星巡りの結末 十五 相対
笑みの形をとる口元とは裏腹に、彼が向ける視線は真剣そのものだった。
天井いっぱいに広がっていたのは、触手のように
「これはまた、随分図体も核もデカい鬼がいたもンだ」と、槐が言う。
鬼の眼球、もとい
童子石の中心に向かうにつれて宵の
「三根岸さんっ、聞こえてますか!!」
少女は吊るされた男、もとい三根岸へ届くように大声を上げるが、気絶してしまっているのか反応はない。
「_____ああなんだ、どうにもそわそわして眠れないと思ったら、人間か」
頭上から、童子石の欠片だけではなく声が降ってきた。三根岸に代わって問志の声へ応えたのは、この空間の
その声は
……その
「どうやって入り込んだのか知らないけれど、
鬼の言うあの子とは三根岸のことを指しているのだろうか。問志が確認を取るべく言葉を紡ごうとしたその刹那、問志と槐の頭上高くから彼らを見下ろしていた眼球、もとい童子石の中心が、焦点を合わせるかのようにぐるんと問志に合わさった。
「……いいや、違う!!
鬼の声は、歓喜に満ちていた。
「っ、違います!!僕は初対面です!!多分!!」
問志は即座に否定するも、鬼は止まらない。
「直ぐ君がそうだと気づかなかったのは私だけれど、そんな釣れないこと言わなくたっていいだろう。ずっとずうっと待っていたんだ。……あれ、違う。待っていない。二度と戻ってきて欲しくはなかったのに。私はちゃんと言ったのに。どうして、君は戻ってきたんだ」
少しずつ場の空気が変わっていっていることを、問志の肌は敏感に感じ取った。
「おいおい、お宅のあの子は
槐が傘の先端を未だ宙づりになったままの三根岸へと向ける。しかし鬼は槐に応えない。
「だけど駄目だな。駄目だってわかっているのにこんなに嬉しいなんて。嗚呼、愛しい
鬼の眼にも耳にも問志以外は認識されていないとでもいうように、沼色の彼女はその長い髪の束をいくつも問志へと伸ばす。
「槐さん、ギリギリまで手は出さないでくださいね」と、問志は今にも仕込み刀を抜かんと構える槐を制止して、蛇のように蠢く髪の束の向こう、天井へとめいいっぱい声を張り上げた。
「僕は
「……私の名前を知らない?君はあの子じゃないのか?」と言った鬼に、問志は頷く。
「でも、あの子は背丈が高くなくて。顔つきだって、丸くて」
「三根岸さんと貴方が分かれてから二十年近く経っていると聞いてます!!」
「人間二十年もありゃそれぐラい変わるもんダろ、箱入りのお嬢さん。見た目の変化を不肖たちの認識でいちゃあ何人待ち人が居たって会えっこない」
髪で出来た波が引いていく。
「……本当に?」
「本当だっての。ソれに、このお嬢さんは不肖のだ。勘違いで持って行かれちゃあ困るんだよ」
「だけど、こっちのかねつぐ?は、私に何も話してくれない。人形じゃないのか?私が使っていた
「違います違います!!今ちょっと気絶してしまっているだけで!!あ、だからあんまり雑に揺らさないであげてください落ちてしまう!!」
三根岸の身体は地面から五メートル以上離れている。下手をすれば死んでもおかしくはない高さだった。
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