをも吹き飛ばしていく。
彼女の「巨大魔術」だ。
詠唱に時間が掛かるが、とてつもなく大規模な攻撃を行う恐ろしい魔術である。
それこそ戦時中は街そのものを消し飛ばしたり、国の一部を破壊するような魔術だったという話だ。
(とりあえず、今の所は何とかなってるか)
ラーギラ達を連れてきた時、ミスカ達と衝突しそうで心配だったが
闇の巨人たちと戦うという事で意見は合わせ、今の所は協力して戦っている。
ただ信頼がおけないので、ミスカとレオマリの二人は離れて戦っていた。
特にミスカは相当嫌だったようで、連れてきて紹介するなり「何を考えてるかわかったもんじゃない」といった風なセリフを吐いて険悪な空気を出していた。
「オラァッ!!」
俺はグリフォンの台座から降り、闇の巨人の顔へと降りると共に拳の一撃を放った。まともに狙うとサイズ差があるので、小さめの奴を相手にしているが、それでもそこまで効いてはいなかった。
やはり魔導攻撃でないと決定打になるような威力は出ないらしい。
だが、それでも防衛部隊の掩護やミスカ達の攻撃で弱った相手なら倒せる。
「ガ、ガアァ……ァ」
「ッ! やばいッ!!」
闇の巨人が呻き声をあげる。
慌ててグリフォンの台座に乗り、俺はその場を離れた。
50メートルほど離れると同時に闇の巨人は弾け飛び、周囲を爆風で破壊していった。
(あぶねぇ……)
弾けた後には小さなクレーターが出来上がっていた。
1体でも山の一部を消し飛ばすような相手だ。
こんな歩く巨大爆弾みたいな連中が街中まで入ってしまったら、どんな惨劇が繰り広げられるか容易に想像できる。
それが―――軽く見て100体以上は居た。
「太陽の光弓(アルテライドハルド)!!」
レオマリが高らかに叫ぶと、空から大きな光の槍が周囲に降り注いだ。
それは闇の巨人たちに突き刺さると、食い込んでいく。
「グオオオ!!」
やがて奥深くまで入り込むと、光る血管のような模様が浮かび上がった。
そして内部から光の粒子となって消えていく。
レオマリの使う「分解」の魔導である。
かなり高位の魔導で、どんな相手にも効果がある。
(だいぶ減ってきたな……)
防衛部隊の善戦と、ミスカ達とラーギラ達の奮戦によって、闇の巨人たちは
段々と数を減らしてきていた。
特にラーギラ達の活躍が目覚ましい。
ラーギラはスピードを生かして敵を引き付け、そして隙があれば魔法攻撃を繰り出して敵を倒す。
フィロは周囲の味方の強化および回復を担当していて、居るだけで場が安定している。
そしてボクスはその破壊力と鉄壁の防御力で、人間サイズでありながら複数の敵と正面から打ち合っていた。
三人とも相当な強さだ。正規の魔公官と同じか、それ以上の強さかもしれない。
(俺も冒険者になれば、あんな風になれるんだろうか)
固有資質も能力もハズレで、就いている職業もハズレ。
おまけに外見もハズレなモブキャラ。それが俺だ。
せっかく魔法世界へとやってきて、大活躍できるかもしれないってのに。
自分の立場は、現実とそう変わりが無いような気がした。
―――楽しまなきゃ損じゃないですか。わくわくしないんですか?
ラーギラの言葉を思い出す。
笑顔で、楽しそうに答えていた姿を。
(……)
正直に言うと、迷っていた。現実に帰る事ができるとして、戻りたいのかと。
元の世界には知り合いがいる。家族が居る。友達だっている。
学校だってあるし、現実での人生だってまだまだ先があるはずだ。
高校を出て、大学に行くかもしれない。
どこかに就職するかもしれない。
彼女が出来て、自分も大人になっていくのかもしれない。
―――僕はクリアする気無いんですよ。この世界でずっと生きて行こうかな、と。
(俺は……!)
