さがしもの 七 菊荷の馴染み
◆ ◆ ◆ ◆
取り敢えず一番朝草っぽいところは見ておきたい、という問志の希望に沿って早々に
細やかな飴細工や琥珀色の蜜を
「真朱さんから話は聞いていましたが、本当に色んなものがありますねっ」
問志の真っ赤な瞳は、菊荷と目を合わせたり周囲の様子を
「そうだな。俺も暫く来ていなかったから、随分新鮮だ」
興味の
「以前は、よくこの辺りに来ていたんですか?」
「まあな、昔近場に住んでいた」
「なんと」
娯楽が多いとは決して言えない山奥からやってきた問志からすれば、帝都の中心部から離れた芥子商店街でも充分刺激的なものなのだ。町全体が遊園地のようにも感じるこの土地で生きるというものは、一体どんな心持ちがするのだろう。
「ただその時も、特別この辺りに詳しい訳じゃなかったな。
「同人誌?豆本?」
聞き慣れない言葉に問志は首を傾げた。
「同人誌は、簡単に言えば出版社を通さず個人で制作した本のこと。豆本はその名の通り、
問志は自身の掌を
「同人誌はなんとなく分かりましたけど、豆本って読めるんですか?お人形遊び用の本とかですか?」
「そういう使い方もあるらしいが、ちゃんと読めるぞ」
「えっ」
「興味があるなら案内するが」
「え、行きます」
そんな面白そうなもの、見に行かない手はない。問志が間髪入れずに返事をすると、「そうか。それなら、やっと案内らしい案内が出来るな」と菊荷が言った。
◆ ◆ ◆ ◆
「少し早いが飯にしよう。平日でもこれ以上遅くなるとどこも混み出す」
本屋に向かう途中ではあったが、懐中時計を
「朝草は、もんじゃ焼きやお好み焼きが有名だって真朱さんから聞いてたんですよね。あとは天丼も美味しいお店が多いって」
「洋食の店もよく見かけるな」
「橙埼さんは、朝草に来たらこれを食べる!!みたいなものはありますか?」
「俺か?そうだな……丁度この辺りの屋台なんかで中華まんとか、果物に飴を
「……色んなお店のものをちょっとずつ食べるのもいいなぁ。観光地で食べ歩きって、ちょっとした憧れもあるんですよね。あ、でも、食べ物ではないのですが、喫茶店で出してもらえるという、クリィムソーダなるものも実は気になっていて」
「それなら食べ歩きして、喫茶店には休憩がてら本屋の後にでも行こう」
「いいんですか?」
「ああ」
「……そうと決まれば早速ですが、あれ、食べてみたいです!」
問志が指差したのは、揚げパンと書かれた看板を掲げる小さな店だった。
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