星巡りの結末 十 銀の鏡と水面
「此処のことをよくご存じだったのは、お仕事が理由じゃなかったんですね」
「まあね。そもそも私がキキョウ局に入ったのも、彼女の情報を集める為だったから。おかげで全てが終わる前に此処に来れたのだから、二十年弱の労働が報われたさ」
そう言って帽子を被り直して立ち上がった三根岸は、
「命令違反はしたけれど流石に民間人を巻き込む気はない……と、本当なら言いたい所なんだけれど、ちょっと君達も彼女、___この怪異を産み出している鬼の元まで、潜る覚悟を決めておいて欲しいんだよね。
「……さっきの部屋にも、それらしきものはありませんでしたね」
十ある部屋の内、半分は既に探索を終えている。三根岸の予想が当たる可能性は、決して低くはないだろう。
「幸い
「……で、其れの
「いないよ」
「は?」
「十の部屋に彼女の本体は無い。全ての部屋を定められた順序で出入りして、初めて
「お宅は全部の順序を覚えている、と思っテいいんだな?」
「勿論。そう考えると君達は運が良いと思うよ。怪異の中に取り込まれた時点で、運は悪いけれど」
◆ ◆ ◆ ◆
「この部屋にある残りの出入り口はこっちの襖だが、中は蛇ノ巣みたいになってる......って、坊主は何しテんだ?」
三番目の部屋に移動するべく槐は蛇と蓮の描かれた襖を指さしたが、三根岸はそちらには見向きもせず、白い月のような窓の前へと立っていた。
「その襖は順序じゃない。次の次に通る必要はあるけれどね。さて、ちゃんと開いてくれよ」
三根岸はそう言うと、冷たく堅い硝子を手の甲で三度ノックした。
途端、硝子に刻まれていた波紋が、本物の水面のように動き出す。歪み、揺れ、時に跳ね。それに伴って白飛びしていた筈の窓の向こうの景色は、白い身体に青い装飾を施した犬張子と、床に散乱する玩具へと変わっていく。
その様子は紛れもなく、怪異で出来た部屋と部屋を繋ぐ境界のそれで。
「……もしかして僕ら、三根岸さんが居なかったら割と詰んでませんでした?」
「…………詰んデたかもなぁ」
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