ラーギラのように凄い能力を持ってここへと転移してきたなら、俺も行く道を迷わなかったかもしれない。
恐らく、全てを捨てて別世界で生きていこう、という考え方になっていただろう。
結局俺は……現実から逃げたかっただけなのだ。
「避けなさいッ!! ニュクス!!」
「ハッ」と俺は顔を上げた。
ボーっとしていた。思わず考え事にふけってしまっていた。
耳にミスカの声が突き刺さって、周囲を見ると自分の目の前に黒い壁が迫ってきていた。
それが闇の巨人の拳だと理解した時にはもう手遅れだった。
「がッ……!」
顔面に壁のような黒い拳が命中すると、俺の意識は途切れた。
いつの間にか俺の魔力防壁は切れていて、効力を成していなかった。
■
しばらく闇の中に居たが―――俺は目を覚ました。
顔中が痛くなってきて、無理やり現実に意識が引き戻された感じだった。
「うむ……ぅ……?」
目を覚ますとレオマリが涙をためた目でこちらを見ていた。
ラーギラとミスカの姿も見えた。
「あっ、良かった! 目が覚めた……!」
「こ、ここは……ろこだ……? 戦闘は、ぼうなって……?」
たどたどしく話すと、ほのかに口の中に血の味が広がった。
おまけに下がうまく回っていない。
どうやらボコボコにされたせいで、うまく喋れなくなってしまったようだ。
「戦闘はあたし達の勝利よ。何とかアイツらを追い払えたわ」
「ほ、ほんろか!?」
「喋るんじゃないわ。今、レオマリとあのフィロって子が交代で手当てしてるんだから」
「お、俺は……どうなっらんだ?」
事の顛末をミスカが説明するとこうだ。
まず、戦闘は闇の巨人たちの頭数を半減させるほどに倒したためか、追い払う事に成功した。ただ勝利は暫定的なもので、まだボス格の相手が砂漠の向こう側に居るという話だ。
だから少し休戦した後に、本格的な討伐を行いに出る、という事だ。
そして俺は、どうやら知らない内に自分の魔法防壁(シールド)が切れていたらしかった。
闇の巨人からの一撃をモロに貰ってしまっていまい、
まるで車か何かが衝突してきたような凄まじい衝撃で、意識を失ってしまったようだった。
「危なかったんですよ……あのまま死んじゃうかと思いました」
全身を強く打ち、血まみれになって砂漠に転がった俺を見てレオマリは血の気が引いたらしかった。
トドメで踏みつぶされそうになった所をミスカが間一髪で回収し、一時戦闘を離脱。その後、急いで街に俺を持っていき防衛部隊に預けていたという。
俺は大迷惑をかけてしまっていたようだった。
「すまん。そんな事になっていたのか」
「だから……臨時の分際で前に出てくるんじゃないって言ったのよ! こうなるのがわかりきってたんだから!」
ミスカは嫌味っぽくそう言うと、俺のいる部屋から出ていった。
思わず歯軋りするが、事実だ。それに俺を助けてくれたのはミスカだ。
怒るのは筋違いというものである。
だが、それでも―――悔しかった。
「ちくしょう……面目ねぇぜ」
「そんな事ありません! ニュクスさんはちゃんと戦いました。この戦いは、参加した誰一人欠けてても危なかったと思います!」
「だが、ボーっとしてて自分のシールドが切れてるのに気付かねぇとは……」
「シールドが切れたのは……多分、闇の巨人の性質のひとつだったのかもしれません。魔法を吸収する、つまり源子そのものを吸収するって事だから、シールドの力も近づくだけで奪われてしまうのかも……」
なるほど、と俺は思った。
防御も近づいているだけで無効化されるというなら、そりゃあ魔法使いの天敵にもなるだろう。
この後控えているボス格は、恐らく更に吸収する力が強い。
(そりゃあ、戦闘向きの奴等が揃ってても苦労するはずだな)
「この後は私たちだけで戦います。だからニュクスさんは、ここで回復に専念しててください」
レオマリはそう言うと俺に治療の魔法をかけて、出ていった。
やがて窓の外から見える光景が騒がしくなってきた。
不安げな人々と、戦うために向かう奴等がハッキリと分かれて見える。
恐らく総力戦を挑むのだろう。
「俺も行くべきだな……」
レオマリやミスカには来ないで、と言われたが―――それは出来ない相談だ。
こういう運命の変わり目、とも呼べる戦いには、参加できなければ待っているのは後悔だけだ。
俺はXYZをプレイしてそれを何度も味わっていた。
「ミスカに”ここはゲームじゃない”とか言っちまったってのに。こういう時は俺はゲームの論理を持ち出してきちまうんだな……」
ラーギラが居るので最悪の事態は免れるだろうが、それでも行かなければ。
全く力にはなれないかもしれない。でも、やれるだけの事はしたかった。
俺は、ミスカ達と街の防衛部隊たちが出ていってから、街のはずれに停めていたグリフォンの台座に乗って後を追った。
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