さがしもの 六 合流と秘密
時刻は、あと数分で時計の針が午前十時を示す頃。
朝草駅前にそびえる凝った造りをした真鍮製の時計台の周りには、問志と似た理由で集まっているのであろう人々で賑やかな様相を呈していたが、幸い問志は『
「
時計台と向き合う形で建つ建物の壁に背中を預け、文庫本を読んでいる人物に声を掛ける。すると直ぐに、本の中の文字を追っていた
「待っていない。おはよう」
「おはようございます!!」
待ち合わせの人物、
取り
「身体の調子はもういいんだな」
「おかげ様でばっちりです。その節は、予定を組み直してくれてありがとうございました」
「別に、大したことはしていない。そもそも、礼をしたいと我を通したのは俺の方だ。それに加えて具合が悪いままの君を連れ出していたら、
菊荷と問志が出会ったのは今から一か月程前のこと。菊荷の大事な装身具を
本来であればもっと早い段階、其れこそ出会ってから一週間も経たない内に決行される予定であったのだが、問志は菊荷と出会った数日後に怪異の過発動を起こすようになってしまった為に在宅を余儀なくされ、結果
「話は変わるが、その
菊荷は、問志の身体から付かず離れず絶妙な距離を保ちながら中空に浮かぶ、真鍮の海月を眺めながらそう言った。
「あっ、
対する問志は、いくらか言葉を
「そうすると、御守りのような意味合いが強いんだな」
「そう、ですね。色んな意味で、御守りです」
「いいと思う。俺みたいに、
人通りが多い所では自分の手で持っていたほうが良いかもしれない。そう忠告する菊荷に問志は頷いた。それと同時に、問志は深い追及が無かったことに対する安堵と、嘘は言っていないが本当のことも話していない後ろめたさが自身の胸を撫でていくのを感じていた。
「三根岸の坊主は曲がりなりにもキキョウ局の人間だったから良カったが、自分が鬼憑きだト明かす相手は見極めろよ?」と、少女が自身の憑き鬼に言われたのは、つい昨夜のことだ。
「母はあまり隠していませんでしたが」
槐の意図が分らず首を傾げる問志に、槐は話を続けた。
「あのな、山奥の田舎町で鬼と人間が一緒に暮らしていたら、契約してナい方が不自然に見えるもんだよ。だけど
「言われれば、確かにそうですよね」
「不肖達を単純に嫌悪している連中なら分り
「……あんまり自信ないです」
「自覚があるなら結構。不肖が言ったことのことの意味もわかったな?」
「はい」
ぎこちなく頷いた問志に、付け加えるように槐が言った。
「なに、別に隠し通セって言ってる訳じゃない。お嬢さんがお嬢さんなりに目利きして、相手を信用して、それで話そうト思ったのなら好きにスればいいさ。それで万が一があった時は、ちゃぁんと不肖が助けてやる」
昨夜の槐からの助言を頭の中で
問志は菊荷が自分を利用するような人間だと思いたくはなかったが、彼のことを良く知らないのも事実である。万が一があれば、槐にも迷惑を掛けるかもしれない。
____もう少し、橙埼さんの人となりがわかってから僕が鬼憑きであることは話そう。問志はそう、心の中で自分自身と取り決めた。
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