さがしもの 九 読書愛好者の集い
菊荷が
天井に届く程背の高い本棚が
昼下がりの太陽の光が大きな窓に
個人店らしい広さの店内に今居るのは、問志と菊荷、それに、
自然と、二人の会話する声も小さくなる。
「こんなに小さくて可愛いのに、本当に読めるんですねぇ」
本棚の一角に作られた豆本を集めた区画には、色とりどりの本が並んでいた。大きい部類に入るものでも問志の手の平程度の大きさしかなく、その半分以下の大きさのものも少なくなかった。
問志は目についた一冊の豆本を手に取り、小さな本の
少女が手にした豆本の表紙には「マザアグウスの
豆本は他にも、植物や鉱物の図鑑から小説、面白いものでは豆本の作り方を主題にした豆本等もあり、その品揃えは実に多岐に渡っていた。
「マザアグウスか」
問志の隣で別の豆本を
「
「……少しだけ。童謡や御伽噺はあまり詳しくないが、それの詩は推理小説にたまに出てくる」
「なるほどそれで! 推理小説、よく読むんですか?」
「まあ、それなりに」
ジャンルこそ違うようだが、それでも人生初の同年代の読書仲間を見つけた問志は、内心浮足立つ。
「待ち合わせの時も本を読んでましたよね。もしかしてあれもですか?」
「あれは、なんだろう。怪奇小説と言った方がいいかもしれない」
「怖いやつですか?」
「怖いというか不気味というか。東雲は、そういう本が好きなのか」と、菊荷は問志が手元で開いているマザアグウスの本を指差した。」
「詩は好きですね。こう、言葉で出来た一枚の絵画みたいなところが。一番読むのは、幻想小説とか
総じてロマンチックなものが好きなんですと、問志は豆本の表紙を指で撫でながら、はにかんだように微笑んだ。
「……別に、悪くない趣味だと思う。詩集が好きなら、この辺りにまとめて並べてあるみたいだぞ。
「おっしゃる通り大好きですよ。詩もお話も!!夢の中を見せて貰っているような気分になるんですよね」
菊荷の手が本棚へと伸び、一冊の本を引き抜いた。半透明のパラフィン紙を透かして、表紙に「
「中腹中也、名前は知っているんですけれど、まだ作品を読んだことないんですよね」
今度は、問志が菊荷の持つ本に注意を向ける番だった。
「……読んでみるか」と、青年から差し出された文庫本を受け取った少女は、適当な
紙面の中に眠っていたのは、美しい言葉の糖衣を
少しの間一言も話さずにいた問志だったが、やがて本を閉じ、小さく深呼吸をした。
「……これは買って、お家で読みます。じゃないと、読み終わるまで此処から出られなくなってしまいそうなので」
問志は宣言通り、菊荷の薦めた詩集をその後一度も開くことなく会計を済ませた。その際、最初に手にしたマザアグウスの豆本の他に、
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